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Archelirionさんの封緘のグラセスタの長文感想

ユーザー
Archelirion
ゲーム
封緘のグラセスタ
ブランド
エウシュリー
得点
72
参照数
4084

一言コメント

全体的にまとまりがあり高水準。ただし特定の要素に期待しすぎると肩透かしを食うかも。もう半歩の惜しさもあり。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本稿記載時点では一周のクリア、アペンド01含むエクストラ要素を消化済み、各キャラクターの装備を一通り揃えた上での感想になります。
エウシュリー作品には珍しい真っ当王道のシナリオで、全体的に高水準な仕上がりになっています。
ただし最もウリとしている戦闘部分においては、開発サイドが用意したユーザーサイドに有利な仕様に気づけるか?によって難易度が激変します。

【キャラクター】15点/20点
ゲーム中の情報欄をベースに、以下の通りの内訳となっています。
主人公1人、ヒロイン1人、味方ユニット11人が主なメインキャラクター、シナリオの中核を担うキャラクターが7名ほど。
過去作からのアペンド加入キャラクター4体など、55名が情報欄に登録されています。
(ごくわずかに関わる立ち絵のないキャラクター等も含まれています。)

前作天結いキャッスルマイスター(天結いCM)ではAルート(通常エンド)・Bルート(バッドエンド)の2ルートに分岐しましたが、今作においてはシナリオの途中で打ち切りエンディングとなるアナザーエンド以外は分岐なしでシナリオが進行します。
本作はベルガラード王国とテルフィオン連邦との間で長期に渡る戦争が行われており、その戦争に敗北し部隊もろとも捕虜になった後、対魔物用の戦闘要員となる奴隷(隷士)として迎撃都市グラセスタへ送られたベルガラード王国軍所属の傭兵ジェダルが主人公。
過去に遭遇した事件がきっかけとなり肉体と魂が切り離され、普段は魔導操殻と呼ばれる創造体に魂を宿して活動しており、最終的には元の肉体を取り戻すことを目標とする、迎撃都市グラセスタの貴族リリカがヒロイン。
サブキャラクターとしてはジェダルの上官となるベルガラード王国軍部隊長ユトレと将軍ザルドネ、迎撃都市の隷士として同じく魔物と戦闘を生業とする同業者のユナギ、エクセル、アグナの女性3名とペイロの男性1名、敵対国のテルフィオン連邦に所属する騎士団の将軍ダルフィア、ドワーフ族の鍛冶屋ロザリンド、魔族との契約に失敗した代償に降り掛かった呪いを解きたいミクリ、遺跡から発掘された天使ユリーシャ、かつて光陣営に属する現神に封じられた魔王リクシュマの復活を目指す魔神フルーレティといった味方ユニットが登場します。
後述するシナリオの中では、上記のキャラクターのうちユトレ、ダルフィア、フルーレティの3名がシナリオ進行において関係しますが、それ以外のキャラクターはほとんど言及されません。ペイロに至ってはラストボスの戦闘前とエピローグでわずかにセリフがある程度です。
前作天結いCMでは全員がシナリオに関わってきましたが、同じく隷士の女性キャラクターや天使ユリーシャ等は個別イベント以外では出番がありません。
おそらく個別イベントを消化しないと恒久的にパーティへ加入しないケースがあり、プレイングによってはパーティに組み込まれていないのに何故か進行する……といった矛盾を回避するための措置でしょう。他にも予算面等の理由はあるかもしれませんが。
ではキャラクターごとに個性がないかと言うとむしろその逆、それどころか強い個性のせいでユーザーの趣向によっては特定のキャラクター目当てに買ったはいいが、思い描いていた印象と違ったために違和感や嫌悪感を抱き、評価を下げる可能性があるでしょう。
特に隷士の女性陣の中でもエクセルはその影響が顕著で、公式HPやゲーム内で情報欄の記載を抜粋すると以下の通り。
『言動は淑やかで大人しく、誰に対しても人当たりが良い。迎撃都市グラセスタでの身の振り方や生き方をジェダルに教えようと励む。』というのはあくまで見てくれだけの態度で、有り体に本性を述べると性交しながら相手を殺害することに愉悦を覚える快楽殺人者です。
過去作に登場した神採りアルケミーマイスター(神採りAM)のセラヴァルウィ(公式HPにエルフの鬼教官とありましたが、これも偽りアリ)のような淑やかなエルフを期待すると痛い目を見ます。
エクセルだけがあまりに突飛な設定ですが、他のキャラクターは概ね公式HPや情報欄の記載との乖離はなく、神のラプソディのような頭数は多いが個性の掘り下げがほとんどなく印象に残らないキャラクターは存在しません。ただ一度恒久的にパーティに加入したらそれっきりの扱いをされてはせっかくデザインしたのにもったいない、と感じるのもまた事実でしょう。
翻ってシナリオに関わってくるキャラクターについてですが、鍵となるキャラクターとしてグラセスタの重鎮であるレギ、国王サロが登場します。
この2名についてもシナリオの中で個性ないし主義・主張がはっきりと明示されます。後述しますが全員が対立を厭わず己のエゴを押し通し、妥協することはありません。最終的な目標の達成を邪魔をするならば対立関係にある勢力ないし関係者を徹底的に排除するスタンスを貫きます。
シナリオ後半の中核を担う要素「燐使(りんし)」への措置を巡り、各個人が掲げる主義に至るまでの過程が描写された点や、何の説明もなく突然他の勢力の思想へあっさり転向することもなく、最後まで己の主張を貫徹して退場する点においてはポジティブな評価ができるでしょう。
昨今のシナリオによくある主人公の行動が絶対的な正義(この正義というワードは後述のシナリオに大きく関係します)ではなく、目方や立場によって正義の持つ意味は変化する、たとえそれが社会通念上到底受け入れられないような思想であっても「勝ったものが正義」を標榜する今作においてはその思想でさえ「勝ちさえすれば」肯定されるでしょう。その基軸がブレずにいたことについても評価ができるポイントと考えます。

