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AtoraさんのVenusBlood -FRONTIER-の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
VenusBlood -FRONTIER-
ブランド
DualTail(DualMage)
得点
85
参照数
1900

一言コメント

苦節5年。ようやく日なたに出てきたといった印象だ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

個々のユニットの能力を高めることよりも、プレイヤー側の運営や運用といった管理能力を第一に問われるゲーム。
やることなすことに派手さはないが、その重厚で精緻なつくりは、いかにも玄人受けが良さそうだ。歯ごたえ抜群の一作である。


遊べるゲームにおいて一定の地位を築いたエウシュリーやザウス、アリスソフトといったブランドには、
いまだに知名度という点で引けを取っているように感じる。
しかしながら、クオリティの高さでは勝るとも劣らぬ実力を持っている……というのが、僕のDualTailに対する、いま現在における所感だ。
VenusBloodシリーズ(以下、VBシリーズとする) については、名よりも実を取るプレイヤーにうってつけの作品群という印象がある。

ただし、今回に限って言えば、発売時期がどうしようもなく不運だったのは否めない。
同日発売の『創刻のアテリアル』(エウシュリー) と本作とを秤にかけて、
エウシュリーの前作『神採りアルケミーマイスター』の再来を夢見て、安牌を取ろうとしたユーザーの心情が忍ばれる。

それでも、エウシュリーの作品とデュアルテイルの作品を、同じ土俵に立たせてどちらを買うか、
どちらを先にプレイするかと、迷うようになったユーザーがいたことは誠に喜ばしい。
ちょっと前までは、触手・調教・陵辱といったワードから、「遊べるゲーム!」といった真っ直ぐなセールスポイントよりも、
「エロいよ~、それに遊べるよ~」といった、どことなく胡乱なイメージが先行しがちだった。
それを考えると、着実に伸びているブランドであることは間違いないだろう。

これらは評価の埒外の話なのでここまでとするが、ブランド自体にはこれからも注目する価値があると思う。


さて、冒頭でも述べたように、このゲームは歯ごたえを求めるプレイヤー向きである。
なぜこのような書き方から入るかと言えば、このゲームがビギナーにとって、かなり不親切なつくりを第一に意識させてしまうであろうから。
何も知らずにプレイすると、必ずや出鼻を挫かれることだろう。

たとえば、通例のRPGにありがちなチュートリアルや、“お試し戦闘”なんて都合のいいものは物語中にない。
早い話が「慣れるより慣れろ」を地で行く仕様。なんとも硬派なものだが、実際にやってみないとこればっかりは体感しにくい。
どうしても分からない時は、別枠のチュートリアルをじっくりと読んでみることをオススメする。
このつくり自体、ヌルい仕様に溢れるこの業界では珍しいように思う(一応ことわっておくと、鬼畜難易度とはまた別の話になる)


戦闘システムは6対6のシンプルな戦闘画面。
一見すると単なる殴り合いで勝負を決するかのように見えるが、事はそう単純ではない。

物語の前後半を問わず、スキルや特殊能力の数が非常に多いからだ。
強力なユニットで力押ししようにも、“○○活性”や“師団弱体”といった対象のユニットを強化or弱体させるスキルのほか、
ターン終了後の回復や追加ダメージ、兵種間の相性、さらにはチート級の敵ユニットまでもが存在するため、なかなか一筋縄ではいかない。

ああでもない、こうでもないと分析しているうちに、貴重な時間を浪費してしまう。
もっとも、これはプレイヤーとしての醍醐味であるから、一概に空費したとは断言できない。
それでも時間泥棒であることに変わりはないため、片手間でやろうとすると痛い目を見るだろう。
そのかわり、システムへの理解が深まってくると物凄く面白くなる。 実に骨の太いゲームだ。

このゲームでは、ユニットごとの能力を重視するプレイングは賢くない。
となると、従来からパーティーとしての総合力を重視しているプレイヤーにとっては、これ以上ない天恵の作品だと思われる。
どっしりと腰を落ち着けて、将棋や囲碁のように攻め手、防ぎ手を熟考していくほどに、このゲームシステムは噛み砕かれ、自ずと旨みが出てくるようになる。
中盤から後半へと至るにつれて、歯ごたえは面白さへと変換され、不親切さも徐々に緩和されていく。
いったん面白く感じると、それが長続きする。ただ、これは一周目に限ったことで、廃プレイするとなるとこの限りではない。


このように概ね優秀なシステムだが、いくつか不満もあった。

まず、同じ兵種を重複して登用することができない点が挙げられる。
トレハン軍団や魔獣軍団など、そのパーティー編成は多岐に渡り、ゲームとしての自由度はかなり高い。
それなのに、なぜか同じユニットは全部隊で1種類につき1ユニットしか登用できないのだ。
ゲームバランスの調整の影響とみるが、大いにフラストレーションが溜まる。


