一人じゃないって、素晴らしい!
良いゲームでした。テンポの悪さが玉に瑕ではありますが、白かったです。水守萌え、青葉萌え、そして何よりストーリーの盛り上りにおけるテキストの完成度が非常に高い。各ルートにおいて、昴がヒロイン達に対して心動かす様もしっかりと描写されています。伝えたいテーマも一貫しており、全ては「昴」。寄り添い支え、支えられることで人は成り立っているという軸を一切ブラすことなく、大切に語っています。まさしく、『一人じゃないって、素晴らしい!』ということなのですね。
しかしコモンエンディングとは言いますが、実質的にはトゥルーですね。そしてこのトゥルールートが抜群に良かったです。向き合わねばならないものと向き合い、唯一何からも逃げることをしなかった。八島のじいさんや竜さんなど、サブキャラ達のかっこよさも存分に発揮されていましたね。彼らと心を通わせるシーンでは、思わずうるうる来てしまいました。
そして何よりもこのゲームの完成度を一段と押し上げているのは、アフターストーリーの存在でしょう。旧世界に絶望した「俺」の目に飛び込んできた、昴たちが精一杯に生きた普通の日々の証。“We've been there”の文字を見たとき、ここに至るまでに経てきた痛みや喜び、その全てが一気によみがえって、思わず号泣していました。青葉ルートでは無駄であることをも受け入れ、その上で前を向きましたが、無駄ではないのです。我々のありようを決める想いは、必ずや受け継がれ、滅ぶことはない。今日から続く明日へと、繋がっていくのです。
以下は各ルートの感想です。
夕陽ルート
良かったです。滅亡発覚から夕陽とがんちゃん、二人の関係は複雑に揺れ動くのですが、節目節目の理由付けや心情描写がとても丁寧でしたね。無力感にコンプレックスを持っていたがんちゃんは、実は夕陽を守っていただけのつもりが、同時に彼女にその心を守られていた。これに気付くことでがんちゃんは夕陽への愛情を自覚するのですが、そこへの伏線の張り方も美しい。中盤の山場として、いつもと変わらない夕陽の明るさに耐えきれず、彼女の純潔を散らそうとしたがんちゃんを、夕陽が包み込むように受け入れるシーンがあります。これは言ってみれば、普段はがんちゃんに頼ってばかりの夕陽が、初めて彼に面と向かって頼られた経験であるワケですね。この時点で、夕陽がいかに自己のアイデンティティにとって重要な役割を担っているかにがんちゃんが気が付くことはないのですが、ユーザーからしてみれば、それを十分に予感させるに足るものであったと言ってよいでしょう。
夕陽の課題は、両親という頼れる存在を一気になくしてしまったことによりエスカレートした他者依存でした。それが上記のような出来事を通じ、ただ依存するのではなく、ただ自立するのではなく、昴を支え、また支えられる関係に落ち着くという解決を見た、文句無しのルートでしたね。
個人的に夕陽ルートの中で最もツボだったシーンは、自らの自立を示そうとした夕陽が、喫茶店でがんちゃんの会計を担当したシーンですね。がんちゃんが頼んだのは800円のAランチだったのですが、夕陽はそれを無意識に、過去の値段であった780円として処理しようとします。これはレジの打ち間違いを多発させていた夕陽のため、がんちゃんの提案によって行われていた価格改訂だったのですが、夕陽の無意識はしっかりと、過去のがんちゃんの痕跡さえも否定しようとするワケです。歯を食い縛って涙をこらえ、「ほら、一人でもちゃんとできるでしょ……?」という態度を装い、必死にもうがんちゃんは必要ないのだと主張しようとする夕陽の健気な姿は、この上なく私の胸を打ちました。
青葉ルート
すんげぇ良かった……!ボーイッシュなヒロインが本当は女の子らしくしたいと思っているという類型は数多いですが、青葉の場合はひと味違う。序盤の情報だけで判断すると、家族を捨てて男に走った母親への憎しみが女らしさとの距離を産み出しているように見えるのですが、彼女の抱える問題は、ここからもう一歩進んだところにあるのです。
