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Atoraさんのキトゥンフィリアの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
キトゥンフィリア
ブランド
ミューカス
得点
75
参照数
807

一言コメント

優美で卑猥で退廃的。気まぐれな猫人たちの淫靡な世界を、ちょっとだけ覗き見る小作品。同人レベルを優に超えるグラフィックもさることながら、続編の存在を気にしてしまうほど、世界観と登場人物の魅力が際立つ。ただただ淫蕩に耽けるマゾっ気の強い作品かと思いきや、男を寝取る逆寝取りの展開もあって新味を出している。全体的に陰気なヴェールを纏っており、爛れた世界にひたすら浸れるデカダンスあふれる作品。物語としての広がりには欠けるものの、この世界に深入りしたくなる麻薬的魅力には抗いがたい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 タイトルを意訳するなら「子猫性愛」。原題の響きに、どことなく艶かしさを感じるのは気のせいか。子猫と言えば、思わず「もふもふ」したくなる愛らしい生き物であるが、『キトゥンフィリア』の猫たちはどうやら一味違うようだ。作者は猫のもつ外面的な可愛さよりも、気まぐれさや奔放さを剥き出しにして描いている。なぜそう描いたのか……それは読後に判明することになるのだが、まずは登場人物の紹介と物語のあらすじから入りたい。

 はじめに断っておくが、中心人物は数少ない。支配者層に虐げられる人間の主人公ユーマ、猫人(作中では“猫”としているが、便宜的にレビュー内では人型の猫を“猫人”と表記する)と人間のハーフであるミオ、女王様気質をもつ猫人ルカ、陰気な仕立て屋の主人である猫人バステト、それに金魚屋の猫人彩葉。他にもリオンという気障な猫人がいるが、彼を含めバステトや彩葉は登場シーンが限られており、扱いはモブに等しい。中心人物は、あくまでもユーマとミオ、それにルカである。

 作品の扉を開ければ、そこには憂鬱で退廃的な世界が広がっている。世界は壁と天井に覆われ、昼も夜もなく、ランプの明かりのみが煌々と街を照らし出す。街の名はレヴ。その街では、猫人こそが絶対であり、人間や雑種は被支配者層と定められている。要するに、人間はペット以下の存在なのである。金魚1匹が人間10人に値するくだりが作中にあるように、人間にとっては不遇極まりない世界だ。
 そんな街で、ミオとユーマは、街でも腕利きの仕立て屋バステトの奴隷として暮らしている。主人公が何故そこにいるのかは、本人にも分からない。 物語は、ユーマとミオの爛れた情事から幕を開ける。彼らは、悲しくも被支配者同士で慰めあう関係なのだ。堕落した日々を送っていたある日のこと、バステトが仕立てた服を権力者ルカに届けることになる。この届けものには一悶着あるのだが、ユーマが商品を届けることで落ち着く。その途端、物語は唐突に流転する。届け物をして帰ろうとした矢先に、ルカから思いもよらぬ言葉をかけられるからだ。

  「えっ ではないわ。脱ぎなさい」
  「お前の、着ている服を、脱ぎなさいと言っているの。言葉は通じているのでしょう?」
                                (本編より)

なんとも気まぐれで、ユーマにとっては頭の痛くなる話である。こうして身ぐるみ剥がれたユーマは、たびたびルカに奉仕を強要させられたり、屈辱的な姿勢を要求されたりするようになってしまう。呼びつけられてはルカに虐め抜かれ、仕立て屋に戻ってはミオと情交を結び、すます堕落に拍車がかかっていく。最終的には、文字どおりルカのものになるか、ミオの元へ戻るかを選択することで、クライマックスへと向かっていく。選択肢は作中でこの一つだけだ。途中で彩葉との対話も存在するが、濡れ場までは行かない。

 ミオを選ぶと、最終的に再教育と称して折檻されてしまう。途中までは似たもの同士の立場での和姦がメインを占めるが、個別ルートでは病みきったヒロインにペット化されてしまうという、なんとも悲壮感の漂うエンディングを迎える。ところが、ルカを選んでも案の定ペットにされ、挙句の果てにメイドの慰み者にされてしまうのだ。救われない。

