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Andemon_LV7さんの白昼夢の青写真の長文感想

ユーザー
Andemon_LV7
ゲーム
白昼夢の青写真
ブランド
Laplacian
得点
94
参照数
377

一言コメント

シナリオ良しヒロイン良しの名作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

注:NS版が白昼夢初プレイです。NS版の追加要素を語る感想ではありません。

 私はラプラシアン作品は『ニュートン林檎』のみプレイ済みの人でした。あのB級感の凄かった『ニュー林』のラプラシアンからやたらと評判の良い作品が出ていると知り、正直半信半疑な気持ちで本作に挑みました。そして手のひらを返しました。A級作品でした。とても面白かったです。
 CGの質は全体的にかなり良く、特にCASE-1と0の凛・世凪の泣きCGと、CASE-3のすももの写真CGが強烈でした。CGの破壊力だけでもキャラへの愛着が一段階上がったような気がします。男キャラのキャラデザがイケメン、オジサン共に雰囲気が仕上がっていたところも、作品の質の向上に繋がっていたと思います。

プレイ進行順
前半:CASE-3→2→1
後半:CASE-2→3→1→0

CASE-2
 一番王道な(無難な)シナリオでした。序盤はどこか漂うB級感に少し期待が削がれていましたが、後半になるにつれてどんどん面白くなっていきました。仲間のサブキャラ達が良い味出していたのと、ウィルとオリヴィアの、別れを感じながらも互いに愛し合う姿が素敵でした。
 一方で、マーロウがただの小物で終わったのは残念でした。主人公にとって大きな障害となる悪役が徹底的に小悪党なキャラ付けがされているというのは、盛り上がりに欠ける気がしました。その点で言えば、行動は身勝手でも能力は優れたキャラとして描かれていたハロルド・スペンサーは良キャラだったと思います。
 3つの物語の中でも一番自然で且つ過酷なビターエンドとなっていた分、グランドED後のハッピーエンド化が強引になってしまっていたのは少し可哀想でした。もしあれを自然にハッピー化させるとなると、相当な尺が必要になったことでしょう。

 「才能を活かせ」と叱咤激励するオリヴィアの物語は、CASE-0においては海斗の研究を応援したい世凪の感情を表現していました。「平凡な毎日が一番」と主張することの多かった世凪でしたが、海斗が自分の才能を活かすことに対して完全に否定的であったわけでは無いことが伝わってきました。活き活きとしている貴方を見るのが好き、みたいな?
 同時に、自分の持つ特殊能力を活かすことの重要性を世凪自身も認識していたことも示唆していたと思います。もしこの物語が無かったら、私は海斗のことを世凪を自分の理想のために振り回してばかりのダメ男認定してしまっていたことでしょう。

CASE-3
 まずいちばんに主張したいのは、CASE-3がおねショタモノの物語としてこの上ない完成度だった、ということです。基本はおねがリードして、新鮮な体験を送る日々から何かを掴むショタ。そして、そのショタの若さ溢れる成長ぶりに感化されるおね。おねショタストーリーの一つの理想形だったと思います。プラトニックな関係を貫いたのも素敵でしたし、おねがお姉さん過ぎず、ショタが子供過ぎないところも好みでした。
 ……そういう要素は抜きにしても、一夏の青春物語、そして成長物語として、起承転結が綺麗な短編に仕上がっていました。ギャグも一番面白かったと思います。主に梓姫さんのお陰で。長文で語りたくなるシーンこそ特段多くはないものの、短編としての完成度が高かったです。

CASE-1
 CASE-1の見所は繊細に描かれている有島先生の感情でした。波多野秋芳の狂気に飲まれていく臨場感や波多野凛の魅力に惹かれていく描写に、読んでいるこちらも引き込まれていきました。
 有島先生の設定は非ヌキゲのエロゲではあまり見かけないもので、枯れかけた中年ならではの短所と長所がもの珍しかったです。とくに、有島先生のコミュ下手が原因で会話の空気が悪くなるところが面白くて好きです。
 勿論ヒロインである波多野凛もとても魅力的なキャラでした。序盤の強キャラ感溢れる雰囲気からの、破壊力抜群な泣きCGと共に発せられる「助けて」、その後の子供らしいシーンに、先生を虜にしようと振る舞う妖艶な姿。何段構えものギャップ萌えが強烈でした。CS版限定おまけシナリオの有島先生を弄る凛さんは、活き活きとしていてとても可愛らしかったです。おまけシナリオの中でも一番好きな話でした。
 終盤の「妊娠」展開は、別離のシナリオにするために作った感があって少し唐突に感じました。ただこれも、CASE-0をふまえると必須なイベントだったので最終的には納得しました。なんといっても凛は一番世凪の「欲」を体現するキャラクターですし。
 (それにしても、世凪って凛さん並みに性欲凄いんでしょうか?R-18版未プレイな身としては一番気になって仕方が無いポイントです)

