ひとつ飛んでいるのは、ヒロインと主人公の間柄だけとは限らない。
“ドキドキ○○恋愛シリーズ”第三弾。
ASa projectの『アッチむいて恋』からの躍進ぶりには、目を見張るものがある。
おそらく、スタッフがアチ恋で何かしらの手ごたえを掴んだのであろう。
“笑”撃的だった『恋愛0キロメートル』で見られた、「お笑い」に対する明確な指向性は、
本作でさらにはっちゃけていた。
以下、勝手気侭なカテゴリ評です。
◆シナリオ◆
名状しがたい面白さは健在。
ネタ一つ、ギャグ一つ、テキスト一文を取っても、勢いもセンスも存分に感じられる内容。
アサプロ独自の豊かな感性は、他のブランドに真似できない非凡な才の存在を強く想起させる。大きなアドバンテージだ。
ただ、その天与の資をもってしても、前作の壁は高かったようす。
顔芸に代表される定型化しつつある笑いの種は、やはりどうしても新味に欠けてしまった。
さながら、毎年のように新星のごとく現れて、ブレイクの後に何処へと消え去っていくお笑い芸人のよう。
早くも次回作の出来を心配してしまう、伸び悩みしそうな一面も垣間見えた。
最終的に、盛り上がるか白けるかは、プレイヤー次第。
――いい方向にも、悪い方向にも――やりすぎている感が強い中、あくなき芸人魂をどこまで感じられるか。そこが、評価の要となってくる。
個別ルートで失速した前作とは違い、最後まで笑いの精神を忘れていないのはプラス。
夏芽ルートはメグの暴走が酷く面白味に欠けるし、りさルートは正直なところプレイしてて疲れる。
しかしながら、総合的には、不思議と手堅く仕上がっていると言えるだろう。
◆グラフィック、演出◆
キャラ造形にかなり助けられている印象。萌えに強く、濡れに弱そうな画風。
キャラのCG画像でさほど優れているとは思えないが、安定感のある立ち絵は効果的。
ギャグ絵はさておき、選り好みされるような絵柄ではない。
また、いずのケンタさんの描くちびキャラは、以前にも増してかわいさを増した気がする。
背景は圧倒的な臨場感があり、何も言うことがない。素晴らしい出来映え。
『恋愛0キロメートル』にて、ユーザーに強烈な印象を残した注目の顔芸は、より過激なものへと様変わりした。
シナリオ項で「やりすぎている」と書いたが、顔芸はその代表例。
もはや人としての原形を留めていないのは、いかがなものかと思うが、それこそがアサプロの良い点でもあり、悪い点でもある。
ある種の二律背反性を含むのは、もはや詮無いところだ。
前作では、なんの予告もなしに乃来亜が一発ぶちかましたものだから、観衆はみな「やられたw」とひっくり返ったわけだが、
今回はあまりに観衆のワクワク感が強くて、笑うよりも「待ってました!!」という喜びのほうが強かったのではないか。
一発芸の笑いという側面が強烈な印象を与えた前作とは違って、今作は仕込み芸に近いネタへとシフトしていたように思う。
これを悪ふざけと取るか、メタの推進と取るかは、これまた人次第であるが、
いずれにせよ、キャラクターが弾けているという事実に変わりはない。
ゆえに、演出面において、より一層の強化を求めたい。
伸びしろがあると思われるのは、笑いの種よりも、むしろこちらのほうであろう。
たとえば、
“文字サイズが大きいところは笑うべきところ”
という演出ばかりでは、そのうちジリ貧になるのは明白だ。
フォントを大きくして強調するのは、常套手段としての理解はあるつもりだが、
あまりに使用頻度が高すぎて、気づけばしらけ鳥が飛んでいた。あーね。
◆キャラクター◆
りさが抜きん出ているのは言うまでもない。
共通ルートでのふざけっぷりに、「なんなんだ、こいつは…?」と面食らってしまった。
慣れないうちは、出てくるたびに鼻白むほど、ギャグの質が一線を超えている。
