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Atoraさんの迷える2人とセカイのすべて LOVE HEAVEN 300%の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
迷える2人とセカイのすべて LOVE HEAVEN 300%
ブランド
Lass
得点
75
参照数
2710

一言コメント

ファンディスクの意義を失ったファンディスク。ロリっ娘フィアを攻略できるのは一定の救済措置と言えるが、ファンディスクとして全体を見るなら失格の域。原作にレイプ紛いのシーンがあるとは言え、純愛色が強かった原作よりも愛の匂いは希薄。原作に愛着があればあるほど、奈々シナリオは受け容れがたいし、タイトルのLOVEが胡散臭く思える。実用性の高さは魅力的だが、原作のコンセプトに沿ったものではないことを考えると、ファンデイスクなのに非ファンディスク化しているのは極めて滑稽。ちぐはぐな作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 非常に不可解な構成だ。ファンディスクなのだから、素直にファンに向けて作品をつくればよかった。エロ成分が足りないという声が大きかったのだから、原作の流れに沿った濃い純愛を見せ付けてくれれば事足りた。そんな簡単な最適解をどうやってまかり間違ったのか、一部のファンを足蹴にする内容になっている。原作の弱さもさることながら、今回は見当違いも甚だしく、ブランドの不調をより一層浮き彫りにしたように思う。

 たしかにエロ成分自体は原作の比ではないが、内容も原作以上にハードな箇所が目立ち、LOVEと言うよりもHARD COREと言った方がしっくりくる。特に奈々シナリオでは純愛とは一線を画す濡れ場も多く、原作に求められていたものとは、かけ離れている印象があった。もちろんエロいことはファンデイスクとしては大変いいことなのだが、原作や奈々個人のファンとして見た場合、果たして主人公以外との濡れ場は必要だったのかと、首を傾げざるを得ない。原作にも奈々の陵辱らしきものがあったが、それを再登場させるのはファンデイスクにあるまじき暴挙だと思う。そんなことは、原作のファンも奈々個人のファンも望んでいない。LOVEという言葉がこんなにも軽く感じられる作品も、そうそうあるまい。濃度に対しては文句なしの出来映えだけに、配慮の無さが気になった。

 また、一般的にファンディスクというのは、その名の通り原作をプレイしたファンに向けて発信されるものだと思っていた。ところが、この作品はその前提すら悪い方向に覆してくる。原作や登場人物に愛着があればあるほど、愛なき濡れ場の存在に嫌悪感を抱くはずだ。

 この作品の最も気持ち悪いところは、原作を読んでいない層や原作に低い評価を下したファンでもなんでもない層に、ある程度受け容れられることにある。こんな代物はもはやファンディスクと呼ぶのも躊躇われるのだが、その不整合感に拍車をかけるのがロリっ娘フィアとのエッチだ。原作にはなかったフィアを攻略できるという側面は、一定のユーザーに対する救済措置と言える。しかし、それは救済という名の後付けであって、ユーザーの声を反映させたものに過ぎない。もちろんそれ自体が悪いこととは言えないし、購買意欲を掻き立てる要因ではあるのだが、ロリっ娘を性的に求めていた層にとって優しく、原作や奈々のファンに冷や水を浴びせるちぐはぐさが、作品の統一感を失わせている。桃華の小話形式のエッチシーンの方は、原作を大きく損なわないぶん、ファンにも優しいかもしれない。

 かくいう私は原作をそれほど評価しておらず、エロゲーに対してはエロを求めるスタイルなので、この作品単体に対する評価は数字通り決して悪くない。しかしながら、原作を大事にしたい人にとって、この作品はオリジナルを台無しにしてしまう危険性がある。ファンディスクにしてファン向けではないという、エロゲーでも稀に見るオリジナルレイパーの感も強い。この作品を評するにあたっては、八方美人を第三者視点から見た気がして不快な気持ちを覚えた。要所に対する配慮が欠落しており、返す返すもおかしな作品に思えてしまう。

 エロゲーは、エロければいいというものではない。エロくてなんぼを標榜する私にとって、自戒を込めるに値する作品であった。



【雑記】
 こんなに不可解な作品も久しぶりです。オリジナルのファンは複雑だと思います。