満点を与えられない理由としてはやはりメインシナリオに関係するキャラクターが限定されている、この1点に尽きます。
確かに幻燐の姫将軍2(幻燐2)では個別エンド以外にほとんど登場しませんでしたが、現状を肯定する理由にはなりません。
百歩譲って隷士組やミクリ、ロザリンドは自分の個人的な欲求や目的を果たしたい、というスタンスで留めておくのは納得できるかもしれません。
しかしユトレから八百長を持ちかけられてもなお迎え入れたユリーシャ、同じくベルガラード王国軍人のザルドネの視点があればよかったのでは?
と考えます。ユリーシャは長く封印されていたがために現状を知らず過去の経緯や軋轢を考慮しない(できない)純粋な第三者としての視点でリリカ、レギ、サロの三者の対立を俯瞰するポジションを与えて解説役に据える、ザルドネはベルガラード王国の利益を最優先とするユトレとは軍人としてのあり方の対比、グラセスタの貴族として登場するベルガメリとはベルガラードとグラセスタの貴族双方の対比ができるでしょう。
いわゆるおいしいポジションに居るはずが活用できていない、という点でマイナスとしています。

【ゲーム性】18点/20点
ゲーム性はエウシュリー作品をプレイするユーザーにとって最も期待されている要素の一つである、と考えています。
前作に引き続き、情報公開時の公式HPの煽り文句を以下に引用します。
『迎撃都市に売られた主人公は当然資産がなく、自由の許されない身分『隷士』のまま、ならず者の多い場所から資金や仲間を集めていかなくてはなりません。迎撃都市グラセスタはサマラ魔族国から奪った常に激しい戦いを強いられる領土にあるため、(中略)生還不明の緊張感が味わえるのと同時に、リトライ機能や移動省略機能の搭載など、やり込みを得意とする方と初心者が楽しめる内容を目指しています。』
基本的なアーキタイプとしては時間制限を取り払った峰深き瀬にたゆたう唄(たゆ唄)がベースになっていると考えても良いでしょう。
行動順がフレームで制御されている部分は幻燐2、陣形配置やダンジョン移動は戦女神ZERO以降のシリーズ、と過去作品で見られた仕様が点在しています。
本作ではチェインバトル制度(公式HPの記載に沿ってCBSと表記します)、ダンジョンで入手したアイテムは強制的に全て買い取られ専用通貨となるギルドポイント(GP)制度、アイテムをまとめて管理したり装備品を強化する封緘(ふうかん)システム、各キャラクターをオートで行動させる際、細かく設定ができるシステムの4点が本作の主な要素となります。
HP等のリソース管理はよりシビアとなり、ダンジョンから帰還してもHPが回復しない他、各キャラクターごとに設定された攻撃・回復用の行動は使用回数制となり、アイテムの使用もしくは全体マップパートでの「寝る」コマンド以外では回復しません。
また、味方キャラクターをパーティに加入するためには各キャラクターに設定されたGPを支払い、雇用と呼ばれる形でパーティに組み込む必要があります。
キャラクター固有のイベントを消化することで、盟友という形で恒久的にパーティへ参加させることが可能ですが、それまでは一定の日数経過が経過すると再度雇用するまでパーティから離脱します。
この日数経過については上述の「寝る」コマンドを使用することで1日進行するため、序盤はいかに日数を経過させずにアイテムでHPや行動回数を回復し、一度のダンジョン突入で多くのリターンを得るかが重要になるでしょう。

■全体マップパート
①全体マップパートについて
戦女神シリーズと同様クォータービューの構成となり、ダンジョン(黒の坑)への移動・物品の売買・イベントの発生等に関わる主要パートになります。
また、今作ではやたらと袋小路や死角、本棚や机の上などにアイテムが隠されており、それらに接近するとプレイヤーキャラクター(ジェダル)の頭上に
アイコンが表示されます。全体的な移動やアイテムの取得等においてはさほど不満点はありません。過去戦女神シリーズのどれか一つ(ただしZERO以降)をプレイした経験があれば、さほど違和感を覚えずキャラクターを動かせるでしょう。
全体マップパートの中で最も重要な点は「寝る」コマンドにあります。本選択肢は日数を1日経過させる代わりに、ダンジョンから帰還しても回復しないHPや行動回数を回復させる他、説明書にわずかに記載されているアドバイスではありますが、イベントの進行において重要な役割を担います。
ただし後述のキャラクター雇用、アイテムの取り置き日数を考慮した場合、この寝るコマンドはデメリットにもなりうるコマンドとなります。そのため、寝るコマンドを利用しなかった場合、多くのサブイベントを逃したままシナリオを進行させたユーザーも多いでしょう。
特にエクセルにおいては加入状態で戦闘させる、待機状態で一定の日数を経過させることがイベントの進行条件となるため、最後まで雇用状態のままエンディングを迎えてしまったユーザーもいたのではないでしょうか。
この寝るコマンドとアイテムの取り置き日数、雇用日数が致命的に噛み合わずキャラクターの掘り下げが出来ていないと評価してしまう可能性もあったように思います。

