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Cascadeさんのそして明日の世界より――の長文感想

ユーザー
Cascade
ゲーム
そして明日の世界より――
ブランド
etude
得点
96
参照数
1250

一言コメント

愛と友情に溢れた世界。生きてるってこんなにも素晴らしい。  (ネタバレ部分は後半にまとめて離してあるので、未プレイの方もどうぞ)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

<初めに>
ネタバレ部分は後半にまとめてあるのでご安心を。
プレイ前の方は前半だけお読み下さい。


<概要>
ある日突然、終焉を宣告された世界。
その迫り来る、避けようの無い終わりに向き合いながらも
互いを思いやり、助け合い、残された限りある僅かな時間を
精一杯生きていく少年少女達の物語。


<シナリオ>
愛と友情に満たされた物語。
健速さんのシナリオのゲームは初めてプレイしましたが
ゲームでこんなに涙が出たのは久しぶりです。
昨今のゲームにありがちなブラックジョークやご都合主義に頼らない、清らかで暖かなシナリオ。
「"生きる"とは何か」という、ある種哲学的な命題に挑戦している物語で、
世界の終末を描いているにも関わらず、背徳的や退廃的といった負の表現がほとんど無く、
生きる事の素晴らしさ、人の温もりや愛情を肌で感じられる素晴らしいシナリオでした。


<グラフィック>
緻密でありながら柔らかな筆遣いの美しいCG。
一枚絵のCGも綺麗ですが、特筆すべきはヒロイン達の立ち絵や背景。
表情豊かで個性に溢れたヒロイン達と、その背景の組み合わせで
一枚絵と言っても遜色無い構図が作り出せるほどのクウォリティの高さ。
私なんか、シナリオ進めながら「あ、この表情良いなぁ」「この組み合わせ、壁紙に使おう」
などと考えながら、SS撮りまくってました。

太陽光のプリズムや背景の雲の流れなど、
目の前に本当に世界があるかのように錯覚するほどの演出力の卓越さ。
それに、食卓や風呂などの、固定され矛盾が生まれがちなシーンの表現も
敢えて"そのもの"を描かない事により、矛盾無く、且つその場の雰囲気を的確に表現している。
こういった些細なこだわりに、技術力と表現力の突出した高さが感じられる。


<サウンド>
言わずと知れたI'veサウンド。
その美しくも儚げなメロディは、もはや匠の域。
文明から取り残された、南海の孤島。
その穏やかな時の流れと優しい世界観を、見事に音で表現されています。
さすがとしか言えないですね。
美しいシナリオと相まって涙が溢れる事請け合いです。


<葦屋昴とゆかいな仲間たち>
みんな心優しく、暖かく、とても魅力的です。
中でも、私が気に入ったのは御波ですね。
穏やかな中にも、芯の強さを感じさせる仔猫のような澄んだ瞳に魅入られました。
ちょっとおちゃめさんな所もたまりません。
それに表情がくるくる変わって可愛いこと可愛いこと。
特に笑顔がすごく魅力的で、一点の曇りも無い笑顔ってこういうのかな、と思った。

夕陽も好きですね。昴に体全体を使って親愛の情を表す夕陽。
あそこまで素直に心の底から甘えられると、たまりませんよね。
寝ぼけ顔で「あぃお~」とか「あぃあぃ」とか言われた時は
首に腕を回して頭撫で回したくなりました。

主人公の葦屋昴をヘタレと言う方もいますが、私はそうは思わない。
人間、このような終末の世界に突然放り出されたら、
誰だって我を失うでしょう。周りが見えなくもなるでしょう。
変えられない運命に苦悩し、足掻き、苦しみ、
それでもなお立ち上がり、時には頼り、頼られ、そして再び前を向いて歩き出す。
こんな事ができる者を誰がヘタレと言えるだろうか。

そして、特筆すべきは名脇役達ですね。
両親二人・陽おじさん・じいちゃんは元より、
ちょい役の青葉の家族や、御波のパパに至るまで、みんな愛に溢れた人達で
昴とヒロイン達を、影ながら愛し支えてくれています。
これほど脇役の輝いてる作品は稀ですよ。
ほんとに暖かく、優しい人達です。


