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Archelirionさんの天冥のコンキスタ -魔族制圧編-の長文感想

ユーザー
Archelirion
ゲーム
天冥のコンキスタ -魔族制圧編-
ブランド
エウシュリー
得点
53
参照数
1903

一言コメント

一部の改善点はあるものの、やっていることは同じ。アペンド第二弾の存在を匂わせる終わり方にも不信感あり。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

新要素を一通り消化しました。

本アペンドの新要素は以下の通りです。(公式HPより一部抜粋
・全25種類以上の新規マップ
・完全新規追加キャラクターの登場
・ストーリーに準ずる新規ユニットの追加
・一部、既存敵ユニットのクラスを追加
・ユニット追加に伴うアイテム、スキルの追加
・輪廻項目に、既存メインキャラの上級クラス追加
・LVとそれに伴う各種能力の上限値を上昇
・契約数や捕獲数の上限上昇イベント

本アペンドですが、以下に該当する場合は購入を検討しても良いでしょう。
・本作に対して好意的な評価をしており、かつ分割商法に抵抗がない
 →すでに完成されたタイトルに対して要素を追加するのではなく、厳しい見方をすれば未完成品を完成品に近づけているようなものです。
  尻切れトンボな本編のシナリオが気になって仕方がない人か、よほどのファンでなければ購入はおすすめしません。

・アペンド第二弾のリリースが予見できるようなラストを許容できる
 →シナリオの部分で後述しますが、クラウスの野望が完遂したわけではありません。
  エピローグで一度攻略した聖禦の霊峰に再度侵攻する旨の宣言をしており、おそらくアペンド第二弾が出るのでしょう。
  第七十五説を攻略した時点でスタッフロールが流れることも、上記の推察をより強くします。

各追加内容に対して点数はつけませんが、いくつかコメントを記載します。

[主要ストーリー]
本編では様々な種族を傘下に加えつつ、聖禦の霊峰に侵攻して指揮官のオルガ=ニザ=カイトを撃破したところでエンディングを迎えました。
今回はクラウスがイムニス地方一帯に君臨する魔族の王になる目標を達成するため、継続して残りの魔族の支配領域や天使軍の残党を蹴散らしていく展開になります。
有り体に言ってしまえば、本編での第一説~終説(五十説)までの流れをそのまま、第五十一説~第七十五説まで繰り返すというだけです。
ただし、クラウスとヘルミィナの二人しか出てこなかった本編に比べ、追加キャラクターのラムエルが狂言回しの役割を担っているため、魔族の行動原理や種族としての特徴であったり、クラウスは個々の力に頼りがちで団結することを知らない魔族への対抗策として知恵とチームワークを重視する人、という説明をしている点においては改善が見られていました。
劇中のシナリオ進行の中でサブキャラクターが時折登場するおかげで戦闘狂のエルヴィール、知的好奇心を満たすためには残虐行為などの手段を厭わないレジーニア、金銭への執着により自軍の資金を窃盗するメイズへ対処に苦悩するクラウスの姿が見て取れる点も本編からの改善点と言って良いでしょう。
シナリオの進行度合いが見えづらなかった部分はそのままですが、ラムエルがクラウスとヘルミィナのやり取りを通して成長したり、自分に宿る力を感知して適宜目的地を提示していた箇所も、闇雲に侵略をしているように見えてしまった本編と比べると一定の指針の元に行動していると思えます。
ラムエルの正体を知ることも本来のクラウスの目的である、力を見せつけることしか能のない魔族はそれ以上の力を見せつけることで屈服させられる、これを続ければいずれ大きな軍勢となって魔王と呼ばれる存在にもなれるだろう…という部分と合致するので、全くの不合理というわけではありませんでした。
また、本編では明らかにされなかったレーヴァロイスなる単語の意味(魔族側の支配者)とクラウスの正体(レーヴァロイスの力の一部が入りこんだ廻天の聖壇の被検体)も判明しましたし、その中で廻天の聖壇にて生み出された天使の複製体と敵対したことと絡めて、クラウス本人が「自分は何故自分であると言えるのか?」というメッセージを投げかけたことについても重要な意味を持っていると考えます。
この自意識や自己の確立といった分野を本編から常に主軸に据えたシナリオであったのなら、もっと評価ができたのかもしれません。
残念ながら、上記の点はまるで起伏のないシナリオの評価を覆すほどのインパクトではなく、オルガ=ニザ=カイトを始めとする天使側の思惑や廻天の聖壇の仕組みなどは明らかにされず、本編同様に、俺たちの戦いはこれからだ!方式で締められてしまっています。
Ctrlでスキップしようとは思いませんでしたが、本編同様にこれをシナリオと呼んでいいものか、との疑念は残ったままです。

