――過去作が静かに流れる“劇情”
『かみまほ』という土台の上に『イストリア』の空気が流れ、そこの人達には『パラレログラム』の魂が毅然と宿っていた。
演劇っていいなぁ!って思わせる熱量、変わらぬ上手い群像劇に心を抉られた。
選択肢でヒロイン寄りのを選ぶと√分岐。
だがそれは悪魔が悦ぶ√――すなわち現実から目を背ける甘美の始まりを意味していた。
今回も鬱だ鬱だと思って表紙を捲ってみれば、意外とそうでもないなぁとか中盤まで思ってた。
元天才子役の主人公・瀬和環と、彼の幼馴染で男嫌いで女の子が好きな倉科双葉。
座長として横柄に接する天樂来々と、そんな彼に微笑む龍木悠苑。訳知り顔で飄々としている椎名朧。明るい白坂ハナに、真面目な箱鳥理世と双葉を魅了した匂宮めぐり。
劇団ランビリスの面子も個性的で面白く、このまま和気あいあいと進むのかと錯覚しそうになった序盤だったが、座長から天使奈々菜を捜索するよう依頼された辺りから、いつものルクル風が静かに吹き始める。
環が奈々菜を監禁してるのには驚いたし、座長達が亡き者なんじゃないかとも思い始めたが、それよりも紙の匂いを感じ取ってたんで覚悟して先に進む。
そして中盤の山場――劇団ランビリスによるフィリア公演。
その迫力に前のめりになりながら劇中劇に見入る。単体でも素晴らしかったが、そこにくるまでのめぐりの心象が相まって、更に面白く感じた。
万雷の拍手の中で幕が下りるその裏から、ゆっくりと虚構世界が種明かしされてゆく。個別√に踏み込めば、ヒロイン達が現実をポイ捨てする様を甘々テイストが綴る。
それらを振り切り、虚構世界=妹を否定した環が戻った現実とは、燃え盛る劇場のただ中だった。阿鼻叫喚の地獄絵図から、環・理世・双葉は白髪赤目から受け取ったモノを胸に走り出す。
彼らの手で救い出された奈々菜・めぐりにも、あの経験と記憶が確かに活きており、決して生を諦めずに明日を繋いでゆく。
かくして生き残った面子+琥珀は、託していった人々と共に劇団・ルペルカリアを旗揚げしたところでエンドロールが流れる。
まとめ
上質な感傷劇を観終え、有り難い充足を胸に席を立つ。
そして今作『冥契のルペルカリア』のテーマは、月並みだが“愛と罪”だったんかなと振り返った。演出的にも物理的にも燃える展開があり、それは確かに私のココロにくる良いものだった。
また、今回は盤外戦でも抜かりなかった――そう、お約束の誤字脱字にUIの精度だ。体験版でも言ったが、過去作とは見違えるモノが目の前に置かれていた。UIは膳のようなモンなんだからさ。
さらに、特装版なるタイプも発売されたことに勝手な涙を流しながら、次なるルクルを座して待つこととする。
以下、印象深いキャラと台詞。
・倉科双葉
正しく推しを推す姿勢――『相手の思いを尊重できないのなら、恋をすることをやめてしまえ!』(原文ママ)に頷けると同時に耳が痛いのはナゼか。
悪魔の甘言に乗らず、逆にそこで己の“好き”を見つめ直し突っぱねる。なかなか出来やしない。
最後までブレること無き脇役であり、憎まれ口を叩きつつも瀬和環の友人でありつづけた彼女。その尊い在り方は、この薄暗い世界でも燦然と輝いていた。
・天樂来々
どこまでもクズで根暗、だけどその気持ちが解ってしまう“人間”――『この世は本当に、歪だな。だけど俺は、その歪さを愛してやるよ』
その愛し方は粗暴でとても人を選ぶが、中身はツンデレそのもの。悠苑との絆なんてわかり易すぎてニヤニヤしてしまった。
・椎名朧
どこか幻想的な雰囲気を纏った同級生。主人公・瀬和環を心配しつつ、どこかこの劇世界全体を俯瞰してる存在。
理世に零した『好きって、何だろうね。愛とは、何だろう。だけど僕は、思うんだ……それは、相手の幸せを願うことだって』には中々たどり着けないものだ。
終盤、白髪赤目のせいで愛を欲していた青年は瀬和環にI Love Youを告げ、この“舞台”を壊す弾丸となる。
・匂宮王海
影のMVP。時代遅れの厳しい指導を裏に巨匠と呼ばれた演出家。だがその乱暴な言の葉はハナや理世、朧などの救いとなっていた。
作中人物の中では唯一といっていい程、“大人”なジジイだったな。
※特典の小説は読むべき。より世界観に浸れるヨ。