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Atoraさんのアマカノの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
アマカノ
ブランド
あざらしそふと
得点
90
参照数
1463

一言コメント

評価のばらつきにくい優等生。ウィークポイントを露呈しない堅実なつくりも、ピロ水氏の前作から、きちんと受け継がれている。言うなれば、冬の『LOVELY×CATION』。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

◆シナリオ◆
実に平易で、糖度の高いストーリー。出会って、恋して、結ばれて。
なにげない雪国の冬を描写するにあたって、いちゃラブ成分を多めに注入した物語だ。

ヒロインとの生活を軸に展開されるユルめの日々は、せわしない日常を忘れさせてくれるはず。
段階的な主人公に対する呼称の変化、告白するか告白されるかの両立など、真新しい試みも採用。
いちゃラブこそ駆け足気味だが、知り合いから友人へ、友人から恋人へのステップアップは、丁寧に描写されていた。
物的なイベントよりも心的な描写に重きが置かれているのは明らかである。

甘イチャに侵されて思考力が低下した脳に、「ANOTHER VIEW」と「アマカノグラフ」が追い討ちをかける。
胸焼けしそうになりながらも、私はなんとか恋愛模様を堪能することができた。
いずれのルートも甘さに大差がないため、人によっては食傷気味になること請け合い。
ヒロインの頭数に賛否はあれど、これはこれで正解だろう。

そこまで描写してくれるにもかかわらず、付き合いはじめから初エッチに至るまでは準備期間がある。
互いに相手を思いやって告白を躊躇う描写が、越冬キャベツを寝かすように、一段とストーリーの糖度を上げていくのだ。
妙にくすぐったい物語の原因は、まさにここにある。


◆グラフィック◆
ピロ水さんの描く黒髪美人(紗雪)こそ、グラフィック面における肝。
凛とした雰囲気に加え、氏特有の柔らかさと清らかさが随所に感じられる。
ひときわ目立つ和服美人は、もはや氏の作品に欠けてはならない存在。
清楚のうらに隠された濃艶とのコントラストは、絶妙のひとことに尽きる。

ややCGの枚数が心もとないが、濡れ場の尺が長く、テキストが不足ぶんをうまくフォローしている。
完成度に傷はついていない。丁寧に描きこまれた背景も好印象を覚える。


◆キャラクター◆
ヒロインは3人と少なめ。サブキャラの立ち絵をことごとく排除しており、定価を考えれば割高な感がある。

紗雪の「あなたさま」(主人公に対する呼称)は、思案投首きわまった様子。
名家の出自、それに違わぬ麗しい容姿を意識しすぎたか。
縮まったはずの距離感と呼び名は、まるで噛み合っていない歯車のよう。
慣れるが勝ちとも言うものの、せめて《~さま》を外すイベントが欲しかったところだ。

特異な呼称に面食らったが、いずれのキャラクターも魅力的なのは事実。
説得力あふれる造形が、プレイするうちにユーザーを惹きつけてやまない。


◆エロ◆
濡れ場は各ヒロイン6~7。

ピロ水さんの肉感的な絵柄、龍岳来さんの甘いシナリオを軸に、声優陣の艶やかな演技が彩を添える。
回想枠とシナリオの問題で抜きゲーとは言えないものの、実用面では抜きゲーのそれと遜色ない。
ヒロインは段階的に卑語を使用してくれる。最終的には、瞳がハートマーク化してしまうほど乱れてくれる。
とても実用性に富んだ内容だ。

なお、ヒロインの陰毛をオンオフできる機能には、メーカー側の一定の配慮が窺える。


◆サウンド、ボイス◆
年上の真中海さん、年下の秋野花さん、その間の木村あやかさん。
とくに秋野花さんは、こはるの性格にジャストフィットしている印象を覚えた。
いずれの声優も特徴があるため、キャラ立ちは万全。少なくとも配役ミスはない。

サウンドやテーマ曲からは、堅実な仕事ぶりが伺える。


◆総評◆
ほっこりとした気持ちになれる冬の恋物語。

日常の風景を軸に大きな起伏もなく紡がれた物語は、かの『LOVELY×CATION』に通じるものがある。
季節を冬に限定した上で舞台を温泉郷に据えたぶん、田舎特有のゆったりとした雰囲気に浸ることができた。

『アマカノ』は、言うなれば、冬の『LOVELY×CATION』。
シリアスな展開を強調しない「いい話」を読みたいユーザーにとって、この物語は最適解になりうる。

あたたかさに満ちた甘いお話を。
寒い冬にプレイしてこそ、この作品の真価は発揮される。
ミカン片手に、こたつに足を突っ込みながら、のんびりとプレイしたいものだ。



【雑談】
 瞳の中にハートを描く表現は好きですね。純愛と陵辱を問わず、エロさが際立ちます。

 ガチガチのストーリーで固めず、適度なストーリーと下品にならない程度の濃厚なエロ。変質こそしていますが、『プリマ☆ステラ』や『あおぞらストライプ』の空気をいまだに感じ取れます。《アトリエかぐやネクストン支店》として、あざらしそふとを認知してしまいそうです。

 「あなたさま」と大和撫子の相性がいいのは、なんとなく分かります。でも、それが公衆の面前で呼ばれることには抵抗しかないですね。せめて2人っきりの時にだけ呼んでくれるのなら……いや、それでも「さま」付けは仰々しいことこの上ないです。むず痒すぎます。