②ギルドポイント(GP)について
この要素についても本作のウリになるシステムとなります。上述の通り、ダンジョンマップ内で獲得したアイテムについてはダンジョン突入時の発着地点となる鎮守府迎撃広場に帰還した時点で納品マークが付与されたアイテムは強制的にギルド側に買い取られ、GPと呼ばれる通貨に換金されます。
そのGPの利用用途については以下の4点。
・ギルド側からアイテムの買い戻し(恒久的に所持できる)
 一度ギルドへ納品されたアイテムは9日を経過すると自動的に廃棄される
・味方キャラクターの成長要素となるスキルの獲得
・逃走可能な敵での戦闘でHPが0になった場合、一定のGPを消費することで戦闘敗北時点から即リトライ可能
・味方キャラクターの雇用(一時的にパーティへ加入させる)
 ただし、各キャラクターごとに設定された雇用上限日数を越えるとパーティから離脱する
そのため、限られた資産でアイテムの優先度設定、スキル獲得、HPが0となった場合の保険、キャラクターの雇用のどれを優先するかを考慮する必要があります。また、全体マップパートで記載した「寝る」コマンドを多用した場合、ギルドから買い戻す必要のあった重要アイテムを取りそこねる危険性もあります。
そこで活躍するのが封緘システムであり、ダンジョン内でアイテムを一括管理しておくことでギルドへの納品を免れる、消耗品(HP回復アイテムなど)をダンジョン内で補充して再度ダンジョンへ挑戦する際の資産としたり、装備を強化しておくことが重要になります。
また、救済措置として用意されている(と思われる)要素が闘技場です。一定のGPを参加料として支払うことでジェダルのみ戦闘に参加できる個人戦、パーティが組める集団戦があり、勝利した場合には選択した相手に依存する金銀銅のコインを取得できます。
このコインについては装備、陣形、強化素材、消耗品などゲームの進行を有利にするアイテムと交換することができ、さらに闘技場自体の挑戦回数は無制限です。そのため、最低限のGPさえ確保できれば闘技場が開放された時点でGPの管理に気を配る必要はありません。
特にジェダルのスキル一匹狼(戦闘に参加しているメンバーがジェダルのみの場合、戦闘開始時に戦闘を有利に進めるアイテムが出現)のスキルレベルを高めておくと一戦あたりの効率がさらに向上します。この点もユーザー有利の仕様に気づくか?によって難易度が激変する格好のサンプルです。
ただし、闘技場の過度な濫用はゲーム難度の大幅な低下を招くため、もしカツカツのGP管理を最終盤まで継続したいのであれば闘技場の利用を禁止したほうが、より緊張感のあるプレイングができるでしょう。誰が呼んだかアルベルトマラソン、非常に的確です。

■メニュー画面/仲間管理画面など
①メニュー画面について
グラセスタおよび黒の坑の全体マップが一覧で表示され、既に訪れたエリアは構成や発生するイベントのアイコンが表示されます。また、ストーリーの進行に関わる重要なイベントについてはエリアにエクスクラメーションマークが表示され、次はどこへ行けば良いかが明示されます。
ゲーム性の冒頭にも記載の通り、マップ画面に表示されるアイコンを選択すると即時に目的地へ移動できる機能についてはあまり褒められることの少ないユーザビリティ設計の中で珍しく評価できるポイントでしょう。
また、ロザリンドの固有スキル「財宝眼」があれば再取得できないアイテムはマップ上にアイコンが表示され、取りこぼしを嫌うユーザー(主に自分)にも優しい要素であると言えるでしょう。

②パーティ管理/アイテム管理画面などについて
毎回改善されることのないユーザビリティに頭を抱えながら悪い意味で試行錯誤が必要ですが、今作もやはり褒められたものではありません。
パーティ管理画面で全体的に目立つのは無駄なクリックの多さ、アイテム管理の煩雑さの2点が挙げられます。アイテム周りの仕様はたゆ唄と似たシステムを採用しており、所持できるアイテムに制限を持たせる重量制限が存在する(厳密に言えば重量制限をいくら越えてもゲームの進行は可能ですが、キャラクターの移動や戦闘面においてペナルティが発生するため、常時重量制限を超過することに意味はありません。)ため、封緘可能なアイテム以外は一括管理ができません。
つまりアイテムの一括購入・売却ができないことを意味します。すなわちアイテムの選択および購入or売却において、同一のアイテムを大量に処理する場合はズラッと並んだアイテムアイコンに対して選択と決定を連打したり、一つ一つアイテムを選択、購入or売却を行う必要があります。
これらは装備の強化にも同様のことが言え、先程述べた選択と決定の連打を経て確保した強化素材を元に装備を強化する際には、これもまたアイテムを一つ一つ選択する必要があります。一部のアイテムは封緘システムにより一括管理が可能ですが、装備の強化素材や攻撃用アイテムの絵札等は一括管理ができずスロット枠を一つ占有します。
それらも封緘が出来たらさらに難易度が低くなるでしょうが、例えば同一のアイテムを9つ購入したのなら使用回数は9回、ただし重量も9、売却価格も9倍といった仕様ならばまだ擁護ができたかもしれません。アイテム管理は魔導巧殻の魔物配合、天結いCMの使い魔強化に匹敵するほど劣悪です。個人的に諦めていますが、それでも許容する理由にはなりません。
他には陣形の配置についても特定のキャラクターだけを外す選択肢がなく、外したいキャラクターに対して別のキャラクターもしくは同じキャラクターを上書きして配置する必要があること、使用スキルのON-OFFの切り替えを行うにあたってクリックする箇所が分かりづらい等の細かな課題点もありますが、
アイテム管理におけるマイナス点と比較すればまだ我慢でのきる範疇です。

③基本情報画面について
過去シリーズでは情報欄を閲覧する機会はほとんどありませんでしたが、今回は特にゲームシステムを有利に進めるにあたってのアドバイスの意味も兼ねており、冒頭にも記載した「ユーザーサイドに有利な仕様に気づけるか?」の一端になります。特に封緘システム(アイテムの一括管理による利点と重要性)、行動(非戦闘状態でも回復魔法は利用できる)、迷宮スキル(特定のスキルがないと通行できない箇所についてはパーティ内に該当するスキルを誰も所持していない場合は反応しない)といった重要な情報が記載されています。
ゲーム本編でも一部のサブキャラクターがチュートリアルのような形で仕様を説明しますが、一度説明されたらそれっきりです。公式HPの煽り文句として『生死不明の緊張感が味わえる』『凶悪な危険種や魔神が多数登場』の文言にて、難易度を高めに設定したような記載があるならば、適切なオンボーディングやフォローが必要と考えます。

