甘くて甘くて甘いシナリオのオンパレードである。ぱれっとらしからぬ作風ゆえに、「ぱれっとが角砂糖になってしまったのか?」と思わずパッケージ裏を確認するほど、シナリオが甘ったるい。その甘さは、王道を愚直なまでに直進したが故の産物であり、今となっては陳腐の極みと謗られても仕方のないところだが、それでも、作品全体に満遍なく塗りたくられたダダ甘な展開に、終始ニヤニヤが止まらなかった。童貞主人公がエッチで失敗するのは、通例でいくとダメ男くんとして槍玉に挙げられてもおかしくはないのに、それも笑って許せてしまう雰囲気が秀逸。ちょっとした欠点を持つ人格者が集っているからこそ緩やかに紡がれる日常。人にやさしい真っ白な物語だと思う。
シナリオ担当がおるごぅる、保住圭、北川晴の三氏なので、近頃のぱれっと色が出ないのは当たり前と言えば当たり前なのであるが、それを差し引いても、「実はね、ぱれっと以外の別ブランドが制作したんだよ!」と言われたほうがしっくりくる内容であった。それもそのはず、『もしも明日が晴れならば』、『Dear My Friend』のシナリオ担当であるNYAON氏の筆致は、どちらかというとシナリオをじっくり読んでうるうるしてしまう話が多くて、恋人関係に至るまでの過程でプレイヤーを引き込んでいたように思う。
これに対し、今回ばかりはうるうるよりもニヤニヤする場面が異様なまでに多かった。恋人になってからのこっぱずかしさは、明らかにぱれっと比2倍以上という、“恋人その後”もぐいぐいアマアマな展開でもって引き込んでくるから、ハマりすぎたプレイヤーにとっては堪らない。私も目が離せなかったし、ニヤニヤが止まらなかったプレイヤーがいたのも頷ける。
ところで、「学園モノなんて使い古された王道だ!」なんて評価をちらほら耳にするけれども、ダダ甘な日常を描くことに拘りに拘りぬくと、結果としてメープルシロップをかけまくったホットケーキが出来上がるわけである。本作は殆どがダダ甘な日常で構成されているので、硬派なプレイヤーにとっては拷問にも等しいし、考察を嗜みとするプレイヤーにとっては箸にも棒にもかからない作品であることは疑いないだろう。しかし、ダダ甘だからこそ描ける作品が存在することも事実であり、そんなアマアマなホットケーキが好きなプレイヤーも必ずどこかにいる。
本作は「ああ、よかったな」的なノリのお話が多く、その理由についての考察は、物語をまくろ色に塗りつぶすだけなので、むなしさが倍増するのみ。やめておいたほうが賢明だ。たとえば、物語を読んで号泣したり、クリア後に何か考察したりといった、後に残る作品ではない。よって、思索にふける必要性はなく、素直にドラマとして読みすすめていったほうがニヤニヤが継続すると思う。以下、私のプレイ順に。
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◆シナリオ◆
愛理は典型的なツンデレっ娘であり、そのシナリオはベタもベタ、アマもアマ。要は、全シナリオ中で群を抜いてダダ甘というわけだ。やはりと言うべきか、毎度の事ながらつばす絵のツンデレの破壊力は相当なもので、ツンツンの愛理が一瞬照れた時など、反則的なかわいさを撒き散らしている。つばす絵のキャラクターで言うと『青空の見える丘』の伊織嬢を髣髴とさせるが、愛理はそれにも増して、完璧さに磨きがかかっていた。ただ、完璧を求めるが故の不器用さも兼ね備えていて、それがまた彼女の魅力でもあるから、デレた時に思わずグッときてしまう。ちょっと破天荒なところも、たいしたミスを犯してない時の慌てぶりも、魅力の一つとなってしまうんだから恐れ入る。
ヒロイン側からの視点つきという心憎い設計のおかげで、なんだか作中の人物にはちょっぴり申し訳ない気もしないではないが、
「ああもうっ……来週さん、来週さん、
早く来て、あいつに会わせてよ……」
なんて呟いている愛理を見せられては、全ての味覚細胞は甘さのみを感知せざるを得ない。他にも萌える場面だらけの愛理シナリオは、「ええい、これでもか!?」というくらい甘ったるい。ここまでダダ甘なシナリオも久しぶりだが、恋人に至るまでの過程もまた色々な意味で香ばしいので、そこも余すところなく楽しむべきだろう。
このお話では、思わず愛理の相談&いじり役になっていた桜乃にも惹かれてしまった。これについてはまた後で。
みうシナリオの評価は分かれそうだ。最初は「紗凪との三角関係になるのかな」と悠長に構えていたが、そんなどす黒い展開にならないのがこのシナリオの優しいところ。全体的な問題として、善人を中心に構成されている本作は、ダークな展開を想起させる場面でも、自然に清い方向へ動いていく。まくろ色にならない。