<総評>
シナリオ、原画、CG、サウンド、それらを取りまとめる演出、
どれを取っても高水準で、非の打ち所が見当たらない。
これほど万人に諸手を挙げて勧められるゲームも珍しい。
まじり気の無い、友情や愛情物語を体感したい人にお勧めです。


<備考>
一つ注意すべき点があります。
他の方も書いてますが、推奨クリア順があるのです。
まずヒロイン毎のルートを4本。(この4本は、あなたのお好みで順不同でOKです)
その後にノーマルEND。
最後にアフターという順です。
ノーマルENDには、他のヒロインルートからの伏線が多数張ってあるので
この順番を間違えると感動が半減します。未プレイの方はご注意下さい。

というか、ヒロインシナリオ4本クリアするまでノーマルルートは開封されないように
フラグ管理すべきだったと思うんだけどなぁ。
中途半端にノーマルEND見ても、何も良い事無いと思う。


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――――――――――――― この先ネタバレあり。未プレイの方は読まないで下さい。―――――――――――――
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――――――――――――― この先ネタバレあり。未プレイの方は読まないで下さい。―――――――――――――
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<シナリオ>
終末世界を、これほど優しく暖かく描いているゲームは初めてだなぁ。
今までプレイした、世界の終わりがテーマのゲームは、
概ね、退廃的で享楽的で猟奇的な
人間の負の部分を前面に出したシナリオのゲームがほとんどで
プレイする前は、どうせコレも…と思っていたんだけど
良い意味で裏切られたよ。

普通、物語というものは、主人公の日常に何かきっかけが起こり、
非日常に踏み込んでいく事で物語が展開する。
確かに、この「そして明日の世界より―」も、
世界の終わりの宣告という、とんでもない非日常なのだけど、
その想像を絶するほどの非日常の中にありながら、
「何も無い一日の素晴らしさ」
「他愛も無い事で笑い合える家族や友達の暖かさ」
という、実は『日常』がテーマなんですよね。
今まで色々な小説を読みましたが、こんな物語は始めてですねぇ。

それと、各シナリオの終わり方が秀逸だった。
ゲーム発売前のデモだけ見た段階では、
髪を下ろした青葉が校舎と太陽を背に叫んでいるCGを、デモの中で
太陽を隕石に見立ててアニメーションしているカットがあるじゃないですか。
その為、プレイ前は「隕石が落ちるその瞬間」まで描くのかと思っていたんですよ。
だから、エンディングはどう収拾付けるのかなぁ、と不安だったんですが、
いやはや、上手い終わり方でしたねぇ。
大災厄の瞬間は描かず、そこに至る過程と、その後のみを描く事で
必ずあったはずの、"その瞬間"を巧みに回避して美しくまとめている。
シナリオライターの力量ってものを感じますね。


<最後に>
ひとつ悔やまれる事がある。
AFTERのエンディングのアメージンググレイスですが、
あれはあれで、プロの歌声で綺麗だったんですが、
私としては、夕陽、青葉に、朝陽姉ちゃんと御波を加えた合唱を最後に聴きたかった。

こういうのはどうだろう?
温泉から吹き上がったタイムカプセルの中に、
写真と一緒にカセットテープのレコーダーが入っていて
AFTERの青年が再生すると、写真の少女達の雑談が流れ始める。
その雑談の中で夕陽が、合唱コンクールで唄った思い出の曲だからと言い出し、
温泉が出た記念にみんなでアメージンググレイスを歌うんだ。
カセットテープの雑音まじりに、みんなの合唱が、朝日が差し込む明日の世界に響き渡る…。
そこで背景が明日の世界から写真に切り替わり、
合唱をバックにエンディングテロップが流れ出したら、もうボロ泣きだったろうなぁ。
それだけが心残りです。
ほんとマジで、ヒロイン達の合唱が聴きたかった。