安定期に入ったブランドは、贅沢な悩みを抱えている。
一線級のイラストを武器に、持てる実力を如何なく発揮している。
シナリオの出来不出来はさておき、和テイストな物語の文章は非常に読みやすかった。
キャラクターの“萌え数値”は、クリエイター陣のおかげで何倍にも増幅されていた。
萌えゲーの範疇では、成人要素は物語を壊さない程度に頑張っていた。
要するに、萌えゲーの中では、トップクラスもトップクラスなのである。
もっとも、このように恰好つけてみたところで、このゲームはいたってノーマル。
なるべく多くの人に受け入られるような、手堅い作品であると言えるだろう。
歴戦のユーザーの誰もが唸る、トリッキーな仕掛けがあるわけではない。
すべてのエロゲーキャラがひれ伏すような、カリスマ性の高いキャラクターがいるわけでもない。
ただ単にちゃんと作られた萌えゲーであり、優秀なキャラゲーでもあるわけだ。
とりわけ前作は個人的なスマッシュヒットだったが、今回も期待を裏切らなかった。
少々の物足りなさも感じたが、比べることが難しい程度には満足できる内容だった。
評者の中には爆発力のなさを指摘する声もあるようだが、
尖った部分が目立たないほどに高い次元でまとまっているから、
爆発力がないように見えるだけではあるまいか。
ユーザーはどの時代も欲張りな存在で、たとえわずかでも新しい刺激を欲する。
私が感じたちょっとした物足りなさも、きっと錯覚の類に違いない。
円熟味を増してきたブランドにありがちな、質の高い倦怠期に入ったのであろう。
若干、シナリオとキャラクターがせめぎ合って魅力を相殺している気もするが、
その昔のゆずソフトを知る者からすれば、シナリオの躍進ぶりを無碍にできない。
前作で見事に分厚い殻を打ち破ったが、この作品は前作のコツをうまく飲み込んでいる。
シナリオの根幹はさておき、過度に理解しがたい超展開は鳴りを潜めていた。
いわゆるご都合主義で塗り固められておらず、腑に落ちる話やほっこりする展開が多いのである。
これは、他のヘンテコライターも見習ってほしい点である。
また今作では、サブヒロインに割いたと言うよりも、ルートを増やしたと思わせるボリュームが白眉だった。
ごくごく短いストーリーで、サブヒロインを「昇格させました」と嘯くブランドもあるが、
量的な充実ぶりを見せつけられてしまうと、それらのブランドは委縮してしまうことだろう。
このキャラクター愛は、美麗な背景にまで波及している。ここがゆずソフトの凄みだ。
モブキャラとして前作のヒロインたちが登場するのは、おそらくはファン冥利に尽きるのではないだろうか。
作品自体は質が高く、これ以上は望むべくもない。
ビジュアルは元より、シナリオですら、好みの問題ではないかと思えるほどに充実している。
だからこそ、エロゲーとしての変化が欲しいところであった。
E-moteすら駆使しない相変わらずの紙芝居形式で、
ゆず風味を心行くまで感じさせるゲームを作り出せてしまうことに、
9割の賞賛と1割の落胆を感じずにはいられなかったのである。
萌えゲーの最前線をひた走るブランドがこの方式を取り続ける限り、
その新作はキャラクターと物語を刷新するだけに留まってしまう。
ゆずソフトほどのブランドであればそれを分かっているはずだが、
敢えて保守的な作品づくりに徹するのも、ファンの多さからまた理解できる。
ただ、それが良きにつけ悪しきにつけ、停滞の象徴となっているのは事実だ。
なお、フローチャートは非常に便利なツールではあるが、
それを除いてしまえば、とても愚直な職人的萌えゲーであると言えるだろう。
誰もが気づける、それでいて些細なスパイスを。
この作品に足りなかったものがあるとすれば、それだけだ。
【雑記】
私信みたいになりますが、このレビューを書いていて、某レビュアーさんの慧眼に恐れ入りました。