そんな中で、みうシナリオは唯一、白以外の色がつきそうな筋書きだったのだが、これも紗凪が一歩引いた見方をすることで白へと漂白されている。そういった意味では、みうシナリオこそが、最も「ましろ色してる」と感じることができるだろう。天羽みうと動物たち(主にぱんにゃ)の暖かくも切ないストーリーを追える話でもあり、彼女を心から敬愛する乾紗凪をかっこいいと思える話でもある。年上で巨乳なのに、童顔で天然でロリロリな雰囲気を撒き散らしている先輩なので、萌えシナリオとしても優秀なのは、エロゲーならではのお約束。
唯一、色々な見方のできるシナリオだが、もし紗凪シナリオがこのシナリオから派生していたならば、みうルートはまくろ色へと変色していた可能性もある。そうしなかったのは紗凪の善人ぶりを最大限に表に出すことで、愚直なまでに物語を純にしようとしたライターの意図が見え隠れする。
みうの母親、天羽結子さんも魅力的なので、惹かれるプレイヤーは多いはずである。また、今年度史上最強マスコットぱんにゃは、発売前人気投票2位をもぎ取っただけあって、物語の中核を担うに相応しい活躍をする。ぱんにゃファンにとっては十二分に満足のいくシナリオで、おるごぅる氏曰く「10%ぐらいはぱんにゃでできている」ということであるが、「いやいや、それ以上あるでしょ、これは!!」と早口でまくし立てたい。ま、いくら活躍しても足りないくらい、ぱんにゃという生物はかわいいのであるが。
桜乃は、ザ・妹のテンプレートが勢ぞろいしているため、最も王道的なヒロインと言っても決して言い過ぎではない。それでも一点だけ気がかりがあって、彼女がいわゆる不思議ちゃんキャラクターなので、どんな展開になるのか予想だにしていなかった。しかし、蓋を開けてみると拍子抜けするほど内容は普通で、プレイヤーによっては、時には面白みには欠ける部分もあるかもしれない。
実は義妹。昔の夢と淡い恋心。同い年の子から告白される兄。葛藤。恋に気づく自分。結ばれる二人。
こんなお約束のシチュエーションばかりで構成されてるシナリオであるため、どこをどう取っても真新しさは出てこない。ただし、重要なのは、愛理と比べると桜乃のほうが恋人になってからのシチュエーションがじれったいので、いちいち面映い気持ちになることだ。妹としての桜乃に嫉妬を求めるのは酷というものだが、恋人としての桜乃は当たり前のようにむくれるし、上目遣いでうるうるもしてくる。そんな場面をどこまで楽しめるかが評価の鍵であろう。
ところどころ、エキストラの影響で暗い雰囲気になるが、それを吹き飛ばすくらい甘いという印象が残る。『夜明け前より瑠璃色な』の朝霧麻衣ほどではないにしろ、安玖深さんが演じる妹キャラは、エロシーンに突入すると、いい意味でやたらエロかわいくなる。桜乃も例外ではない。
兄妹から恋人への階段を少しずつすこしずつ上っていく二人を、安心して見ていられた。桜乃ルートでは愛理の立ち位置が絶妙で、みうルートの紗凪のようにかっこいい。このお話は、善人が全面的に協力してこそ迎えられるエンディングだと思う。それをご都合主義だと言って謗るかは人による。
元気いっぱいのアンジェパンマンには、コメディ満載のダダ甘な恋愛を!!……と意気込んでいたら、見事に肩透かしを食らった。主従関係と恋人関係の相違というのが、このお話で二人が葛藤すべき難題であるが、思いのほか新吾が簡単に受け容れてしまった点が、ちょっと安易過ぎたのではないかとブー垂れてみる次第。それでも、共通シナリオから続く明るい雰囲気はそのままに、アンジェが恋人へと昇格したというシナリオに、全く不自然な感じはしなかった。
エロゲーには珍しく、女の子が恋する瞬間というのが克明に描かれているのが特徴的だ。詳細は伏せるとして、その場面で新吾がかっこよく思えてしまうのは間違いないし、野良メイド視点では「きゅん」としちゃうのも納得できる。ただし、全体的に見ると勢いが足りない。愛理や桜乃に比べるとこそばゆい話だったが、アマアマという印象以上にアンジェが騒がしく、ヘッドドレスの一件などもあって、単なる喧騒劇として記憶に残ってしまいがちなのだ。甘ったるいというよりは甘酸っぱいに近い恋愛なので、これを最後にもってきたのは個人的な失敗だったと言える。
他のルートに漏れず、アンジェシナリオでもサブキャラに降格したヒロインの立ち位置が明快で、重要な役を引き受けている点がいい。特に、遠まわしにカップルをいじる役回りをしていた桜乃の立ち位置は、作中では最も見ていて楽しい位置関係となった。他の3つのルートを先にプレイしていたので、桜乃はこうなるんだろうなと予想もできたが、それでも思わずほくそ笑んでしまった自分がいる。
