本当にありがとう。美しい物語でした。
さて、すごく大ざっぱな質問ですが、物語に必要なものとはそもそも何でしょう?
カッコいい登場人物? 壮大な設定? それとも世界を揺るがす大事件? どれもがFateには含まれていますね。ただ、それらはあくまで物語の飾りつけにすぎません。
物語に最も必要な最低単位は、「心」と「行動」の2つです。
なんじゃそりゃ、と思う方も多いでしょうが、どちらかが欠けている"物語"を想像すると分かるかもしれません。
例えば、主人公が延々と思索を続けるだけの話だったら。あるいは、首相動静のように淡々と日々の行為を綴るだけだったら。ほら、それらは物語ではないでしょう?
物語とは、行動が心に影響を及ぼし、そして心が行動の理由となる、その流れの連続を指すのです。
そしてその「心」と「行動」の視点から、このFate(セイバールート)を評価したときに、この物語は間違いなく傑作でした。
要するに、どうしてそのように心情が変化して、どうしてそのような行動を取ったのか? Fateの3通りのルートのうちここを最もうまく書けていたのがセイバールートであり、そして他のあらゆる物語に後れを取らないものであるとも言えるでしょう。
60時間にも及ぶ旅路の中の最も輝くハイライトは、「聖杯による過去の改竄に14日目までこだわったセイバーが、なぜ15日目に聖杯を破壊したのか?」という点だと考えています。
セイバーは自身の信念に忠実でした。それは魔力を得るために人間を襲うのか、と士郎に尋ねられたときも、あるいはアサシンに自己紹介という形で真名を明かされたときも、信念に背くことはできないんだという意思が表れていました。
また同時に、セイバーは本当に頑固者でした。士郎は何度も何度も説得を試みましたがことごとく失敗し、そして14日目のデートからの帰り際に完全に決裂した、ように見えました。
しかし彼女は翌日には聖杯を破壊している。これは何故か?
......このルートを読み終えれば明らかですね。トラウマを背負いつつも、その過去を頑なに変えない士郎の姿に感銘を受けたからです。ここについて、少し詳しく見ていきましょう。
聖杯の力で過去(火事)を帳消しにできますよ、と言峰が士郎に言います。士郎は受け入れるだろうな、とセイバーは考えました。だって自分も過去(王の選定)を帳消しにするために戦っていましたから。
しかしこれを士郎は拒否します。「置き去りにしてきた物の為にも、自分を曲げる事なんて、出来ない」。【行動】
これを聞いてセイバーは衝撃を受けます。絶対に過去を改竄するんだ、という信念を貫きつづけた彼女でしたが、過去を改竄することこそが自分を曲げることだということに気が付いたのです。【心】
そして次に言峰が士郎の命と交換でセイバーに聖杯の取得を持ちかけます。彼女は先ほどの士郎の発言を反芻し、そして自分の過去を振り返り、「そのような物より、私はシロウが欲しい」「聖杯が私を汚す物ならば要らない」と発言しました。【行動】
美しいですね、この流れが。あんなに切望した聖杯が『私を汚す物』だと気が付き、本当に大切にするべきだった信念に真っすぐに生きることを選び取れたのです。
また、セイバーが士郎に惚れたのも恐らくこの場面なのでしょう。信念について真っ向から対立している人に「愛している」とは言えませんから。
......さて、長々と語ってきましたが、要するにここが私の最も感銘を受けたシーンです。それも、わざわざこうして書きたくなるほどに。
Fate、そしてセイバーとの出会いに感謝を。それはそうと中古ショップでPC版を見つけたので買ってきました。今日はこれで抜きます。