それは女ばかりに囲まれていた昴の望んだ、“男友達”に自分がなろうという自己犠牲。昴と共にこの10年間を歩んできた青葉は、ずっと女の子として彼と接したかった自分の心に蓋をし続けていたのです。夕陽というお姫様が昴のそばにいた分、彼女は自分の居場所をそこにしか見出だせなかったというワケですね。そして幸か不幸か、自身と張り合ってくれる念願の“男友達”を得た昴はその楽しさに溺れ、青葉の本当の姿には全く気付かないのです。
いやーしかし、このせいで青葉ルートの昴は本っ当に情けないヤツになっていますね(笑)。昴の一番になるために続けていた夕陽に勝つための努力も、星のせいで実らないのだと悟った青葉は、憎んでいた母親譲りの“女らしさ”で昴を誘惑しようとします。この時の立ち絵の挑発的な表情と言ったら、植田先生の技術がこれでもかと光る光る。そんな彼女の姿に苛立ち、自分が必要としていた“男友達”の青葉はもういなくなってしまったのだと昴は嘆くワケですが、これがもう本当にダサくて仕方ないのです(笑)。二人の秘密基地で青葉が語った村娘の物語も、その時彼女が爆発させた「貴方のことを愛している、ただの女の子だよ!」という悲痛な叫びも、「青葉」を失ったと思い込んでいる彼の心には響きません。翌日彼女にあったときも、失われたそれまでの青葉が彼女の真の姿であるのかどうかをまったく吟味しようとせず、盲目的に自らの悲しみの中に閉じ籠ろうとします。この辺りは本当に読んでいて辛かった。ただ、青葉も青葉で、昴に対して「無敵の王子様」という幻想を抱いているのですね。昴の寂しがる姿には敏感に気付くのですが、彼の一番になれない自分なんかという自己肯定感の低さと、強くていつでも助けに来てくれる王子様という認識が合わさって、「青葉」を必要とする昴の弱さを認められないでいるのです。こうした二人のすれ違いが、問題の根幹にありました。
ただしかし、本当の青葉に気付いてからの昴ははちゃめちゃにかっこよいですよ!行方をくらました青葉を秘密基地で見つけ、10年ぶりに女の子の青葉へと彼は語りかけます。「男友達」の青葉でもない、「女」の青葉でもない、それらを裏で操っていた、8年前の約束からずっと動けないままでいる女の子の青葉と、やっと結ばれるのです。二人の関係の集大成となる借り物大障害やフォークダンスは勿論最高に好きなのですが、青葉ルートで一番好きなイベントはと言われると、この初めて二人が結ばれるシーンでしょう。ぎこちないけれど、ただの昴とただの青葉として二人が心から向き合う様は、本心に気付けないでいた/隠し続けていたこれまでを思うにつけても、最高のご褒美といって良いでしょう。とても幸せな時間でした。何より初々しい青葉が可愛い。置き去りにされたまま、成長することの出来なかった女の子が少しずつ恋を知っていく様は、何物にも変えがたいものがありましたね。
水守ルート
すんげぇー良かった……。このルートの特徴的な点としては、星の衝突が発覚する前に、女の子の問題を一度解決してしまうことが挙げられます。
都会から病気の療養の為に越してきた水守は、その病弱な身体のために自らを他者にとっての邪魔者としてしか認識出来ません。加えて自分の身体を巡って両親がつい先日離婚したばかりであり、その自己肯定感の低さに拍車を掛けている状態です。
そこで例のごとく、彼女の救いとなるのが我等が昴。このルートの昴は終始かっこいいですねー。水守の影響で精神的に安定しやすいというのもあるのですが、夕陽をレイプしようとしていない点が最も評価高いです(笑)。
そんなワケで昴は、孤独の中に閉じ籠っていた水守へと踏み込んで、彼女の身体を気遣うばかりではなく、「普通の女の子」として扱います。彼女に友達という存在の何たるか、彼女自身がいかに必要とされているかを教え込むのですね。娯楽の一つもない場所だからこそ、人と人との繋がりが大きなウェイトを占める田舎ならではの関係性は、何も出来ない自分を嫌っていた少女の心に深く刻み込まれます。こうして昴と「普通の日」を過ごせるよう、彼女の奮闘の日々が始まったわけです。