■ダンジョンマップパート/戦闘パートについて
①エンカウントについて
こちらも戦女神シリーズと同様のクォータービューかつエリアごとの区分けが存在する形式となります。
今作特有の要素としては従来のランダムエンカウントに加え、シンボルエンカウント制が採用されています。ランダムエンカウントとは異なり敵シンボルと接触した方向によって戦闘パートでの味方ユニットの向きが決定されます。
このキャラクターの向きが厄介で、お互いに向き合っている場合はダメージは据え置きですが、側面ないし背後からの攻撃は単体・全体問わずにダメージが増加します。しかも情報欄には向きについて記載がありませんので、死んで初めて学習することになるでしょう。
また、シンボルエンカウントについてはキャラクターを捕捉した後は十分に距離を取るまでこちらを追跡します。エクストラダンジョンのほとんどは地形を無視して一直線に向かってくる他、狭く曲がりくねった通路のせいでエリアを切り替えない限りほぼ永久的に追跡されます。さらに地形がランダムに切り替わる反刻迷宮と呼ばれるダンジョンについては一枚マップのため、敵シンボルに一度捕捉された場合、発生源となる魔物の渦アイコンにキャラクターが触らない限り、無尽蔵に出現する仕様となっています。
後述の戦闘パートでも記載しますが、本作においては戦闘パートのゲームテンポに少なからず難があるため、エンカウントの多さはストレスとなるでしょう。ただし救済措置としてペイロだけが扱える固有スキルの完全逃亡(逃走不可能の敵以外は100%逃走可能)の存在や、戦闘勝利または逃走にて消失した敵シンボルはエリアを切り替えるまで復活しない、であったり特定の装備に付与されたスキル忍び足(ランダムエンカウントを100%抑制)といったエンカウントに対しての救済措置が存在します。
シンボルエンカウントにおいては、どこかのコンシューマタイトルのように逃走後に敵シンボルが一定時間点滅して捕捉状態が解除される、その猶予期間を過ぎた場合に再度捕捉され鬼ごっこの再開といった仕様ならば擁護の余地はありませんが、有利な仕様が用意されていることに一定の評価をします。

②戦闘システムについて
本作のウリとなるCBSについては、文字通り味方・敵キャラクターが連続して行動する(チェインと呼称しています)ことでメリットを生み出す仕様です。つまり味方に対してはチェインを繋げる、敵に対してはチェインを断ち切ることを主眼に置いて戦闘を行う必要があります。
また、キャラクターの固有スキルによってチェインを継続させるアイテムが出現することもあり、これらを有効に活用することで味方キャラクターの人数が少なくともチェインを発生させて戦闘を有利に進めることが可能です。ゲーム性の基本的なアーキタイプ欄にも記載しましたが、各キャラクターに待機フレームが設定されており、行動後に画面下部の行動順バー(便宜上このように表記します)のどこに入るかを確認しつつ、敵の危険度に対して重み付けを行い、チェインを断ち切るためにどの敵に攻撃するか?もしくはチェインを継続させても構わないので、全体攻撃や威力の高い攻撃を行う敵を処理するか?といった戦闘面での工夫が重要になります。
さらに、上記のダンジョンマップパートでも記載したキャラクターの向きも考慮する必要があり、危険度の低い敵にはあえて背を向けてダメージを増加させる代わりに危険度の高い敵を優先的に排除する、といった一戦闘において知恵を絞る機会は多くあります。
また、CBS以外にもシリーズ恒例の属性相性が存在し、敵の攻撃・防御属性に対して相性の良い属性を用いることも戦闘を有利に進める上で重要な要素です。ここまで記載すると奥の深い戦闘システムと解釈できそうなものですが、実プレイにおいては過去作よりも必然的に戦闘テンポが間延びしていると感じるユーザーもいるでしょう。
それを緩和させるための措置としてオート行動の細分化、常時スキップ化(Ctrlを押しっぱなしにしている状態を作り出す)が搭載されていますが、個人的に全てのエフェクトをOFFにし、常時スキップ化を発動させてようやく許容範囲となるレベルです。
戦闘面においてはどう評価してもポジティブ面・ネガティブ面ともに顕在しており、他人に勧めようにも、まず体験版をやってくれと言う他ありません。特に今作においては創刻のアテリアルに次ぐ独自の戦闘システムであり、ユーザーの好みに合う・合わないが色濃く反映されるでしょう。ただし、これらの戦闘システムは後述の味方ユニット性能と敵ユニット性能のインフレ化に伴い崩壊することになります。

