面白いか面白くないかで言えば、かなり微妙なラインを攻めた作品。テーマを作中で常に語っているがその中身は空虚。シナリオゲーを謳いながら、肝心のシナリオが空疎な駄作。
本作品のテーマは、「クリエイターの矜持」というものに他ならないだろう。
これはメインヒロイン「逢桜」ルートや共通ルートで嫌になるほど語られていることから、容易に推察できる。
シナリオ:
正直に言おう。私はこの作品を「駄作」だと感じた。
もちろん、ここには個人差が生じるだろう。
例えば、プレイヤー自身がクリエイターとして活躍していて、登場人物に共感を覚えた場合などだ。
私個人はクリエイターとしての経験はない(個人制作ツールや、インディーゲーのC# Modding経験はあるが)ため、彼らの矜持については十分に理解できなかった。
……だが、そこで終わりではないと思う。
まず、ゲームとして大前提となる「クリエイター」とは何か、「クリエイターの矜持」とは何か、具体的にどのような思考パターンなのかを、作中で語るべきだったのではないか。
そもそも、クリエイターというのは、なにか訴えたいことや、実現したいことがあるからこそ、創作したい意欲などが芽生えるものなのではなかろうか。やる気出たからその日に徹夜してひねり出して作るものなのか?
プレイ中ずっと疑問に思っていた。彼彼女らは、事ある毎になにかしら無理してひねり出して作っている描写がある。
アイディアというのは、日常の中でひらめいたことや、ふとしたアイディアや気付きを元に作っているものだと思っていた。
無論、「クリエイターってそういうもんだよ」と言われれば、私は黙るしか無いが。
このゲームでは、「クリエイター」という言葉が嫌になるほど繰り返される。
しかし、その中に深い意味は見出せなかった。
むしろ、本物のクリエイターですら不快になるほど、安易な形で使われていたように感じる。
『クリエイターだから、命よりも創作活動を優先する』
……だから何なんだ、と。作中で死にかけのクリエイターやその取り巻きに対し『命の方が大事だろ!』と諭すシーンがあったが、その反論も同じように「真のクリエイターはこう考えている」という謎の持論を繰り返すだけで、何の反論にもなっていなかった。
シナリオライター自身、後に引けなくなっていたのかもしれない。
意味不明だが、プロットができ上がっているのだから、「クリエイターの矜持」ということにしておこうと。
なんと便利な言葉だろう。
それから気になったのは、主人公やメインヒロインを含む主要キャラクターたちのほとんどが、まるで「なろう系」のようなチート能力を持っていることだ。
「おいおい、それくらいはフィクションなんだから」「嫉妬してるの?」「大人げない。設定を楽しめ」などと言われそうだが、
作中の地の文で『これは現実だ。創作なら起こり得るだろうが、現実では起こり得ない』と述べられているのだから、それに照らし合わせて考えてみよう。
「主人公(寿季)」 … CNGという学園で知られているギャルゲーのヒット作のシナリオライター。何やら才能があるらしく、頑張れば何百人もいるノベル科生徒を差し置いて最優秀賞を取れる実力の持ち主。
「逢桜」 … 中学生(と思われる)時にベストセラーを連発し、何度も映画化された恋愛小説家。初登場のメインヒロインだけでお腹いっぱいになった。マジでそんな人材が現実にいるのか? さらに作中では、『経験に基づいたもの』を主軸に小説に落とし込むと描かれている。……中学生の経験で? うーん、そうかい。
「桐葉」 … 努力の末、授業に出るヒマがないほど多忙な超人気売れっ子声優。まあ、声優なら実在しそうだ。子役出身の人もいるからね。
「ゆめみ」 … 現実逃避のために絵を描いていたら、超人気になった天才同人イラストレーター。天才と呼ばれるだけあって、特に勉強せずに真似ただけで描けるようになったという、ご都合主義の塊のようなキャラクター。
「エレナ」 … プロットを一切書かずに、脳内で完成した物語を書き下ろしただけで大ヒットするシナリオを生み出せる天才シナリオライター。一番しょうもない設定だ。ちなみに作中ではこの描写しかなく、ひたすら天才と評されるのみ。
「結菜」 … 努力家の同人イラストレーター。そして、10万人以上のファンを抱える兼業Vtuber。ゆめみ同様、同人活動に励んでおり、めちゃくちゃ忙しいらしい。へぇ~すごいね、としか言いようがない。