また、スキル面でも見えない制約があったように思われる。
ノーマルモードでプレイしても、一部のスキルを用いなければ、クリアするのが結構なハードワークになった。

私的な経験を含むあたり恐縮ではあるが、その最たるスキルがトレハンだ。
このスキルは、我々のトレジャーハンター魂をくすぐりつつも、ゲームのスムーズな進行を左右する。
これをパーティに組み込むか否かで、難易度も面白味もガラリと変わってしまう。
装備品やメダリオンの入手に、多大な影響を及ぼすからだ。まこと厄介極まりないスキルである。

それを考えると、このゲームの中毒性は、砂上の楼閣のごとき危うさを秘めていると言わざるを得ない。
一定のスキルを使わなければ面白味が減じるというのは、ゲームとして如何なものかと首を傾げる次第である。


一応内政も存在するが、あまり用をなさない。
プレイ済みの方は参考までに、「永遠のアセリア」(ザウス) の内政システムを想像してもらえるといいだろう。
つまり、その手の機能を殆ど利用せずとも、クリアに漕ぎ着けるほどの空気っぷりなのである。

それに加え、内政に関連してひとつツッコミを入れておきたい。
こちらにとっての国境線という概念が、敵さんに欠落しているのは一体どういうことなのか。
つまり敵は、隣接している、いないに関わらず、ところ構わず攻撃を仕掛けてくるのだ。
離れている地点であっても敵の来襲に晒されるとは、さながら戦闘機のそれである。
これは、実質的に地理的な戦術というものが存在しないことを意味しており、前述した内政のちぐはぐさをさらに際立たせているように思う。
攻めにくい地形や、取られてはならない要衝といった条件がマップ上にあまり反映されず、完全に運任せになっているきらいがある。
地形効果を気にして戦いに臨むプレイヤーにとっては、敵国に隣接する拠点を有用に使えないため、さぞがっかりすることだろう。

このように大なり小なりの不満はあるのだが、システムの根底がしっかりしているからだろうか、ゲームをプレイしていて「投げる」ことは一度たりともなかった。
時間を吸い取られる作品であることは間違いない。時間を忘れてしまうことに、一抹の不安を抱えるほど面白かった。


次はシナリオについて。

僕はこのゲームのシナリオにはハナから多くを求めていなかったクチだ。
ある程度物語としての形を保っていれば、システムで評価を伸ばせるだろうと思っていたが、そのとおりになってしまった感じがする。
『創刻のアテリアル』のレビューにも書いたが、ことゲーム性を重視すべきと感じた作品について、僕はシナリオの部分で目をつぶろうとするスタンスだと自覚している。
そして、この作品もその例に漏れなかったわけである(ここで僕の主張を語ったところではじまらないが)


大雑把に言えば、この物語はウリがいまいち分からなかったというのが本音か。
女神悪堕ち触手SLGとは明記してあるものの、悪堕ちというよりは快楽堕ちといって差し支えない代物。
シーン以外のイベントでは女神が堕ちていく様が読み取りづらく、堕とす側としてはエクスタシーを得にくい。
堕落は数値として明確に刻まれるが、「あたしって、ほんとバカ」然とした絶望も、洗脳も、調教も、エロシーン外での描写がいま一つ物足りない。
堕ちる前の葛藤よりも、堕ちた後の売女状態の女神のほうが、堕落した感じが浮き彫りになっており、より愉しめること請
け合い。
堕ちる前の過程を端折りすぎていると感じた。

そもそも、女神を悪堕ちさせる動機が非常に脆弱なのもいただけない。
最終的には、女神たちは主人公ロキくんの仲間に入ることになるわけで、そこからさらに堕とそうという理由付けがほしいところである。
しかし、肝心の動機が作中であやふやになっており、いまいち乗り切れない。
これは主人公の人となりや境遇に起因する向きはあるが、いずれにしろ説明を削りすぎているのは否めない。
エロをも包含して考えてみると、シナリオとの不均衡著しいと言える。


それに僕は、「このゲームの“悪堕ち”というのは、厳密な悪堕ちとはちょっと違うんじゃないか」と思う。
堕ちると言うと、僕の中では、それはそれはハードで絶望的なイメージがあった。
それだけに、「こいつぁ、ちっとばかしヌルいんじゃ…」と肩透かしを食らってしまった。

それもそのはず、女神は基本的にイヤイヤと首を横に振りながらも、徐々にエロに目覚めていく。
そして、めでたくロキくんに堕落させられてしまうわけだが、この一連の流れがとどうも時代劇の茶番くさくていけないのだ。
ロキくんに、舌先三寸の悪代官っぷりが染み付いてしまっているのと同様、
女神たちに憐れな姫もしくは気の毒な町娘役を配しているという構図があるように思える。


あくだいかん ろき 「ふっふっふ。イヤとは言いつつも、身体は素直に反応してるではないかー。 んー?
             よいではないかー、よいではないかー」