 世凪母の要素が多分に含まれていたはずの元妻さんは、作中で結構なヘイトポジのように扱われていましたが、どこか味があって嫌いにはなれませんでした。出雲が名演技をしていたのにもかかわらず。
作中では、世凪が幸せな結婚生活しか体験していないから描写が甘い、という風に説明されていました。ですが個人的な解釈としてはそれだけではなくて、母を愛したかった世凪の感情が元妻さんを純度100%の憎まれキャラにはさせなかったのだと思っています。
 CASE-0で「最期まで妻だけは忘れなかった世凪父」のことを知ってからCASE-1を振り返ると、酷い母よりも自分を好いてもらいたかった世凪の薄黒い感情が伝わってきて、とてもゾクゾクしますね。清廉な少女のそういう一面を垣間見られるというのは何よりキャラの造形が深まるので大好きです。無論性癖でもあります。

CASE-0
 CASE-1~3と比べるとだいぶSF要素が強めでした。その分話も複雑にはなっていましたが、そこまで致命的な矛盾は無かったように思います。「科学が進歩しているのにアルツハイマーは治せないの?」的な感想をよく見かけますが、分野によって発展の速度が大きく異なることは科学の世界ではよくあることなのでは?と、擁護可能な範囲かと思います。
 ただし、中層の科学者達が日光耐性のウソに気が付かないのは流石に無理があると思います。基礎欲求欠乏症の方はまだ良いにしても。研究・実験していれば、太陽光を浴びても大丈夫なことくらい分かるはずです。他にも政治的な?範囲では色々と強引な設定が組まれていて、CASE-1~3に比べると作りは粗く感じました。とはいえこの物語のメインはあくまで世凪と海斗の行く末ですので、その辺りには目を瞑りましたが。

海斗について
 海斗って結構称賛されたがりで子供っぽい性格ですよね。母親の病気やシャチとの問題があったとはいえ、結構な階層コンプも拗らせていましたし。OMAKEシナリオで「いんすったー」にのめり込む海斗のシナリオが追加されていたところを見るに、ライターもそういうキャラとして海斗を書いていたと考えて良いと思います。世凪との喧嘩シーンは九分九厘海斗側に非があって、(何やってんだ海斗……)と思いながら進めていました。
 海斗が仮想世界に入った一番の理由は物語を語り継いで仮想世界上に世凪を復活させることだと思うのですが、グランドED後、海斗はどうするのでしょうか。欠乏症問題の解決に向けて動き出すのでしょうか。青年時代に世凪とあんな喧嘩をした訳ですし、そう簡単に世凪の元(仮想世界)を離れることはないのでしょうけど、仮想世界の中から問題解決に向けて出来ることをやり始めそうな気がします。

遊馬先生について
 遊馬先生は敵役なりに強い意志を持っていて、最終盤の障害としての格が備わっていたと思います。EDで仮想世界内の里桜さんを想う後ろ姿がとても好きです。スペックも普通に優秀で、遊馬研の機器類の性能と準備の早さは世凪の能力に次いでチート級でした。ただ、どうしても秀才は天才には勝てない世界設計に見えるので、ED後の欠乏症問題の解決も海斗の力を借りることになるのだろうなと予想してます。

世凪について
 世凪は3つの物語を通して内面を掘り下げられているので心情に共感しやすく、とても魅力的なキャラになっていました。すももの愛嬌とオリヴィアの強さと凛の欲求を併せ持っていますからね。当然可愛さも抜群でした。フルプラで実質単独ヒロイン特化な作品は、描写の積み重ねが効果的になるのが強いですね。

 以下、普通の世凪を「世凪A」、グランドED後に仮想世界に現れた世凪を「世凪AA」、出雲とリープ君の力を借りて一度現実世界に復帰した世凪を「世凪B」とします。
 世凪Bと世凪Aは、作中で何度もそういう描写があったように別人(表現が極端かも。別人格とか?)という扱いで良いと思います。海斗の理想に応えてあげられないことに悩み、最後に見つけた自分の役目が「世界」のために身を投じることだった世凪Bの心情を思うと、心が苦しくなります。
 問題は世凪AAです。海斗の物語の伝え方が余程上手かったのか、描写を見る限り世凪AA自体は世凪Aと完全に同一の存在として誕生出来たようです。ただ、これっていわゆるスワンプマン的な状態になっているんじゃないかと思ってしまいます。つまりは、記憶も意志も完全に同じ世凪が仮想世界上に生成されはしたものの、それは「転送」じゃなくて「コピー」なのでは?世凪Aは消滅しているのでは?と。
 勿論、ラプラシアンの作風とか諸々考えれば邪推でしかないのは分かってはいますし、あそこが世凪の世界な以上、あれが「転送」だという適当な理由をこじつけるのは難しくないとも思いますが……。こういう色んな解釈の余地があるのも良作の証とも言えますかね。


 NSのコレクターズボックス版には小説とドラマCDが付いてきました。この感想を書いている段階ではまだ手を付けていないので、読み終えたら追記したいと思います。楽しみです。

追記:読みました。小説はだいたい本編の文章そのまんまでした。
ドラマCDは後日談的な各CASE毎のお話とネタ重視な楽屋トークとがあって、こちらはとても充実していました。


 好感度ランキング
序盤まで
すもも>凛>オリヴィア>世凪
クリア後
世凪>凛>すもも>オリヴィア

好きな話順
1>3>0>2