ここまで書き起こしてみると、「これのどこが面白いの?」と思わずにはいられない。個人的には、最初は皆無名のクリエイターの卵で、徐々に才能を開花させていく方が、もう少し輝きが出たのではないかと感じた。
グラフィック:
フルHDに加え、ゴージャスで鮮やかな色彩表現が特徴だ。
さらに、スクリプトが読み込まれるたびにキャラクターの表情が刻々と変化するため、まるで生きているかのような印象を与える。
これは素晴らしい出来栄えと言える。同じく吉里吉里Zを利用している「ゆずソフト」の作品と同等の表現力を誇っている。
サウンド:
うーん、普通かな。3日もすれば忘れてしまいそうな曲ばかりだ。
エッチシーン:
とにかくマンネリ。全てのキャラクターで、まるで工場のように同じパターンのエッチシーンが繰り広げられる。
これで抜けるのか? 私は勃起すらしなかった。残念至極。
ロリ度:
私はロリコンなので、独自の評価基準として「ロリ度」を設けている。
さて、このゲームのロリ度だが、あまり高くないかもしれない。だってエッチシーンで途端に巨乳化するのだから。
エロゲだからやむを得ない部分はあるにせよ、立ち絵であれだけ貧乳なのに、なぜ急に発育するのか理解に苦しむ。
とは言え、ロリヒロインとして「ゆめみ」のポジショニングは良かった。
「従姉妹」が「お兄ちゃん」と呼ぶのは中々に萌える。そもそも原画家自体がロリを好んでいないのかもしれない。
致し方ないとは思うが、今後はあまり期待しないことにしよう。
総評:
「創作彼女の恋愛公式」は、一言で言えば"惜しい"作品だった。
「クリエイターの矜持」というテーマ性は興味深いものの、肝心の描写が表面的で、深みのある議論に発展していない。
本作の最大の問題は、シナリオゲーを謳いながら、肝心のシナリオが空疎なことだ。
登場人物の感情描写は機微に欠け、どんでん返しなどの劇的展開もほとんどない。
淡々と進行するストーリーに、真剣に没頭できないもどかしさを覚える。
メインヒロインのルートでとある事実が発覚するが、それについても「はいはい、泣かせるためのいつものやつね」と感じざるを得なかった。
ゲーム作中では、恋愛感情についてのくどいモノローグや、天才クリエイター同士の自慢話に費やされる。「お前何作った?」「俺の作品、次映画化したぜ!」みたいな内輪ネタを延々と聞かされるのは正直退屈だ。シリアスシーンでも、「こんなことで悩むの?」と突っ込みたくなるような些末な問題が繰り返されるばかり。緊迫感やドラマ性に乏しい。
登場人物たちも非現実的な天才揃いで、共感を得にくい。
グラフィックは優れているものの、シナリオやキャラクター造形の不備が目立ち、作品の完成度を下げている。
エッチシーンのマンネリ化も気になるところだ。ロリヒロインの扱いも雑で、ロリ属性を活かし切れていない。
全体を通して、設定やテーマ性は悪くないのに、肝心の中身が伴っていないもどかしさを感じる。
「クリエイター」を美化するだけでなく、その葛藤や努力、成長のプロセスをもっと丁寧に描けば、よりインパクトのある作品になったかもしれない。
総じて、「創作彼女の恋愛公式」は平凡な学園ADVの域を出ず、惜しくも名作とは呼べない一本だ。
だが、テーマ選びのセンスは悪くないだけに、惜しまれる。今後の改善と発展に期待したい。
また、本作品の中央値が80であることに驚きを隠せない。
やはり昨今の作品はプレイヤー層が変わったこともあり、点数傾向が変わってきているのだろうか?
これが10年前に出ていたとしたら、とても80点なんて点数は出るとは到底思えないのだが。
erogamescapeにおいては、70点が「可」とされるようなエロゲに与えられることが非常に多いことから、私はこの基準に基づき、68点という評価をした。
グラフィックは素晴らしい。声優も棒読みなところは一つもなく、ベテラン揃いで及第点。
UIは知らない。最低限使えれば構わないが、キーコンフィグがガバガバでESCを押したらゲーム終了する動作に終始イライラした。
最大の汚点。シナリオは二度と読みたくないご都合主義の塊キャラクターで散りばめられており、カタルシスを感じられない平坦なシナリオ構成。
「良」な部分がある作品に、ゴミが詰まってしまったために、「可」以下となったと思っていただいて差し支えない。