まちむすめ てぃるか 「あああッ、お戯れをお代官さま~。 あ~れ~」


とまあ、堕ちる過程において、この構図をふんだんに多用していると思うのだ。
程度の差こそあれ、悪代官がやることもロキくんがやることも、結局は快楽攻めに過ぎず、それ以上のことはやっていない。
本作においては。女神が勝手に快楽に負けただけという印象が強く、心的に堕ちる描写に拙い。
堕ちた後の自分を評して、生まれ変わったなどといけしゃあしゃあと喜ぶ女神もいる始末なのである。

復讐だのなんだのとかっこよさそうなことを嘯いてはいようとも、肝心のロキくんがそれなりに深度の中二病を患っているので締りが悪い。
女神が悪堕ちするより前の日常描写とエロシーンを見比べると、彼女たちの反応のギャップが激しすぎて滑稽に映ってしまう。

注釈を入れておくと、女神を堕とすことだけが目的のゲームではないから、彼女たちを屈服させることがクリアの必須フラグというわけではない。
純粋にゲームを楽しみたいプレイヤーは、別に女神を堕落させずともクリアしてもいいだろう(ハードな処女喪失だけは不可避か)
これはプレイ次第でいかようにも変えられるため、ニッチでなくなったぶん、門戸は広くなったと見ることもできよう。
ただし、それでいくと特長であるエロ濃度は一気に希薄になるわけで、ユーザー側の評価としては難しくなってしまう。
なんとも贅沢な悩みだ。

エロそのものだけ切り取ってみると、プレイヤーの好き嫌いが明確に分かれるのではないかと思われる。
遊べるファンタジー系の作品にしては陵辱色が色濃く、一部では断面図のカットインまでもが挿入される。
僕は断面図スキー(基本的に二次元しか味わえないじゃないか!) な人なので、これは歓迎すべき点ではあるが、慣れない人にはきつい描写かもしれない。
ハードなだけあって実用性はピカイチ。嗜好さえ合えば、長らく活躍してくれそうだ。


最後に、音楽とボイスについて。

注目度は低くなってしまっているが、音楽の出来映えが光る。
臨場感を高めてくれる音楽というのは、いつだってシナリオのいい女房役になる。
おしなべて高品質の楽曲が揃っているため、不安は微塵も感じられない。

また、女性陣のヴォイスは、この手のゲームではそれなりの技術が伴うものと察する。
それに基づけば、メインを張る女性陣やガルム、スルトに関してはまったく問題ないだろう。
しかしながら、イミルの台詞回しがあまりにも単調すぎるのは痛すぎる失点だと思う。
あれほど酷い大根役者っぷりは、久しぶりに耳にした。素人耳で恐縮だが、これは看過できるものではなかった。
言葉尻も「~だね、~だからね」が多すぎてウンザリした。


長くなったところでまとめておくと、VBシリーズの当初から、着実に進化を遂げた作品だと思う。
単なる触手、調教ゲーにとどまらず、遊べるゲームとして抜群の機能を搭載している点は瞠目に値する。
むしろ、そちらの方こそ核であり、正直なところ満足度は極めて高い。

なにかと敬遠されがちなハードのキーワードからは予想もつかないほど、洗練されたシステムには驚きの一言。
将棋や囲碁における一手のように、綿密な計算に基づいて行動を起こすプレイヤー向きの一作である。

ニッチなエロシーンのせいで、このシリーズを食わず嫌いしているのは考え物だと僕は思う。
戦闘システムは熟成の域にまで達しており、特に対価に見合う緻密なシステムを創り上げた点は、賞賛されこそすれ貶められるべきではない。
今後の改良については目下DualTailの課題事項だが、今のままでも十二分に遊ばせてくれることだろう。



【プレイ済向け】
メダリオンを駆使して称号をつけることで、汎用ユニットにスキルを覚えさせることができる点は革新的で面白い。
しかしながら、せっかく機能しているだけに、もったいないと思える点もいくつかあった。
何と言うか、称号が不統一で格好がつかないと思う。
せめて、接頭語を“○○の”という形か、活用を含む動詞または形容詞のいずれかに絞り、接尾語を名詞で統一すべきであった。
○hackで用いられたランダムダンジョン生成のためのワード遊び風にしても、それはそれで面白かったのではないか。

メインバトルは1ターンに一度限りのため、そこにトレハン師団を用いる場面が増えてしまった。
おかげで、他の師団はエンカウントバトルにまわりがちになり、戦闘そのものがルーティンワーク化していく可能性がぬぐえなかった。
当のエンカウントバトルでは高火力が要求され、防御が得意なユーザーでも大ダメージを与える編成を余儀なくされ
る。
これでは、防御の面白味がない。また、侵攻された時でも、相手を完全に屠れないと攻め取られる仕様は解せない。


【雑記】
次の作品名は「Venus Blood -GLORIA-」と勝手に予想している。