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ERSRさんのギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~の長文感想

ユーザー
ERSR
ゲーム
ギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~
ブランド
WHITESOFT
得点
71
参照数
396

一言コメント

ソファの上の理想郷でしか生きたくない、というSOS

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想



キャラの個性、BGMはそのまま。
絵の劣化というのは正直あまり感じなかった。

また、凛堂 禊役の声優さんの降板に伴い、青山ゆかりさんが代役に。
意図的に前任者の喋り方を真似た演技は、ゆかり教育特別授業と言える。



ループのある世界=やり直しが効く世界であるため、過去や未来を大切にしない
=このゲームの世界

ループのない世界=やり直しが効かないため、能動的に生きる必要がある
=普通の現実世界

天音という天使は人間のループを奪うことで、世界を破滅から救う、という。
そして客観性を持った目として主人公とシャールカ先輩のどちらかを
天使のタワーに招聘し、天使のサポートをして欲しい、と。


天音との対立と論戦を経て、結果的に選択されたのは、人格のない世界。
選択をせず、子供たちのものとなった世界。
「ソファの上の理想郷」

人格なんてもともと俺たちにはなかった。
人生はそうじゃない、箸を持つ時に、いちいち人格=地の文なんて意識はしない。
人格なんて飛び石を線でつなげたもの。

ループを奪われた叶は道化であり、
道化として生きるために「悪=否定する力をもって、肯定を行うこと」を必要とした。


色々と解説をしてくれているものの、すっきりとはしない、弱々しい、そんな感じ。

声すら無くなった人格のない世界で災厄を生きるのが理想郷なのか。
人格なんて無い、俺は道化です、だから悪が必要なんだ、と。まあ分かる。
災厄=現実を生きるという言葉のリアリティも分かる。

でもスカイプで話していた母親が実はプログラムで存在しなかったとか。
親が子供だったら子供は幸せ。そうだろうか。逆じゃないのかな。

現実に生きる上でのヒントや励ましは無く、
ライターの世界観を提示した、という感じ。

一人の人間を完全に理解するのは難しいし、その必要もないでしょう。
ただ、読んでいてはっきりと苦痛を感じることは無かったので
それなりに真剣に作られているのは分かる。

やや独善的で自己中なのが難点。
理念とストーリーが絡んでいないというか。理想郷なのに楽しくない。
だから読み物としては、良い部分と悪い部分が相殺されて、普通という感想になってしまう。

こういう手法は、この手のパッケージだからこそ実現できるのかも知れないが、
シナリオを通じてメッセージを込めて欲しいなと思った。

観察力に優れ、キャラゲーとしては前作共和国のような傑作を作れるのだから、
あとは読者が引き付けられ、楽しめるようなストーリーだけなんじゃないかな
なんて思いました。

面白いことは面白い、でも拭い切れない世界観の相違がある。
このライターは根底で人間が嫌いなのかな。
自分的にはこの作品は、SOSに感じてしまった。