稀代の名作オムニバス第3部。開始5秒で目を瞠り、10分で惹きこまれ、20時間足らずで満たされた。実用性もシナリオも死角なし。エロゲー界の「お、ねだん以上」は、ここが担う。
◆ビジュアル、アニメーション
とにかく、ため息が出るほど美麗。質感を感じさせる柔らかなタッチが印象的。
イベントCGだけでなく、立ち絵やカットインCGからも、艶めかしさが滲み出ている。
価格帯を考えれば、CGアニメーションの実装、及びその進化は驚異的な部類に入る。
馬車が走り去る起動直後のアニメーションから、類稀なるセンスを見た思いがする。
たった数秒のアニメーションだが、あるとないでは大違い。
新旧世界の橋渡しとして、冒頭に組み込んだことに意味がある。
シナリオに対する意識の高さが窺える。こんな芸当ができるのは、このブランドくらい。
取り上げる人が少ないのが残念だが、ここにプロ意識が凝縮されている。
◆シナリオ、テキスト
シリーズの中でも、もっとも世界観に惹かれた。
満目荒涼とした近未来が、舞台装置としてこの上なく魅力的に映る。
適度な寂寥感と終末感、そしてシンプルな未来予想図が、ほどよく調和している。
描かれる厳しい自然環境とは裏腹に、後景からは心地よささえ感じられる。
テキストまわりからは、一定以上の知性が垣間見える。
ラヴクラフトに山頭火、モークリー&エッカートの電子計算機、果ては『ウォーム・ボディーズ』まで。
主人公がマッドサイエンティストであることを利用して、嫌味にならない博識ぶりを存分に披露。
作者の引き出しの多さが、世界観や人間性の強化に一役買っている。
シナリオは、ロボットと人間の関係性を軸に展開。ストーリーが短い割に、内容は詰まっている。
惜しむらくは、駆け足気味の恋愛描写だが、ロボットとの恋愛を我々に考えさせたことに意味がある。
その時点で、作者の狙いは達成されているのだろう。希薄なことが、もはや故意であるかのように思えてくる。
エンディングは思った以上にあっさりとした結末で、世界を去ることに後ろ髪を引かれる。
マルチエンディングながら、冗長な幕引きとはまるで無縁だ。
それでいて、まごうことなき実用重視のゲームなのだから恐れ入る。
濡れ場における言葉遣いは、いたく官能的。卑語の選択、多彩な性器表現に一切の妥協がない。
セクサロイド機能によって、卑語を使役させる発想には感服の一言に尽きる。
回想数、尺の長さ、複数回射精など、描写の濃さはどれをとっても一級品。
容姿端麗なキャラクターと、意外なまでにマッチしている。艶美極まりない。
このように、実用性に富んでいながらも、不可分なストーリーをも魅せる構成力の高さは業界随一。
低廉な価格まで兼ね備えているとあっては、テキスト面においては、ほぼ批判の余地がない。
◆サウンドまわり、ボイス
声優陣のつややかな演技が、濡れ場において、如何なく発揮されている。
卑語を修正しないのも好印象。テキストの強さもあって、実用性には事欠かない。
楽曲数は、鑑賞モードで29曲。ロープライスとは思えぬ曲数だ。
メインテーマの曲以外は、前作からの使い回しもない。ピアノの調べも印象的。
アラビア風の曲調である「熱砂」は、バックグラウンドの強化に一役買っている。
◆総評
高次にまとまった完成度の高さは圧巻。作品を構成するものすべてが非凡。
「自信を持って送り出すことが出来ました」 (※1) とするメーカーの言にも、納得の出来映え。
オープニングの馬車に誘われれば、荒涼たる世界の虜になるやもしれぬ。
かくいう私も、早くも次の万華鏡を覗きたくなった。
この欲求には、物語の主人公である深見夏彦のように、無力なまでに抗いがたい。
オムニバス形式であるから、リリースのたびに全く新しい世界を堪能できるのも強み。
次の一片では、何を見せてくれるのか。ますます、期待は高まるばかりだ。
【雑記】
fengとはまた違ったロープライスの切り口ですね。
こちらは完全にオムニバス形式。あちらはフルプラを切り分けて、1ルートごとに販売。
どちらがいいのかは分かりませんが、両者ともに上手く価格を抑えた印象です。
レビューでも触れましたが、冒頭のアニメにこそ、このブランドの意識の高さが見て取れます。
構成を見れば明らかですが、実装せずともストーリーは成り立つんです。
ですが、手間ひまかけて、敢えて導入したと見ると話が違ってくるんじゃないでしょうか。
私には、あの動画を物語の開始前に意味もなく実装したとは思えません。
「クリエイターが必要だと思ったから入れたんじゃないか?」と訝っています。
アニメの作り込みにも心服しましたが、それ以前に、その存在感に圧倒されました。
※1 http://www.omega-star.jp/log.html 2015.03.17の更新履歴にて