③味方/敵ユニットの性能について
今作の味方ユニットは装備できる武器防具の種類、スキル、陣形における配置可能ゾーン(前衛・後衛・前後両方)、アイテム所持数、初回の行動順や行動後に再度行動するまでの待機時間といった要素によって差別化が施されています。例えばイベント戦闘で一対一を強制される状況の多いジェダルは
最大HPが非常に高く設定されており、スキル面においても一人での戦闘がより有利になる前述の一匹狼が備わっています。他にも味方のステータスを底上げするスキルを所持するユトレやダルフィア、回復役として重宝するリリカやユリーシャ、パーティ全体を庇うことでダメージを抑制することと全体の向きを一括で変更できるスキル構成がなされた支援特化のザルドネ、低い待機値と高いアイテム所持数でアイテムをばら撒き100%ザコ敵からの逃走が可能なスキルを持つペイロといった形です。
問題は待機と命中の値。まず待機においては幻燐2でも存在したように、行動順がキャラクター固有の値となっています。身軽なペイロやユナギ、エクセルはより素早く行動でき、より短い時間で再行動が可能です。
反対にザルドネやロザリンド、アグナは待機時間が高く設定されており、行動順が回ってくる間に前述の身軽なキャラクターが複数回行動できてしまいます。
ストーリー後半やエクストラダンジョンにおけるユニットのインフレ化の終着点は待機時間の短いユニットほど重宝され、反対に待機時間の高すぎるユニットは敵からの全体攻撃の餌食になるだけであり、戦闘に出す意味がありません。ただしザルドネだけは庇うスキルのおかげで採用の余地があります。
また、敵ユニットの待機時間を延長するスキル魅了についても触れる必要があります。説明書に記載されている通り、各個人の持つスキルの中で最も重要なスキルと言っても過言ではないでしょう。この魅了スキルを持つユニットが攻撃した場合、対象ユニットの行動順をスキルレベルの分だけ遅延させることが可能です。しかも発動率は100%。戦闘システムにおいてチェインを繋げることが重要と記載しましたが、言い換えればいかに味方の行動を継続させ敵の行動を遅らせることができるか?に繋がります。このスキルは敵を倒さずともチェインを分断できる、ある意味で最強のスキルと言えます。
相手によってはボスクラスの敵でさえ一度も行動させずに勝利することができる、と記載すればその有効性が理解できるでしょうか。このスキルを持つのはエクセル、ユナギ、イウセト、アグナ、フルーレティ、黒エウ娘、アペンドの天使4人組に一部の武器にも同スキルが付与されています。最も重要視される待機時間をコントロールできるスキルを持つキャラクターの優先度が高まるのは必然と言えるでしょう。
ならば待機時間は長くともまとめて敵を殲滅できる全体攻撃があれば活路を見いだせるのでは?と考えても、そこに立ち塞がるのが二点目の命中の値です。
実際にプレイしてみると実感できる(できた)ユーザーも多いでしょうが、とにかく攻撃が当たらない。チェインの恩恵はあくまでクリティカル発生率のみで命中率に補正はありません。そのため、命中率が元々低い鎚鉾と大剣を扱うロザリンドに至っては当たらないし遅いという二重苦に苛まれます。
いくら火力が高かろうとも当たらなければダメージは0です。封緘システムにより武器の命中率を強化してようやく敵に攻撃が当たるようになっても、他のキャラクターも当然命中率に補正をかけられるようになっており、高い命中率はより高く、攻撃を外すことはまず無いレベルに引き上げられるでしょう。
待機時間を減少させる再動の靴と呼ばれるアイテムが存在しますが、これは全員が装備可能のため、素早いユニットはより素早いユニットへと変貌します。過去シリーズのマイスターシリーズや幻燐2のように味方ユニットを過剰に鍛え上げようとしても、待機時間だけはどうにもなりません。
さらにシリーズ恒例のステータスアップアイテムである星石も待機時間を減少させるアイテムは存在しません。残念ながら、荷物持ち兼HP底上げ要員でしか存在意義がなく、ユニット間のバランスは全く取れていません。サンプルとしてロザリンドを挙げましたが、全般的に待機時間の高いキャラクターはヒエラルキーの下層に位置しているとの認識で良いでしょう。それほどまでに待機時間の高低は全てに優先します。
敵ユニットにおいても味方ユニットと同様、それぞれに特徴があり、攻撃力特化、範囲攻撃が得意、待機時間が短い……といった形になります。本作においても敵ユニットのインフレ化は当然存在しますが、特に危険なユニットは全体攻撃持ちと待機時間の短い敵ユニットでしょう。
前半の魔獣サマコカトリは全体攻撃のファイアブレスを持ち、エンカウント時に前後左右に配置されていると全滅の可能性が高まる危険な敵です。ここで活躍するのがザルドネのスキル庇う。効果は防御時のみ発動し、範囲攻撃を含む攻撃の対象にザルドネが含まれている時、物理防御を増加した上で全ての攻撃を集中させることができます。そのため、耐性の相性が悪いキャラクターが含まれている場合でもザルドネを対象としてダメージ計算が行われるため、質の良い防具を優先的に装備させることでパーティの被害を抑えることができます。
前半では決して安くはない雇用料600GP、ジェダルとユトレが隷士となった元凶、態度も傲慢と心情的に使いたくないキャラクターの筆頭ですが全滅のリスクを引き下げるためには必須と呼べるキャラクターでしょう。当然ボスの全体攻撃にも有効なため、ザルドネに行動順が回ってくるまで耐えられる編成が重要です。
しかしエクストラダンジョンではインフレ化に伴い、ザルドネの庇うですら対応ができなくなります。最も危険なタソガレクグツは待機時間が短く、高威力の全体攻撃を持ち、直接・間接攻撃を割合で無効化する受け流しと見切りのスキルを完備し、さらに一定割合でダメージを味方に弾き返す反射、上述の行動順を遅らせる魅了、しかも複数出現がザラ。まともに相手できるのでしょうか。ボスより強いと専らの評判で、対策はペイロの完全逃走のみ。
黒エウ娘がエクストラダンジョンは理不尽ですと事前に警告しますが、これはやりすぎ。味方ユニットの調整も含めバランスのチューニングは極端です。

④オート戦闘について
戦女神VERITAでは必殺技・魔術の使用頻度、使うor使わない自体を設定できましたが、今作のオート戦闘は非常に細かく行動指針の設定が可能です。例えばHPがX%の時はこの行動、特定の種族の敵に対してはこの攻撃……といった形です。ファイナルファンタジー12のガンビットのような仕様です。
前述の戦闘テンポの悪さを軽減するため、全て手動で行動を指示するよりはある程度行動を絞った状態でオート戦闘に一任するほうが楽なため、積極的に活用することで戦闘テンポの改善が図れるでしょう。設定した上から順番に条件を満たす行動を取るので、設定の難易度は比較的易しめです。
また、個別に手動で行動させたいキャラクターの設定も可能なので、アイテムばら撒き兼逃走役のペイロだけ手動、残りはオートという設定も可能です。
このオート戦闘の仕様はポジティブな評価をしたいと思います。一点だけ気になる点はマイナス状態異常にかかった場合の処理がないこと。バフ・デバフの判断がつかないのでオミットした可能性がありますが、これもペイロでカバーすればよいでしょう。ただし問題は黒エウ娘のデフォルトで設定されている味方を含めた全体攻撃とユリーシャの駄天使スキル。黒エウ娘のスキルはすぐにOFFにして良いですが駄天使スキルは25%の確率で戦闘時に使用した回復行動の効果がダメージに反転するスキルで、個別イベントの進行に必要なため、最低一回は発動させる必要があります。一度も発動しないままオート戦闘での発動をOFF、かつ手動で回復行動を取ってダメージに反転させていない場合、ユリーシャの個別イベントが進行しません。この部分は「寝る」コマンドと同様、仕様の噛み合わなさが露呈しているように思います。
 
