ErogameScape -エロゲー批評空間-

AtoraさんのVenusBlood -GAIA-の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
VenusBlood -GAIA-
ブランド
DualTail(DualMage)
得点
85
参照数
1347

一言コメント

育成する楽しさと、ハードなエロを併せ持った稀有な存在。独自のシステムに少しずつ安定感が出てきた。もっと認知されるべき名シリーズ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「“GLORIA”ではなく“GAIA”だったか。」

タイトルが発表されたとき、僕は大いなる期待を抱くとともに、ちょっとした歯がゆさを覚えた。FRONTIERのレビ
ューを脱稿した時に、次のタイトルを予想していたのだが、その単語が違ったからだ。これで無印からGAIA
まで、実に7つのタイトルが世に出たことになる。正直なところ、CHIMERAやDESIREがリリースされた頃には、
こんなに長続きするシリーズになろうとは夢にも思っていなかった。ABYSSやFRONTIERの前後から、ようやく
日の目を見つつある。

 次回作は“HORROW”、もしくは“HORIZON”と早くも予想してみる。こうして次回作のサブタイトルの予想ができ
るのも、もはや追っかけユーザーならではの楽しみになってきた。その反面、ビギナーにとっては相変わらずと
っつき辛い作品という体質は変わっていない。残念なことに敷居は依然として高い。

 早い話が“習うより慣れろ”を地で行くからだ。本編に含まれないチュートリアルは、言わば家電のマニュアルみ
たいなもの。取りあえず本編を遊んでみて、行き詰まったらチュートリアルで再確認、といったパターンも十分に
あり得る話である。だが、当のチュートリアルの説明があまりにアバウトすぎて、実用性に難があるのは考えも
のだ。各ユニットが持つスキルやアルカナ、および資材の関係は、言わずもがなこのゲームの要である。にもか
かわらず、チュートリアルですら具体的な数値や効力については、軽くしか触れられていない。こうなると、誰しも
が取りあえず本編をやってみるしかないだろうが、これが意外に難しい。数値的恩恵に浴しても、実感が湧かな
い場面というのは、必ずや道中に出てくる。

 もしチュートリアルを咀嚼しながら読んでいけば、それだけで優に1時間は費やしてしまうことだろう。わざわざ
別枠にチュートリアルを設けている点については、「試しに本編をやってみたらいいんじゃないかな」というブラン
ド側の意思表示にも見える。チュートリアルで勉強するよりも、本編をやったほうが感覚的に自分に入ってきやす
い。早い話が“門前の小僧になれ”ということなんだろう。

 よしんば、理解が怪しいまま本編を勧めていったとしても、にっちもさっちもいかなくなって“詰む”ことがある。ア
ルカナやタワーディフェンスのシステムを最低限理解していないと、中盤から後半にかけて、一部の資源が欠乏
する場合も出てくるからだ(!)。とは言え、噛めば噛むほど、味が染み出してくるゲームであることは保証しよう。
一度詰んだからと言って諦めないでほしい。めげずにリスタートするもよし、時を置くのもよし。最低でも1周くらい
は頑張ってみるべきだ。

 そこまでお勧めするからには、何かしら楽しめる要素があるということだ。どこに時間を持っていかれるかと言う
と、ズバリユニット作成と師団編成に、である。豊かなバリエーションの中で、いろいろと試行錯誤するのが楽し
いのである。そうして運用した師団を実際に戦わせてみて、見事に敵を撃破するとすごく楽しいのである。お気に
入りの師団でボスを撃破したり、トレハン師団を重用してレアな装備をゲットしたりすると、ものすごく楽しいので
ある。時間など惜しくない。ここに楽しみの7割8割は詰まっているのだから。

 ゆえに、“詰んだ”としても、リスタートして何度も何度も試行錯誤してほしい。ユニットの種類も充実しているた
め、今までの編成とは違う師団で色々とやってみるといい。新たな発見があったり、意外な相乗効果が見つかる
かもしれない。そうやって周回を重ねているうちに、自分の中で鉄板の師団が存在していることに気づいたり、使
ってないユニットを使いたくなったりと、楽しみは当分尽きそうになくなるだろう。私事ではあるが、FRONTIERか
ら愛用している“樹霊トレハン軍団”と“氷霊軍団”が僕の十八番コンビなんだなあ、と改めて気づいた。雪だるまが
強いゲームもなかなか珍しいから、ついつい使ってしまう。このように愛用のユニットが固定されてくると、次回作
にもすんなりと入りやすいはずだ。