ワケですが、この無鉄砲な水守の姿が可愛くて愛おしくて仕方がない……!「普通」であるためならどんな無理も押し通して、昴の腕の中へと一直線に飛び込んでくるような感じですねー。初めての恋に浮かれて、楽しくて嬉しくて仕方がないという感情がよく表されていました。その彼女の実直さはいわばあざとさにも繋がるわけでして、これがまた萌える萌える。本を高いところの棚に返そうとするときにこちらをチラチラ見てきたり、鍵の授受だけで両手を包み込んできたり、冗談の中でさらっと自分の気持ちを打ち明けてきたり。それまでの日々を取り戻そうとするかのように奔走する水守の姿は、一際愛おしいものがありますね。
こうした水守との交流の中でも最も印象的なのは、昴の教えを彼女が吸収し、そして昴へと還元している点でしょう。それは自身がいかに周囲に必要とされているかというシリアスなものから始まり、恋人免許というちょっとした冗談まで様々です。昴の存在が空っぽだった彼女の中で息づいていく様は、水守の中で彼がいかに大きな存在であるかということを示しています。
そして水守の努力の甲斐あって二人は結ばれるのですが、彼女が自身の強さの本質に気付くことで状況が一転します。みんな死の先にある喪失を恐れていたのであり、彼女が死による恐れを克服したかのように思えていたのは、それによって喪失すべきものを、何一つ持っていなかったからだということに気付くのです。これこそが、昴たちや彼女本人の目に映っていた、水守という少女の強さのからくりでした。
そこから水守が立ち直るのに、劇薬
を必要としなかったというのがこのルートの最も美しく、そして評価すべき点であると言ってよいでしょう。昴が変えた水守という少女が昴のことを支えたように、再び迷い子となった彼女は、昴によってまた支えられるだけでよかったのです。あたかもあの夜の電話で水守が昴に告げた、彼の名前の由来のように、寄り添い、支え合うだけで、彼女はまた歩き出せるようになったというワケですね。これは先ほど述べた、吸収という水守と昴の関係性をよく表したものとなっており、明確なコンセプトの表明に思わず脱帽でしたねー。大好きです。
水守ルートはそれこそ夜の電話や初H時のきゅっと閉じられた目に爪先といった乙女成分マシマシの大好きなシーンが多く、どれが一番にお気に入りかは決めがたいのですが、やはりラストの星空の下で二人語らうシーンでしょうか。ここで二人は流れ星に願いを掛けるのですが、前述の「昴」の由来を踏まえた水守が、「手が届いた、たった一つのお星さま」と昴のことを形容して彼に願いを掛けるのですねー。これまでの交流が感じられる、過去の二人自身の発言の引用の応酬に、極めつけはあの水守の嫌いだったパンセでの〆。つくづく、綺麗に伏線の回収されたルートだなぁと感じます。
朝陽ルート
夕陽に何ら非はないのにもかかわらず、悲劇のヒロインぶった態度を取る姿に苛立ちが止まりませんでしたなー。何よりそばにいるときは夕陽のことをずっと見守っていながら(昴に任せたと言いつつ)、彼女が閉じ籠った理由が分からないと連発して昴にすがったシーンには流石にドン引きでした。ずっと閉じ込めていた中学生のままの彼女が根底にあるという点を加味しても、ボクには受け入れられなかった。夕陽の気持ちを知りながら、彼女にとって昴がいかに大切な存在であるかを知りながら、夕陽のためと言って彼にすがった朝陽の卑怯さが、ボクにはどうしても許せませんでした。
しかも昴も昴ですよ。夕陽が部屋に閉じ籠っている時に何度朝陽のことを抱き締めるのですか?キスするのですか?そんなだから自分のことを考えていないと夕陽に図星を突かれるのですよ。さも自分は悪くないかのような様子で朝陽の謝罪を横で聞いているのは、ちょーーーっと違うのではないかしら。加えて夕陽への想いには朝陽に質問を投げ掛けられて初めて言葉にしますし、情けないのですよね。青葉の時と違って自省しないのが何とも言えない、本当に。
そして夕陽は皆が間違えたと言いますけれど、ずっと守られることを強制されてきた人間が、自発的に手を挙げることなどできますか?彼女は頼ってくれないということを意識していて、それが故に閉じ籠っています。何ともまぁ、ズルい解決であるように感じますね。
とはいえそれを除けば!立ち向かえる強さを持った朝陽は好きですし、まどろむ昴を横目に会話する姉妹など、好きなシーンも多いのです。ラストだってこれが一番の大団円だと思いますしね!大好きですしね!ただそこに至るまでの過程への不満が、違和感があまりにも大きかったというだけで……