■ゲーム性総括 
過去要素を盛り込みつつ、新システムのCBS、GP制度、封緘システム、オート戦闘の仕様を組み合わせられた点は評価したいと思います。
ただし寝るコマンドでの日数経過と雇用日数・ギルドのアイテム取り置き期間のトレードオフ、オート戦闘でユリーシャの駄天使スキルの欠陥に気づいた場合、固有イベントが進まない……といった一部の仕様の噛み合わせに失敗している点が目につきました。
また、マイスターシリーズや幻燐2のように特定のキャラクターを贔屓してステータスアップアイテムを投入しても待機と命中(主に使用武器)によって主力と荷持持ち兼HP増加要員と明暗がくっきり別れ、フォローができません。好きなキャラクターを使うとパーティの損害が広がってしまう可能性があるバランス部分の悪さも浮き彫りになっています。
開発サイドの用意した救済措置、すなわち盾のザルドネ、アイテム役兼逃走役のペイロ、特定のスキル、闘技場、戦闘に出すキャラクターを選択し、実際のプレイに反映することで難易度を個々人の力量やプレイスタイルに合わせてカスタマイズできる点については、公式HPに記載された、『やり込みを得意とする方と初心者が楽しめる内容を目指しています』という部分に偽りはないでしょう。事前の煽り文句と実装された仕様にそれぞれ乖離がなかったこと、開発サイドがやりたかったことは良くも悪くも納得できました。減算分はバランスのチューニングと仕様の噛み合わなさの二点です。

【やりこみ要素】5点/10点
やりこみ要素についても、エウシュリー作品をプレイするユーザーにとって最も期待されている要素の一つである、と考えています。本作においては魔王石、エクストラダンジョンの攻略、装備の強化と収集がメインですが過去シリーズと比較するとボリューム不足と言えるでしょう。

①魔王石について
一周目からある程度収集可能なアイテムですが、二週目から本格的に利用するアイテムになります。ダンジョン内で特定の条件を満たす、全体マップにて拾う、イベントを消化した際にもらう、危険種と呼ばれる強敵を倒す、といった形で入手が可能です。基本的に一度入手した魔王石は再度入手ができません。とはいえ全ての魔王石を回収せずともエクストラダンジョンの全消化には最低6個あれば良いので、さほど気にすることもないでしょう。
ただし期間限定で入れるダンジョンで拾える魔王石も存在するためコンプリートを目指すユーザーは注意が必要です。

②周回プレイについて
今作においては二週目よりエクストラダンジョンが解禁されますが、一周限定で拾えるアイテムに凶悪な性能を持つものがなく、二週以上のやり直しは重要視されません。そのため、幻燐2の姫神の神珠などの貴重な合成素材を手に入れるために何十周も繰り返す必要がなくなりました。

③エクストラダンジョンについて
二週目以降より参加可能なサマラ魔族国に関係するダンジョンに魔王石を使用して挑戦することが可能です。上述の味方/敵ユニットの性能についてにて記載しましたが、黒エウ娘がエクストラダンジョンは理不尽ですの言葉の通り、まともに相手をするのが馬鹿馬鹿しいレベルの敵が集団で出てきます。
反対にエクストラダンジョンのボス格についてはペイロのアイテムばら撒き、ザルドネの庇う、魅了持ちキャラクターで待機時間の長い敵は完封が可能です。
メニュー画面で黒の坑の深度がB50Fまで存在しているのに実際に到達できるのはB39Fまで。たゆ唄のように最深部のB99Fにて待ち構える魔神アラストールのような存在を期待していたのに……と肩透かしを食らったユーザーもいるのではないでしょうか。
また、エクストラダンジョンで拾える各キャラクターの専用装備については全てが無属性のため、属性相性を無視して実戦に投入できるメリットがあります。武器のコンプリート等の過程で利用できるシーンはあるのではないでしょうか。

④装備の強化について
魔王石で交換できる各キャラクターの専用装備は上述の封緘システムを用いることで大幅な強化が可能です。初期値は物理攻撃や魔法攻撃の補正が0と、そのままでは全く使い物になりませんが強化素材の投入によって物理攻撃・魔法攻撃補正90越えが実現可能な装備に変貌します。
これを手っ取り早く実現するのが上述した闘技場の存在。メダルの獲得→交換→強化素材の投入を繰り返すことで装備の強化を容易にします。
キャラクターの強化というよりは装備を鍛えることに主眼が置かれていると言えるでしょう。
また、一部の装備にはゆらぎ値と呼ばれる数値が設定されており、同じ装備でも性能が違うケースが発生します。装備によっては物理攻撃値が9近くブレるものもあり、妥協を許さないユーザーにとっては高い壁になるでしょう。手持ちのアイテムを確認してみましたが、最大値が出たアイテムはありませんでした。
これらのゆらぎ値の厳選についてはロザリンドの鑑定スキルによって実現できますが、ロザリンドからの依頼を達成しないと鑑定システムそのものが実行できません。解禁のためには店で販売している装備を購入し、一度戦闘で使うことと、それにより販売される投資用のアイテムを購入する必要があります。
しかしこの要素はヒントがなく、グレーアウトした鑑定コマンドを眺めながらエンディングを迎えたユーザーもいるのではないでしょうか。
さらに封緘によって装備スキルの性能を向上させることも可能です。説明書には相性のいい装備を取り込むとスキルレベルが上昇するとの記載があるため、仮に装備の強化をやり込む場合は、特定の装備をひたすら集めるやりこみが考えられます。

■やりこみ要素総括
過去作と比較するとどうしてもボリューム不足と言わざるを得ません。特定キャラクターを徹底的に強化しようとしても戦闘面では待機時間・命中の問題が最後まで解消されません。縛りプレイをしたいユーザーは別ですが。また、装備のゆらぎ値は昨今のCSタイトルでも否定されやすいガチャ要素です。
100の時間をかければ一定の成果を得られるマラソンと異なり、100の時間をかけても成果が出ない可能性のあるガチャに嫌悪感を示すユーザーもいるでしょう。
ただし物理攻撃・魔法攻撃等の装備の数値はさほど重要視されないため、厳選する必要を感じないので、殊更に批判する要素でもないと考えます。
特に待機時間を短縮する唯一の装備、再動の靴の待機値に大幅なゆらぎ値が設定されていればガチャ要素として批判されていたかもしれません。
過去作のように気に入ったキャラクターを寵愛して過度なステータスの強化を施せない点、短いエクストラダンジョンという点で低く評価しています。