[キャラクターたち]
主要ストーリーでも記載しましたが、本編ではほとんどクラウスとヘルミィナしか出てこなかった点が改善されており、時折サブキャラクターも会話に加わってくるようになりました。
ただし、追加イベントの発生条件になっていたり専用の追加アイテムを得られるわけではないので、残念ですが本編よりはマシになった程度のものです。
新規追加キャラクターの3名のうち、ラムエルは追加シナリオ全般で登場するためパーソナリティが理解できる、というよりも登場した時点でろくに記憶を持たないためクラウスとヘルミィナに感化されていく過程で自己を確立していく点は良かったように思います。
その代わりに残りの2キャラクター、カミラはレーヴァロイス配下で戦略立案に優れた騎士であることはわかりましたが、アンリエットは敵対時と個別イベント以外ではわずかに姿を見せる程度のため、あまりにも影が薄いまま放っておかれてしまった印象です。

[各種追加要素について]
・追加されたユニットと上位クラスなど
レベルキャップが80まで開放され、ステータス上限も同様に上昇しました。他にも過去のシリーズに登場したユニットの登場、はぐれ魔神に相当するキャラクターの追加などもあり、自軍の編成のバリエーションが拡充されました。
ですが、エクストラダンジョンなどのやりこみ要素は追加されなかったため、強敵との対峙という点においては意図的にプレイヤー側で制限を設ける、いわゆる縛りプレイをするしかありません。
当初のコンセプトである「自由な勢力の作成・オンリーワン部隊の編成を実現」に血道を上げてユニットのステータスを強化したとしても、使う場所はシナリオで通ったマップを再度周回することのみです。
せっかく作った軍団を活かす場がない点が改善されなかったところは残念でした。

・追加イベントとシーン回想など
各種追加要素の存在により、サブキャラクターの親交イベント時と捕縛したユニットを契約した際に発生するシーン回想も同様に追加されています。
メイン・サブの9名に一つずつで9、追加キャラクター3名分で7、契約時で10の総計26シーンがありますが、こちらは本編同様の絵柄ですので特に問題はないでしょう。
1シーンだけとはいえ配下に加えたオークを参加させた点でバリエーションが増えたと言えますが、基本的にクラウスとの一対一は変わりません。
このシーン回想に至るまでにはレベルアップと個別イベントをこなすことで回収が可能ですが、1~2ほど増えた程度なので各キャラクターのパーソナリティの掘り下げとしては十分とは言えません。
根幹のデザインの時点でサブキャラクターを使う意図があまり感じられなかったので、注力されない点は仕方がないのかもしれません。

[総評]
冒頭でも記載しましたが、分割商法と捉えられても仕方のない内容です。これをアペンドディスクと言っていいものか非常に悩みます。
より新しいチャレンジができるわけでもなく、完結を見た本編とはかけ離れたおふざけやクロスオーバーでもない。
本編で未解決だった一部の事象を解決したが、その代わりに新しい目標ができたというところでエンディング。
本編が五十説、アペンド第一弾が二十五説までとするならば、残りの二十五説をアペンド第二弾で追加してキリのいい百説で完成するのではと推測したとき、これを分割商法以外の単語で表現できません。
確かに問題点として挙げた箇所は改善されていましたが、あくまで"前よりマシ"であって根底からの改善ではありません。
シナリオやキャラクター面ではセリカのように自分の存在意義について悩んだり、リウイやヴァイスハイトのように組織の長として苦労しながら成長したりしてほしいと思っていますし、その過程でサブキャラクターと協力しあって壁を破ったり、信条をぶつけあってほしいと思っています。
そしてゲーム性の面において気に入ったキャラクターに対しては徹底したレベリングや装備とアイテムの投与による偏愛もしたいのです。
相変わらずキャラクターを好きになれるきっかけのない淡白なシナリオ、SRPGとしての体は保っているしあからさまなバランスブレイカーも存在しないけれど偏愛を注ぎ込みづらいシステムでは、新しいプレイヤーを招き入れたり既存プレイヤーをつなぎとめることは難しいのではないでしょうか。
正直なところ、発表された天結いラビリンスマイスターのほうが期待感もありますし、なべて楽天的でありすぎたアヴァロ達がどう成長しているのか、という点も興味があります。
なんだかんだ言って私は存在を匂わされたアペンド第二弾を買うでしょう。ただ、アペンドが出てもなお、この分割された本作を人に薦める気にはなれません。