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Atoraさんのお家に帰るまでがましまろですの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
お家に帰るまでがましまろです
ブランド
ま~まれぇど
得点
90
参照数
1485

一言コメント

自分たちのできる事とできない事を、誰よりも把握する。多少の短所を気にして委縮するのではなく、誉められた長所を伸ばそうとする。この作品からは、ブランドの割り切った姿勢が垣間見える。ちょっとだけ背伸びできる条件は整った。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 シナリオという一点において、ま~まれぇどは、突然変異ではなく、着実な進化の軌跡を描いた。

 今思えば、10年ほど前のま~まれぇどのシナリオは、それはそれは、見るに堪えない代物が多かった。ユーザーの思考を緊急停止させるボタンは、一度押されたが最後、基本的に止めることができなかった。物語は糸の切れた凧のように明後日の方向へと飛んでいき、突如として湧き出した地雷臭は、駄作の臭いを辺り一面にまき散らす。こんな残念無念な光景が、秋の風物詩と化していた時期もあった。そのことを思い返せば、この作品は実にマトモだ。此度の新作のストーリーを謗る向きがあるようだが、過去作のストーリーは、それらの比ではないと思う。最近の……具体的に言えば『PRIMAL×HEARTS』以降の不気味な安定感を目の当たりにして、一作目からプレイしているロートルとしては、少しばかりの驚きと、大きな賞賛をもって眺めているところなのだ。


 さて、そんな危うさ抜群のま~まれぇどであったが、幸いにもこのブランドは、当初からビジュアル面での実力が抜きん出ていた。特筆すべきは“塗り”である。毎度のことながら、原画の持ちうる力を最大限に引き出しているCG班は素晴らしい。このブランドが没落するとなれば、そこをおいて他にあり得ないほど、大きなウェイトを占めている。素人目から見ても、当代随一の塗師の実力を目の当たりにしている気がしてならない。原画を生かした“塗り”のレベルは、それほどまでに傑出していると見る。今でこそ、さそりがためさん・ちこたむさん・芦俊さんというお三方のイメージが強くなっているが、みけおうさんの作品から始まったことに時代の流れを感じる。時が移ろい、原画も変われど、ハイクオリティなCGを見られることを感謝するばかりだ。個人的には、後世の研究者がこのビジュアルを見てどのような評価を下すのか、それも楽しみな点だったりする。


 これに対してシナリオはどうだろうか。書き手の意図を疑うほど、突拍子もない展開が多かったのではないか。改めて考えてみよう。

 思い出補正が入っているかもしれないが、私などは、当初から、沈没しつつある船に絵師ご一行が乗り込んでいるような印象を抱いていた。正直なところ、『キスと魔王と紅茶』の大半のシナリオや『らぶ2Quad』などは、なぜその方向に舵を切ったのか不可解に思えるほど、破天荒な進路を示していた。無計画な舵取りに翻弄され、座礁する準備さえままならず、大破して無残な屍を晒していたように思うのである。これらのシナリオは、道理が通る、通らないといった評価をする段階にすら乗っていなかった。脚色を抜きにしても、シナリオの迷走ぶりは本当に……ええ、本当によく今まで残ってくれたと感心している。そんな青臭い作品づくりをしていた時代から考えれば、この『お家に帰るまでがましまろです』という作品は、飛躍的とはいかないまでも、成長した形跡が容易に見て取れる。悪評の発生要因が、シナリオ本体というよりも比較的、主人公その人に集まっている点からも、物語が普遍的なおはなしの舞台にまで上がってきたことを窺わせる。もちろん、万人からお金を払える内容かという点については、また別の問題になるが、進歩は認められるべきだろう。
 努力を認めるは容易いが、それでも、私はこの物語が優れているとは思わない。この物語にさほど深みがないのは、火を見るより明らかである。あくまでも、ある種のライトノベルを徹底して引き延ばした程度のレベルに留まる。そのため、(そう見るべきではないかもしれないが)相対的に見た場合、他のブランドに一歩も二歩も引けを取ってしまうことは明白だ。最終的に、ご都合主義うんぬんという評価になってしまうのは、もはやブランドの御愛嬌と言ってもいいだろう。
 ただし、平行世界の話や巨大宇宙戦艦といった、目を白黒させるようなイレギュラーが出てくることが少ない分、この物語は、まだ救いがあると言える。現実的には起こり得ない話だろうが、以前は極端に針小棒大な話ばかりで辟易していた。この作品でも、突拍子もない展開に追い回されることはあれど、その誇張の質は、過去のそれとは似て非なるものである。物語を読んでいて、白けることは少なくなったように思われる。
 異物感を覚えるほどシリアスを詰め込んだり、機械仕掛けの神々が露骨な登場をしたりする作品はよくあるが、そうやって無責任に手綱を手放すよりも、いっそのこと開き直って、ご都合主義で蓋をして管理する方がはるかに賢明だ。こと、このブランドに限っては、シナリオを暴走させても誰も得しない。よほど頑張って、漠然とした“いいシナリオ”を追求するとしても、せいぜい『キスと魔王と紅茶』のリセリシアスルートくらいが限度だろう。しかしながら、あのルートは、暗闇の中の光ならぬ、光の中の暗闇に等しい。あれ以上のシリアスを他に詰め込めば、従来の明るいま~まれぇどの作風を濁らせかねない。