【ユーザインタフェースについて】6点/10点
メニュー画面等の項目にて記載した通り、アイテムの一括処理の点は大いに不便である旨を記載しました。それ以外については相変わらずフィルタ・ソートがもろく大量のアイコンから目的のアイテムを地道に探したり、アイテムの整理に苦労するケースが目立ちます。ロザリンドの店でアイテムを売却する際、誰の手持ちに入っているかがキャラクターの顔アイコンにて表示されますが、画面サイズによっては判別ができない可能性があるでしょう。
ただし情報欄については一定の評価をしたいと思います。例えばルートマップでは次の行動のヒントが書かれており、魔王石の収集状況も確認が可能です。
また、基本情報では隅付き括弧にてカテゴリごとのヒントを分かりやすく、敵として登場するユニットは種族ごとのフィルタが実装されています。
種族については戦闘画面のアイコンにて所属がわかるため、どこに属しているユニットなのかがわかるようになっています。容易に紐づけができるかは個々人によりけりですが、ないよりはマシでしょう。アイテムの一括処理さえできれば満点でした。惜しいです。

【シナリオについて】8点/10点
今作は天結いAMのようにAルート(通常エンド)・Bルート(バッドエンド)の2ルートどころか一本道になりました。最終的な結末が異なる分岐はありません。
過去作を考慮するとエウシュリー作品のシナリオに全く期待していなかったのが実情ですが、今作は非常に頑張ったと思います。
基本的なシナリオは主人公のジェダルが隷士として迎撃都市グラセスタに売り飛ばされたところから開始し、序盤は徐々に身分をあげて行動範囲を広げます。
大きなターニングポイントとしてはリリカとの契約、本シナリオにおける黒幕の判明、フルーレティとの相互協定、サロ王との決闘、ラストボス戦です。
公式HPの煽り文句に記載された『成り上がり物語』の単語は放置されずに回収できたと言えるでしょう。目的を達成するための成り行きとはいえ、ジェダルはグラセスタの王になり貴族の嫁を娶ったわけです。幼少期に親から棄てられた孤児、一王国の傭兵、国王への栄転。王道ですね。

キャラクターの項目で記載した「シナリオ後半の中核を担う要素「燐使(りんし)」への措置を巡り、各個人が掲げる主義に至るまでの過程」について、過去作(特にたゆ唄の歪みの主根を巡る光の三太陽神が画策したことの説明不足)よりもはるかに改善され、何故この主張に至ったのか?を十分描いています。
まず燐使ですが、これは魔王リクシュマの肉体から抽出した力にレギの魔力を混ぜて作成した因子と呼ばれるものを肉体に埋め込むことでリクシュマの得意とした瘴気を用いる空間転移術、肉体の強化を実現します。それに加え、因子を埋め込まれた対象の意思に関わらず、レギの思想に共感するように精神を作り変える、というものです。これに対して主な三勢力(リリカ、レギ、サロ)は以下の考え方を持つことになります。

[リリカ](条件付き許容派)
自身の肉体を取り戻すことを目的としていたら家庭崩壊を招いた元凶が燐使の研究を行っていたレギであるため、その計画は必ず止める。
ただし燐使化の全てを否定するわけではなく、自身の意志と関係なく強制的に燐使化した場合は酌量の余地ありとして受け入れるが、自身の意思で燐使化した場合については他者へ燐使化を強制する可能性があるため排除する。

[サロ](排斥派)
強さが全ての価値基準となる迎撃都市グラセスタ(東ゴーティア王国)の長として身分や立場の違い、ひいては争いを否定しない。強さを求めるために他者を蹴落とすことは当然であり発生しうることとして許容する。
ただし強さを求める過程において、自身の在り方(主義や主張、帰属意識など)を他人から強制的に変えられることを悪を断じ、それを実現とする燐使はこの世に残すべきではない。リリカのように条件付きでも許容はしない。

[レギ](推進派)
人間に限らず魔族も含めて全ての生命体の価値観・思想を統一して自身と同じ考え方にすれば争いは消失する。当然食料や領土を巡って争うこともなく、種族間の対立や差別もなくなる。この世に存在する全ての問題を解決するのは燐使であり、それを否定するのであれば現神と敵対することも厭わない。

この三勢力が全員が自身の思想を「正義」としてぶつかりあうことになります。お互いに譲歩することはなく、サロとレギの死亡によって決着します。
例えばサロの「レギの思想は悪というが、弱者の救済として見ればその思想はレギにとっては正義。ただし国王のサロが定義した正義にはそぐわない」であったり、レギの「勝者を正義、敗者を悪と単純な二元論として区別することが根本的な誤り。自身の手で正義と悪すら存在しない統一的な価値観を作る」といった思想があります。
レギは御大層なことをのたまいますが自身の主張に賛同しないものを燐使として作り変えなければならない、つまり自身の行動を否定しているリリカ派を悪として排除しようとしているので、大局的に見れば善悪二元論の枠に組み込まれていると言えるでしょう。
この主張に至った経緯についてもリリカは燐使を研究していた両親の死と黒幕の認識、サロは自身の強さを追い求めるあまりに燐使化したことによる実体験から、レギはアークパリスの教皇としての活動が報われなかったことによるものです。背景についても十分に描写されており、説明不足や掘り下げの不足は見当たらず、過程も問題なし、ブレもなし。過去作に比べれば十分納得できるストーリーでした。
マイナス2点分はキャラクター欄に記載しましたがメインのシナリオに関わってくるキャラクターが限定されていることです。

【音楽】7点/10点
戦女神VERITAのようなファンサービスじみたアレンジの多用、戦女神LaDEAの聖なる裁きの炎アレンジは一切ありません。完全新曲になります。
神のラプソディの音量調節を誤ったかのような楽曲もなく概ね雰囲気にマッチしたものに仕上がっていたと思います。
残念ながら音楽に関する教養は皆無なので他の方にお任せします。

