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Atoraさんのキミトユメミシの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
キミトユメミシ
ブランド
Laplacian
得点
75
参照数
1422

一言コメント

この作品は、「逆オーパーツ」のようなものだ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

いやはや、なんと摩訶不思議な作品だろう。
感じたのは、20年前の音質、10年前のシステム、5年前のCG群。
しかもゲームエンジンは、錆びついているに等しい代物である。
本来ならば、このような作品は見向きもされないはずだった。


ところが、実際にプレイしてみると、シナリオの引きが強くて面白い。
ギャグゲーと泣きゲーを両立する中で、きちんとメリハリがついている。
「集の笑い」と「個の泣き」は、お手本になりうる高い精度だと言えよう。
シナリオはなかなかに骨太である。だが、決して洗練されているわけではない。
場面転換にはやや慎重さを欠き、苔むしたフレーズや展開も散見される。


シナリオ以外が優れていると思ったら、それは大間違いだ。
音質は、さながらテープレコーダーで録音したかのようだ。極めて悪い。
CG面においても、明らかに同業他社に劣る。心許ない部類に入るだろう。
コンフィグはやっと及第点。また、エンジンが旧式仕様で、起動難を隠せていない。


実用性は、そのシチュエーションのせいで特殊な方向を指している。
発想は面白いが、場面転換の性急さゆえに、ところどころ機械的に見える。
テキストはやや弱めで、使えるかどうかはプレイヤー次第だろう。
このように、お世辞にも品質の高さを誇れる作品ではない。


それなのに、一定の評価に値する不思議な現象が、自分の中で起きている。
シナリオに垣間見えるダサさと、それに付随する技術的な拙さが原因だ。
この時代にそぐわない作風だからこそ、単純な旧作にはない新味がある。
様々な要素がタイムスリップしてきて、上手く融合を果たしているのだろう。
四角い座敷を丸く掃くような乱雑なクオリティは、さすがに無視できかねる。
ただし、それを差し引いても、余勢を駆って評価できる作品に仕上がっている。


E-moteやCGの差分数など、見た目や動きが評価を高めやすい昨今である。
そんな技術を使わなくとも、作品が注目され、また評価に値するのは喜ばしい。
このような作品の濫造は御免蒙りたいが、流れ星ほどの頻度では歓迎したい。
私にとっては、「逆オーパーツ」に思えてならない力作であった。



【雑記】
早くも次回作が気になります。
良い感触という意味で、今作ではブランドの方向性が見えませんでした。