 ……とまあ、やり応え十分のシステム関係だが、今回はターン中にこちらから仕掛けられる戦闘回数が1回し
かないので、そこで難易度が上がっているのは明白だ。ここでフラストレーションが溜まるかもしれないが、本来
のタワーディフェンスを思えば、攻撃できること自体、個人的には救済に近い感覚もある。また、常々言われてい
るように、エラー落ちさえなければ輪をかけて楽しくプレイできそうなのだ。そこだけは、ほぼ唯一の心残りであ
る。あっ、できれば今後は初心者さんにも優しいつくりを意識するといいんじゃないかな。この作品は、こと初心
者さんに対してとにかく不親切なのだから。


 
 さて、成熟著しいシステムと比較すると、シナリオの方は結構端折られてる感がする。全体の流れとしてはそ
こそこ壮大な感じがするし、ファンタジーっぽさは十分濃いので、決して程度の低い物語ではない。むしろ僕とし
ては、このくらいの加減でちょうどよかった。長い物語が必ずしも良いとは思えないからだ。問題は各ヒロインとの
対話や調教など、いわゆる個別イベントにある。

 とくに産卵云々への導入は、なんだか書き手が難儀しているように感じられた。主人公テオくんの本性がマッド
サイエンティストなのをいいことに、かなり強引にエッチシーンへと持っていってしまっている。たぶん、内実は為
政者とマッドサイエンティストという二つの顔の使い分けをしているのだろう。エッチシーンの時はマッドな科学者
が顔を覗かせ、通常イベントや戦闘の時は有能な為政者としての顔を覗かせる。しかし、どうにも調教がシナリ
オの流れを蔑ろにする傾向にあり、結果的に僕の目からは、テオくんが何人もいるように見えた。しっかりしてい
そうな主人公が、意外とブレているのである。

 また、ヒロイン側にも断固として拒否しそうなタイプが数人いるのだが、どいつもこいつも犯ラレチャッタ状態ま
で、なし崩し的に持っていかれてしまう。ここらへんの駆け引きの描写は、キャラクターの多さも起因しているの
か、かなり貧弱と言わざるを得ない。デリケートに描かれなければならないはずの政治的な思惑などをぶち抜い
て、出口としてのエロシーンを迎えてしまう場合が多々ある。キセル乗車ではないが、中身が不透明すぎはしな
いだろうか。

 調教パラメータがシナリオよりも先議権があるのだろう。いかにヒロインのオツムが緩かろうが、テオくんの人格
がブレて見えようが、そこらへんをツッこんだら負けなのかもしれない。また、FRONTIERのレビューでも指摘した
が、“町娘と悪代官”の構図はいまだに崩れていないように感じた。エロシーンとシナリオは、この際別のものとし
て考えた方が悦に浸れる可能性がある。

 共通ルートを含むロウルートについては、“ただし、エロシーンはカオスの中のロウ寄り”と訂正したいほど。やは
り触手をふんだんに用いた濃いエロが軸ということもあって、お世辞にも視覚的に秩序ある濡れ場とは言いがた
い。テオの頭の中には、「科学の発展のためには~~以下略」といったマッドサイエンティストにありがちな強迫
観念が蠢いている。中には倫理的にえげつないシーンも共通ルート内に存在するので注意されたし。この壊れ
具合が、テオくんをマッドサイエンティストと成さしめているのだろうが、もうちょっとシナリオと整合性が取れてい
れば、と思うところもある。少なくともスマートな仕上がりには程遠い。

 もはや一般的な“ロウルート”とはかなり意味合いを逸脱しているような気もするが、このメーカー内ブランド自体
が“ハード・エロス”を看板に掲げているので、純愛を求めるのがお門違いというものだろう。まあ、やや特殊な領
域に足を踏み入れている気がしないでもないが。その代わりと言っては何だが、実用性には期待してもいいだろ
う。


 なかなかに人を選ぶ癖の強いゲームであり、やはり依然として門戸は狭い。娯楽性も実用性も十分にあり、中
毒性もそこそこ高い。ユーザー層は着実に増えていっていると信じたいところだ。“地道に右肩上がりを続けてい
るブランド”という僕の認識は、前作から変わらない。下手に変化を求めて顰蹙を買うよりも、既定路線をまい進し
ていってほしい。その過程でいかに未プレイヤーを取り込めるかが、この先のブランドの課題となってくる。今後も
応援したいブランドである。


 そうそう、言い忘れていたが、予約特典の冊子は持っていたほうがいい。毎度のことながら、あの冊子は妙に
作りこまれている上、攻略にはもってこい。それに、眺めてるだけでもそこそこ楽しいのだ。あの本には制作者サ
イドの魂が入ってる。



【雑記】
 FRONTIERのレビューで「慣れるより慣れろ」と書いてました。どうやら当時、寝ていたようです。