守れなかった約束はあった。それでも六条屋敷から見えた島の景色は、あの約束の頃のまま
劇的なことは起こらない、別れを回避することも出来ない、つぐみ寮も、海己なくしては守ることは叶わない。それでも私は、この物語に一つの不満も抱くことはありません。航たちは自分たちの力で立派に帰るべき場所を守り通し、純粋な悲しみに満ちた予定調和を、その手で掴みとったからです。茜ルートで描かれた航の決意の行く末については、他エンドのみんなの姿を見れば、最早言わずもがなでしょう。キメるべきところを最後には外さずきっちりキメる、丸戸作品らしい、主人公のかっこよさが光るシナリオでした。
ヒロインについて、歯を食いしばって航の幸せを願った海己、ダメダメでも120%の全力で航を守り切ったさえちゃん、そして想いを胸に秘め続け、いいものを彼に返せればと航の側にあり続けようとした茜などなど……語りたい点は無数にあります。しかし一番に惹かれてしまうのは、やはり厳しさの中に込められた大きな愛情が垣間見えてしまう、会長の優しさではないでしょうか。中でも私のお気に入りは静ルートの終盤、航が寝不足と栄養失調で倒れた際のシーンですね。傍若無人に振り回す分、決して他の誰にも手出しをさせることはない、そんな彼女の愛情が、後は私に任せろ、私の子分をこんなにしやがってと言う彼女の言葉の端々には表れていました。他のどこよりも涙したシーンです。