どのルートもじれったい&甘い事には変わりないが、微妙にアマアマの度合いが違う。愛理は本当に甘ったるく、終始デレデレしているため、最初に食べ過ぎるとおなかいっぱいに。それに対し、アンジェはその短さに起因してか、意外とあっさりしており後に残らない。桜乃とみうは少しビターが入っており、ややダークな感じを受けるものの、ドロドロという程の事はない。テキストレベルに高低があるというわけではないので、これはもう好みの問題ではないかと思われる。
ともかく、全てが甘いシナリオとして構成されているのは間違いなく、いずれもそれなりに楽しめるということ。萌えゲーの中にあって、突出した物語も脱落した物語もない作品という点は評価できると思う。
◆絵、演出◆
和泉つばすが好きなプレイヤーには、文句なしにオススメできる作品で、「ぱれっと塗り」にはほとほと脱帽するばかりだ。ただし、イベント絵の複数回使用がみうルートでは顕著なので、そこが少し目に付くかもしれない。また、アンジェの膝枕CGが用意されてなかったのが、残念な点として数えられる。
窓に映る人物の表現や後ろ向きの立ち絵などは、リアリティを醸し出していたが、シナリオに与えた影響は少なく、むしろ携帯のメールに用いられていた「Re:Re:Re:Re:Re:」など、場面場面での使い回しがきかないCGの丁寧さが光った。純な恋愛を描く時に限っては、こういう細々としたディテールが嬉しい。
インパクトがあったCGと言えば、極上で喜びを表現するぱんにゃ。……ぬいぐるみ化が推進される道理は、ぱんにゃの「はふはふ」にこそあるのではなかろうか。
◆エッチ◆
主人公がここぞという時に失敗しまくるので、抜きゲーとして作られたんじゃないことは明白である。しかし、恋人のなってからのシチュはアマアマになった状態なので、それなりに萌えるだろう。とくに、桜乃は普段が普段なので、やたらギャップを感じるはず。義妹萌えのプレイヤーにとっては悶えること請け合いだ。
どのヒロインも新吾の前では漏れなくエッチになってくれるのは、エロゲー冥利に尽きるといったところである。
◆音楽◆
みうルートだけに挿入歌が付されており、『さよなら君の声』の存在感は極めて大きい。ぱれっとの挿入歌と言えば個人的には『もしらば』の『凪』なのだが、『さよなら君の声』も、挿入歌にしてはハイレベルな完成度を誇っている。シナリオなくとも聴ける曲だと思う。
全体的にそつがない曲が多く、場面場面の使い方等にも全く違和感はなし。聴き心地のよいやわらかな曲調を持つ曲が多い印象である。オープニングは並というところか。
声優は個人の好みと考えているので、ここに関しては割愛。私が聴いていた分には、不自然な点はなかった。
◆総評◆
学園モノという王道を、ただひたすらに直進した作品である。右にも左にもぶれておらず、深いテーマ性の読み取りは不要であろう。愚直なまでに王道を描ききった分、起伏に富んだ物語ではなかったけれど、どこかでやさしさを、どこかであたたかみを感じ取れる作品に仕上がっている。結局のところ、シナリオをドラマとして読み進める中で、いかに甘いシチュエーションに浸れるかが評価の分かれ目となっている。
いずれのシナリオにおいても、ヒロイン以外の女の子が魅力的でいてくれるのが、私が今作で最も好きな点である。前述の通り、愛理ルートの桜乃、桜乃ルートの愛理、みうルートの紗凪、アンジェルートの桜乃―――という風に、サブヒロインに降格したはずの女の子に惹かれても全く不思議ではない。それくらい、ルート毎の引き立て役に降格した女の子の振る舞いが健気というか、どうしても惹かれるものがあった。校長が言わずとも、いい女たちが多い。
主人公が童貞ゆえにエッチでかなり失敗するのはご愛嬌。それでも、見ていてあまり不快な気持ちにならないのが不思議なところだ。苦労性の人、瓜生新吾の人となりをよく表していると感じた。プレイヤーとしてせっかちにならずに済んだのは、彼が善人のなかでも、筋金入りの善人だったからに違いない。ほんわかとした雰囲気をお望みのプレイヤー、エロゲーをはじめたてのプレイヤー、少しずつ進めてクリアするプレイヤーにとってはうってつけの作品と言えるだろう。
全て読み終えたときの感想は「ごちそうさまでした」。そんなアマアマなシチュエーションばかりを味わえる作品だった。
【雑談】
ぱんにゃゲーという評価も納得の内容でした。マスコットキャラクターで印象に残ってるのは、私の中じゃアズラエルとボタンくらいのもんです。でも、群を抜いてこいつかわいいんですよね。ゲーム開始前の「この物語はフィクションであり~~」を「うりゅりゅりゅー」って紹介するのには参りました…。