 このお話は、ユーマに主導権のない惨めなストーリーしか用意されていない。否、そうせざるを得なかったのだろう。何はともあれ、不遇な主人公には本当に気の毒だが、不道徳な世界観やシナリオによくマッチしていると感じた。
 作中を通して際立つのは、ルカの逆レイプが色濃く出ている点だ。罵倒しながらも本番を焦らしてひたすらクンニさせたり、罵詈雑言を浴びせながら足コキしたり、勝手気ままに騎乗位レイプしたりと、終始、女王猫のやりたい放題である。彼女の場合、『前』の抑圧ぶりが過度だったからかもしれないが、その理不尽さが猫の気まぐれな獣性を
よく反映していると思う。子猫なんて、気まぐれの体現者そのものだろう。もし彼らが人に成れば、今ほど可愛げのある存在にはならないはずである。獣は人よりも本能的に残酷なのだ。

 さて、ルカが下した命令は下劣極まりないものだったが、圧倒的上位から投げつけられる雑言を何度も何度も浴びていると、気がつけば自身が虜にされている危うさがあった。Sの人には向かないシナリオだと思う。対して、ミオの濡れ場にはこの強烈さがない。だから、ルカのキャラクターの方が強く出てしまっている。
 また、いくら罵倒されると言っても、肉体的にはさほどハードではない。たとえば、ボンテージを着たおねーさんに鞭で叩かれたり、三角木馬に跨らされたり、蝋燭を垂らされたりする場面を、エロゲーでは比較的よく見る。一言で女王様でドM向けと言うと、そんなアブノーマルを絵にしたような構図を想像するプレイヤーもいることだろう。たしかにそういうハードな方向へエスカレートする場合も他では大なり小なりあるが、此方は言葉責めや焦らしといったパターンが多かった。精神的には参らないだろう。

 なお、僅かながら逆寝取りの側面もあって考えさせられた。決してそれが主題ではないのだが、ミオの愛情を差し置いて、ルカの動物的独占欲に支配されたい人にはうってつけだろう。全体を通してM属性持ち向けではあるものの、視覚的にはソフトな範疇で収まっている。私個人としては、門戸はかなり広いと見ている。ひょっとしたら、女性にもオススメできる作品かもしれない。


 クリア後に開放される小話では、ミオとルカの人としての生き様が描かれている。そこには、血縁と禁忌の壁に苛むミオと、金や地位や名誉に縛られてもがくルカの姿が描かれる。ミオは姉として、ルカは深層の令嬢として自身の欲求を抑えつけられていた。作中にてミオが猫人と人間との雑種として登場しているのは、タブーが顕現してしまった意味合いが強い。それは、どこかの世界で実弟と肉体的繋がりを持ってしまったことに起因している。
 結局のところ、人間ほど理性や知性に縛られて生きている生物はいない。その戒めから完全に解き放たれた世界こそ、すなわち『キトゥンフィリア』なのだろう。いや、人としての何かが欠落して、とことん欲望に忠実になれる世界というべきか。果たしてどちらの表現が正しいのかは、作品をプレイしてもいまだに分からない。エピソードに欠ける彩葉やリオンなど、広がりに欠ける物語がその答えを曖昧なものにしている。
 それに付随して、この世界がディストピアかユートピアかを判断するのは時期尚早というものだろう。猫人にとっての理想が、人間にとっての理想でないのは明らかであるからだ。立場によって理想郷にも地獄郷にもなりえる以上望んだもの勝ちならば、それは等しくユートピアであるとは言いがたい。逆も然りである。
 一般的に猫は自由気侭な生き物だと認識されているし、従順という言葉からかけ離れた存在だ。もし人が戒めを解かれて猫のように振舞える世界があるとするならば、この猫世界の理は、ある側面では魅力的に思える。ところが、ルカ自身が自嘲気味に言うように、この世界には誰一人としてまともな人物がいない。ストレートに欲求を通そうとする猫人の姿が、わたしには眩しく、そして同時にどす黒く映ってしまった。

 世界はいたって閉鎖的だが、大いに可能性を秘めるお話だったように思う。大勢の猫人がこの世界で暮らしているのならば、もっとエピソードを増やすこともできただろうし、ルカやミオ、そして彩葉の背景をさらに拡充することもできただろう。ルカの『特別』になれた後も見てみたいものだ。不可視の裾野は実のところ、それこそ星海ほどに限りなく広がっている気がしてならない。

 最後に。この街に来たものが望んだ、あるいは望まなかったにかかわらず、「なぜレヴの住民として、彼らが暮らしていかなければならないのか」を知りたい。猫人と人間の関係、『前』、世界観などと絡めれば、より洗練された魅力的な作品になりそうな予感がした。未完とは言わないまでも、不完全燃焼の感も残る作品であった。扉の数は多ければ多いほどよい。



【雑記】
 道を横切る猫を、思わず目で追ってしまいます。