 ところで、ま~まれぇどのテキストは、エッチシーンになると人が変わったかのように生き生きとする。水を得た魚よろしく、個別ルートの不調が擬態と思えるほど、ねっとりとした描写になる。なんとも不思議な光景であるが、これぞ萌エロゲームブランドならではの反射行動なのではなかろうか。時おり主人公の頭の螺子がはずれて性欲魔人になってしまったり、オタクらしい発言が過多になってしまう点が気にかかるものの、エロゲーブランド有数の主人公びいきのブランドだから、詮無い部分もあるだろう。いずれにしても、近ごろの萌エロブランドの中では、エロに関しては頭一つ抜けているのではないだろうか。これはビジュアルあってこその話かもしれないが、エッチシーンのテキストは、特に同じ個所にあるはずの個別ルートの出来と雲泥の差があると言わざるを得ない。言うなれば、共通で頑張って、個別で息切れしている中で、エッチシーンだけは安定して抜かせてくれるのだ。文章のテイストが違うと言えど、この落差は、もう少し改善の余地があるだろう。
 なにはともあれ、今回は、花音ちゃんの清純ドスケベぶりが際立っていた。他のヒロインもエッチシーンは出来が良く、ドスケベなことをしたいという欲求に駆られたユーザーは多いはずだ。ま~まれぇどのお家芸である、レイプ目までトコトンヤり続けるノンストップHも十分に機能しており、美麗なCGと相まって、実用面での満足度は極めて高いだろう。


 作品としては間違いなく力作で、拙作とは言いづらい。最初期のま~まれぇどからの軌跡を考えれば、明らかに躍進している。ただし、いまだに足りていない部分もあって、私もやきもきしているところはある。制作陣は、気づいていて敢えてそのままにしている節もあるが、シナリオに難があることは隠しようがない。だが、歯ごたえのあるストーリーを作るのは莫大なエネルギーが必要だし、一朝一夕に、そのような物語を紡ぐなど曲芸にも等しい。そもそも、ライトな作風が特徴であるブランドのゲーム作りと、読者を唸らせるシナリオとの相性がいいのかすら定かではない。ユルい意味でシナリオが安定してきた中、また、いたらぬ要素を入れれば、元のま~まれぇどに逆戻りしないとも限らない。
 また、ま~まれぇどが目指してきた「萌えとエッチの融合」という一点においては、その経緯を考えればすでに達成されていると言っても過言ではない。個人的には、これまでのブランドイメージを一掃しそうな博打をうつよりも、部分的に尖った部分を作る方が、不幸な人を増やさないで済みそうだ。今作に関して言えば、エッチシーンの卑語選びはもっと大胆になっても良かったと思うし、ファンには申し訳ないが、花音や汐は構図や展開からしてお尻に挿入するシーンがあってもおかしくなかった。そのあたりで手を打ち、アブノーマルな“おまけ”を噛ませるのも面白い気がした。もしくは、せっかくエロゲー界隈では名うての声優さんをチョイスしているのだから、ボイスまわりの研究に勤しんだとしても、ブランドにとってもユーザーにとっても、なんの不利益もないと思われる。私にとって、このシナリオは悪とは言えない部分が多すぎるので、たった一点だけでいい……突き抜けた要素に挑戦するのも、選択肢のひとつではないだろうかと思った次第である(もちろん、明らかな批判を食う要素はお断りだが)。


 繰り返しになるが、ちゃんとしたストーリーを描きつつ、萌エロもしっかりとした作品が容易く作れるのなら、誰も苦労しない。長い目で見た時に、このシナリオは、着実に前進していると思わせるに足る内容だった。萌エロというオンリーワンの武器に気づき、それを伸ばしてきた成果は出ている。自分の役割を見極めてからは、うまい具合に“萌え”る要素とエロい要素が融合した。今や“萌エロゲ―”ブランドの筆頭格と言っても過言ではないだろう。

 次回作では、もう少し背伸びした作品を望みたい。その前段階の姿勢を作れるブランドは意外にも少ない。ある程度、苦手を苦手と割り切る姿勢は重要だし、私は、それを“逃げ”とは思わない。ブランドが大切にしてきたものがあるならば、それを内包しつつ新たなスパイスを投入してほしい。次回作も期待したい。



【雑記】
 特典CDはもう少し頑張ってほしいところです。この時代にボイスまわりに注力することは、決して悪いことじゃないと思います。