【グラフィック・シーン回想】5点/10点
ヒロインのリリカに単独3シーン、他キャラクターとの絡みが3で合計6シーン。その他のサブキャラクターに2~5シーン、娼館に各1~2シーンが存在し、合計46シーン(オープニングとエンディングを除く)と前作天結いCMから一気に2倍と大幅に向上させてきました。が。
正直なところこれを書くのは悩みましたがあえて書きます。陵辱要素、忘れてませんか?冥色の隷姫以来登場のブラックエウシュリーちゃんルーム、他国から売られてくる奴隷、娼館、イーリュン教会の裏賭博場、「力が全て」の風土、原画家うろ氏のダルフィアが兵士連中に囲まれてる画像諸々、これだけ匂わせておいてそれらしいシーンはアグナとユナギに1シーンずつ。
娼館に常駐しているキャラクターはジェダル以外の絡みもなく、貴族としての地位を失ったザルドネの身内となるロセーラとマルツィアも同様。ロセーラにこれから客を取るのだからと言っておきながらその客はジェダルだけ。個別イベントによってはユリーシャを見限り娼館に入れることも可能ですが、これも絡みはジェダルのみ。天結いCMで100%純愛路線かと思ったらBルートで悲惨なバッドエンドを盛り込んで来たのとは反対に、陰惨な設定とそれに紐づく要素を期待したら実際はほぼ純愛路線でした。今回のシーン回想をざっくりと評価するなら肩透かしを食う、これに尽きます。
昨今の世論により描きづらい事情もあるでしょうが、当該要素を打ち出すとは一言も言ってないしユーザーが勝手に期待して勝手に裏切られただけ、と開発サイドのスタンスを邪推するような判断です。個人的には有無はどうでも良いのですが、当初のスタンスがブレてませんか?の意味で評価を下げました。
こんな世界設定ですけど当該要素についてはほとんどありません、と最初に明言してくれればよいのですが。

【世界設定】8点/10点
大陸西部のテルフィオン連邦とベルガラード王国の南に位置する、過去に滅亡したサマラ魔族国の領土に作られた東ゴーティア王国が今回の舞台になります。
今回はメインシナリオ内ではあくまで世界設定の掘り下げ自体は行わず、魔導操殻は過去シリーズにて重要な役割を持った魔導巧殻の技術を流用している、であったり、ユリーシャが発掘されたのは神のラプソディの舞台であったクヴァルナ大平原から、といった形で一部語られるのみ。
あとは多少海の皇帝カル・シレーラの名前を冠した領域が出ることと、フルーレティが魔王リクシュマの処遇について名言する程度でしょうか。
あくまで東ゴーティア王国の中の一都市で完結するため、戦女神シリーズや魔導巧殻といった複数世代間・国家間とはスケール感が小さめです。
ただしエクストラダンジョンはサマラ魔族国の歴史がメインとなり、魔王リクシュマが覇権を得るに至った経緯、現神に敗北した理由、その裏に存在する魔王ベルゼビュートの存在が言及されます。幻燐2に登場したネルガル、アガチオン、ラテンニール、サブナクが一同に会した宮殿の名前を冠する大物です。
たゆ唄でほんの僅かに言及されたサマラ魔族国を掘り下げ、実はベルゼビュートがリクシュマを利用してラウルバーシュ大陸に降臨しようと画策しているとは驚きました。天結いCMのベリアル軍団よりも大事になるでしょう。
フルーレティにしろベルゼビュートにしろグリモワール:大奥義書から名前を取ってきただけであまり整合性に期待してはいけないのでしょうが、ベルゼビュートの居る領域(屡秤嘯と呼ばれる異界領域)にルキフグス、サタナキア、アガリアレプトといったソロモン魔神を配下に置く連中がいる可能性もあるわけです。エライことですね。
すでに大奥義書にて言及されたアスタロトがはぐれ魔神として登場したり、ヴァレフォルやナベリウスも既に登場しているので真面目に論じても仕方がありませんが。それともう一点、北欧神話からヴァルキュリアが登場しました。
シュヴェルトライテ以来の戦乙女となるヘルフィヨトルです。忘れてなかったのですね。ただ、ソロモン魔神のバティンとアンドロマリウス。彼らはやたら影が薄く、残念でした。戦女神VERITAのパイモンや戦女神LaDEAのフラロウスほどの存在感はありません。
エウシュリー独自の世界設定の掘り下げというよりは、我々の世界でよく知られた悪魔たちをどのように落とし込んで行くのかについて、今後の期待感を込めて高めに設定しました。それと、おなじみのラテンニールは今作も欠席です。最近見ませんね。
また、この世界設定の項目を記載するときに戦女神VERITAのガイドブックを再度読み直したところ、ゴーティア王国は三国に分割されているとのこと。
今後出るであろうガイドブックに同梱されるアペンドディスク等で補完されるのでしょうか。

【総括】72点/100点
今作においてはシナリオ、ゲーム性等において高い水準でまとまっていると言えるでしょう。多少の欠点はあれど、満足の行くタイトルでありました。
ユーザーによく認知されたマイスターシリーズに依存せず、チャレンジし続ける姿勢について応援しがいのあるブランドであることに変わりありません。
オリジナルの世界設定を下地にした剣と魔法のファンタジー世界、ウリとなる独自のゲーム性と、当初の期待値に沿う結果と考えます。
ただ、それぞれの要素にポジティブ要素・ネガティブ要素がくっきり見えているのもまた事実です。特定のカテゴリ(例えばやりこみがスゴイ、だとかキャラクターの誰がカワイイ)で推奨する、ということができません。シナリオの魔導巧殻、ゲーム性の創刻のアテリアル、やりこみのマイスターシリーズのような、突出した部分がないとも言えるでしょうか。
しかし、逆に言えば全ての要素を俯瞰した際に致命的な欠点が見当たらない、というのも過去作のブラッシュアップがうまくできているために発生しうるものと考えます。ある人は100点を与えられるがもうひとりは30点の評価しかできない、というよりは多くのユーザーが70~80点ほどの評価を下すタイトルと言えるのではないでしょうか。
その意味で、先程記載した通り「高い水準でまとまっている」との評価をしました。
当然、エウシュリーの作品を未経験の新規ユーザー、過去作をプレイ済みのユーザーともに推奨できるタイトルであります。

追加ディスクのリリースもアナウンスされているようですが、天結いCMの城塞拡張パックと同様にそちらもプレイしたくなる出来でした。
前作天結いCMと同じく良い作品をありがとうございました。今後のタイトルにも期待しています。