広範な年代をカバーする多彩なパロディや、随所で頭のネジが緩くなる登場人物たちの爆笑コントは健在。メタ発言やギャグセンスからは、「さすがはASa project」という満足感や安心感を得られた。『恋愛0キロメートル』で観測した最大瞬間風速には到達していないが、常に笑いの風が場を吹き抜け、物語に若さを感じさせる。すらすらと読みやすいライトな作品と言えるだろう。惜しむらくは、サブキャラたちの個別ルートがあまりにも不憫すぎる点、タイトルほど三角関係を意識させられなかった点、モブキャラに声がなかった点に尽きるが……その短所ですら、一人のエロゲオタが吹き飛ばしてしまった。木須志衣菜、実に恐ろしい子である。
インパクトのないギャグや、元ネタが分かりづらい小噺ほどつまらないものはない。そして、その蓄積以上に恐ろしいものは存在しないと今年の7月頃に学習した私であるが、この作品は安心できるギャグセンスとテンポの良い会話の応酬が気持ちよかった。広い年代のパロディを散りばめながらも、共通ルートを白けさせないライティングの技術があり、非常に小気味よい作品となっている。自社製品や登場人物すらもパロディやドラマCDに組み込む姿勢には、そのハングリー精神を称えて、ハリーばりのあっぱれを出すほかあるまい。本作には、『恋愛0キロメートル』における“顔芸”ほどのインパクトはない。それでも、全体に行き渡った笑いの要素が作品全体を包み込み、“やや”丁寧に作られたギャグ作品という印象を一層強くしている。物語に中身を求めるユーザーにはもちろん合わないが、ライトな雰囲気で物語が終始する分、気軽に手に取れるタイプの作品と言えるだろう。笑いの方面にはめっぽう強く、ASa projectらしい感性の鋭さを伺わせる。
もちろん、改善すべき点もいくつか存在する。「“やや”丁寧」と記したのも、その辺りに起因している。
まず、メインどころと比べて、サブキャラ2人のシナリオがあまりにも雑すぎる。告白したシーンを描かずして、何をもって「恋愛ADV」と銘打てるのか、はなはだ疑問である。一定の存在感があり人気の出そうなサブキャラだけに、このつくりでは如何せんもったいない。せっかくの商品に自ら傷をつけてしまっている。もし作品の一部としてルートを作りCGを充てるならば、せっかくのリソースを無駄にするような構成にするべきではない。欠けていると言えば、海の家の店長や旅館の女将といったモブキャラに声がなかったのも残念であった。
また、このブランドの常としてギャグテイストが強烈な反面、恋愛描写は記憶に残りにくい。それはブランドの特徴なのかもしれないが、面白い人間関係で進められる物語を完全に生かしきれていない気がしてならない。『プラマイウォーズ』にせよ『ひとつ飛ばし恋愛』にせよ、タイトルよりも内容が弱くなっている節があるからだ。本作で言えば、三角関係の描写が希薄ゆえ、個別ルートもいまいち引き込まれない。とくに、小森江シスターズの「妹▲ルート」から個別ルートへと至る流れは、見えづらいことこの上ない。要するに、心の描き方が不得手なのだ。このブランドは『恋愛0キロメートル』で独自のギャグ路線を確立したわけだが、今度はタイトルの壁にぶち当たっていると思われる。
ただし、今回に関しては、幸いなことに木須志衣菜という新種のタイフーンが発生していた。この子が喋ったが最後、場も流れも無茶苦茶になる。築きあげてきたストーリーや場面の表情が一変する。とんでもないトークをかますこの子に全てを台無しにされて、以後の展開が面白くないわけがないのである。これほどまで愉快なキャラクターは極めて珍しい。チアアップタイフーンこと八乙女優由(『アッチ向いて恋』)以上に、マシンガントークタイフーンこと木須志衣奈は印象に残った。私の中でマシンガントークと言えば長らく某進藤さんであったが、2010年代のマシンガンは彼女となるであろう。もっとも志衣菜の場合は、ほぼ常時やかましいが。それに、もう少し主人公側にキレがあれば、もっとこのこの物語は面白くなったかもしれない。
ところで、演じた北見さんはもちろん真のプロフェッショナル声優さんだ。だが、このキャラクターを前にして、なぜか北見さんの素を垣間見た気がしたのは秘密である。
総評としては、上の下くらいの評価だろうか。エロにまでギャグが進出しているとあって実用性は皆無に近いが、ギャグテイストの強いゲームとしてはまだまだ一線級。タイトルから見たシナリオの潜在能力を引き出せていない点は気になるものの、コメディアンとしての実力は健在で、マイルドなギャグゲーとして見るなら決して悪くなかった。個人的な感触として、キャラクターの個性で前作を上回り、ギャグのインパクトで初代に及ばない程度の出来といったところである。『恋愛0キロメートル』以後は安定感が出てきているため、何かをやってくれそうなタイトルとやや恋愛描写から逃げているストーリーが共鳴すれば、また新たな何かを生み出してくれそうな気がした。
【雑記】
セーブまわりが独特でした。慣れると使いやすかったです。
カーラの声ですが、もっと劇的に変えても面白かった気がします。それ自体がギャグになるので。