こいつほどぶっ飛んでいるキャラクターは久々だが、それも、五行なずなさんの名演技あってこそ。収録はさぞ楽しかったに違いない。
『笑の大学』で役所広司が演じる向坂睦男すら、本気で笑わせられるかもしれない。
そんな身体を張ったギャグは、まさにアサプロの生命線と言っていい。
ただ、りさが抜きん出ているからと言って、他が平均以下かと言うとそうでもない。
碧里は慌てっぷりと少々ツンなところが魅力的。桜は予想外のエロ要員というのがギャップ受けしそうだ。
唯一の常識人と言っていい夏芽だけは、若干キャラが薄い気がしないでもないが、
作品を鳥瞰すると、その浮きっぷりが道化以外の何者でもないということに気づいた。
なお、攻略不可能なキャラクターもまた魅力的。阿知華、紅は言うに及ばず、
千乃のあまりの世話焼きっぷりに、思わず千乃OBASa………いや、なんでもない。
◆エロ◆
エロが軸ではない作品と分かっていても、エロゲーである以上無視できかねるカテゴリ。
ただでさえ、尺が短い濡れ場で固められている中で、殊更に碧里ルートのエロが薄く感じられるのは気がかり。
もともとエロを過剰に求められていないブランドとは言え、限度というものがある。
性描写の過程が、いささか一足飛ばしに感じられてしまうのは、決して気のせいではあるまい。
こんなところまで、律儀にひとつ飛ばしにしなくてもよい。
最後のシーンなど、とってつけたかのようなお粗末なもの。
キャラゲーの側面もあるのだから、キャラごとのエロの温度差を、如実に感じさせてはならない。
この手のゲームのエロは、エロければエロいほどよい。なぜなら、エロを抑える必要性をどこにも感じられないからだ。
あざといエロくらいでちょうどいい。
作中で、「過程すっ飛ばしすぎだよ」と、千乃が似たようなシチュエーションでツッこんでいたけれども、
実際に飛ばしちゃいかんだろう、と思う。コレという強みがないのは残念。
◆サウンド・ヴォイス◆
「カーニバル」で知られるNANAさんが主題歌を担当。「春色メロディ」はフルで聴きたくなる一曲。
この季節にぴったりの暖かみが感じられる。音楽面における不安材料はない。
声優陣の熱演にはひたすら脱帽。「声優に何喋らせてんだ」と度肝を抜かれる際どいワード、
破竹のマシンガントークは実にコミカル。ウィットに富んだ返しは、聴いてて小気味いい。
このテキストにして、このヴォイスあり。主演女優賞は五行なずなさんで決まり。
◆総評◆
軽妙洒脱なシナリオに隠れて指摘が少ないが、ハート、スペード、ダイヤ、クローバーこそ、この作品の隠れた肝である、と思う。
ひとつ飛ばしという一歩引いた立ち位置でありながら、いつの間にか、堂々とヒロインの位に座する元サブヒロインズ。
キャラクター紹介で事実上のメインヒロインと紹介されているとは言え、
彼女たちの頭に冠されたトランプのスートは、ある種の下克上のシンボルと受け取れる。
「私たちこそがヒロイン」と声高に叫べないサブヒロインは、無言で主張する。
僕は、この“目印”に責めることのできないあざとさを感じてしまった。
りさという不確定要素はあるものの、おおむね良作。
気の早い話で恐縮だが、次回作では笑いのマンネリ化を防ぐ手立てを熟考してほしい。
課題がいくつも出た作品ではあったけれど、クリエイターは良くも悪くも新たな手ごたえを感じたはずだ。
【雑記】
◆ちびキャラ担当のいずのケンタ(現在は藍圭あけ名義のご様子)さんは、個人的にもっと多用されてほしいですね。
◆歴史学を食んだ徒として、イフはあまりよろしくないと承知しているのですが、
キャラクターだけを紹介しておいて、タイトル・攻略キャラ・CG・人物関係を紹介しなかったら、
今頃どうなっていたでしょうね。