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Aizawa Naokiさんのアマツツミの長文感想

ユーザー
Aizawa Naoki
ゲーム
アマツツミ
ブランド
Purple software
得点
79
参照数
443

一言コメント

シナリオは重厚ではないが、かなりテーマ性があった。長文は前半ネタバレなし、後半ネタバレ。ちなみにライターtwitterによるとあの子たち融合した後も20%しかリソース共有してなくてそれぞれの思考は維持されているしFD出たら体外分離も可能らしい。FD待ってます。

長文感想

前半ネタバレなし、後半ありです。

未プレイの方は上部で気になるところだけ読んでいただければと思います。但し、webサイトや体験版範囲のネタバレ(~こころ分岐前)は含みます。

どちらかというとハッピーエンド支持論者です。

あと、テーマ違うんじゃね、と感じた方は是非コメントで教えていただければと思います
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タイトルについて:
アマツツミは古代の罪の分類である天津罪・国津罪に由来するもの。ちなみに天津罪は
1⃣水田の農作を妨害する行為
2⃣他人の水田を奪う行為
3⃣その他
に分けられる。(参考:https://kotobank.jp/word/天津罪・国津罪-1501044)
解釈は、作品内で語られるのでお楽しみに。


システム:
ゆずソフトレベルで、とても良好。特に、【音声速度が早くなる機能】と【テキストの位置があっちこっち行く機能】は私には魅力的だった。
他のブランドも同じようにしてほしいなぁ(1000回目)。音声速度変更は吉里吉里ZのAPIにないし、マルチプラットフォーム対応しようとしているから追加も難しいのかな・・・。


シナリオ・テキスト(総評):
ルート構成はヒロイン脱落式。ゲーム全体として日常の掛け合いとシリアスが上手に同居している印象を受けた。
例えば共通ルートである通称’本筋’はシナリオに重点があり、反対に個別ルートではイチャイチャやHに重きが置かれているというメリハリが作られている。
つまり、キャラゲーとしてはかなりの完成度である。
シナリオゲーとしては、そもそもテーマが当たり前すぎて魅力的ではない事、テーマがある特定場面にしか適応できず、まるで啓蒙本みたいなテーマであると感じてしまったため、哲学を求めてはいけなかったな、と思った。
(すば日々、ルペルカリア、あとマブラヴ等と比較してしまうと、感動だけで人生観は変わらない作品だった。)
[2022.08.31追記]
当時は酷評していたが、このテーマ、当たり前であるがゆえに日常を生きる自分を鼓舞してくれていると感じている。
すば日々やルペルカリアは物事の見え方が変わってしまう、いわば「劇薬」で、日常でホイホイ使うわけにはいかないやっかいなものであるが、アマツツミは「胃薬」のような、辛いときにその一粒で救われる、といったようなテーマであると思う。(点数を77→79に上方修正)
[2022.08.31追記終]

シナリオ(<テキスト><メッセージ性><ストーリー性>)(G:Good、B:Bad):
<はじめに ーテーマはなにかー >
・具体的なテーマは下部のネタバレに書きますが、私は学校編入手続き後、ほたるが発言した「これからあなたの前には受け入れられない人が...」のくだりを大テーマとして見ています。
・上記とは別に、「自分で選んだ道を歩き、成功できたら嬉しいことだよ、って」というのもテーマである(第二テーマ)と思う。こちらは作中で具体的に取り上げられることはなかったが主人公の気ままな行動を通じて暗に示されていると考える。こちらについては以降考察しない。

<テキスト ー読みやすさ、または読者にテーマを伝える工夫があったかー >
G:一番最初と最後のクライマックスで、ほたるを介してテーマが2度提示されていた為、作品のテーマがわかりやすかった。
B:↑のテーマを体現する主人公がほたるノーマルルートに進んでしまう際、大テーマを否定する形ではなく、テーマを見なかったことにする消極的な否定で話が進むので、わかりにくい。
B:最初と最後以外のルートが大テーマと関係しない。(第二テーマと見ることはできる...が、エロゲーなんてだいたい第二テーマをもとにできてそう)
B:日常コマと大テーマコマが入り乱れており、メモが大変(個人的事情)。

<ストーリー ーキャラにとって幸せな結末か、ギミックは面白いかー >
G:設定は異能がたくさん出てきて面白い上に新規性がある。
G:ギャルゲー的ハッピーエンド完備。素晴らしい。
G:一番最初から伏線張りまくりなのに、主人公の勃ち続けるちんこと、先が読めない雰囲気作りのお陰で気にしすぎず最後まで持っていけている。
G:誰とは言わないですが、ツンデレってこういうことなんだな、「口嫌体正直」だな、と思いました。意外性があって良かったです。

<メッセージ性 ー伝えたいことは普遍的か、(私にとって)新規性があるかー >
G:普遍的であるがゆえに、日常でふと思い出してやる気をもらえる。
B:個人的には新規性がなく、当たり前のことのように感じた。
[2022.12.05追記]
G:当たり前のことでも、明文化されていることと、雰囲気でしか理解していないことは重さが違う。本作はその明文化の役に立ったと思う。(これはとても個人的で、同じテーマの作品に出会っていなかった/人生経験を積んでいなかったから、ということもあると考える)
[2022.12.05追記終]


共通ルート(本筋)について:
本筋は他作品と異なり、ヒロインごとにスポットライトが当たる形式で進んでいく。
これは飽和化してきた個別ルート内の「みたことあるなぁ、この展開」という印象を避けられる一方で、
苦手なキャラクターが存在すると進めにくくなってしまうという欠点もはらんでいるように思われる。
苦手なヒロインがいる方はぜひ体験版第2弾で長さを確かめてほしい。


個別ルートについて:
個別ルートでは、主にキャラクターとのイチャイチャを楽しむことになる。
個人的には愛とこころがお気に入りキャラだったのでこれらのルートは楽しめた。
ほたるルートは少しご都合主義的展開もあったが、ルートテーマ(ネタバレに記載)自体がかなりギャルゲー的なので受け入れることができた。人によっては気になるかも。


絵・音楽:
 まず何と言っても水が綺麗。とても貞潔な雰囲気を感じた。キャラ絵も、いつも通り独特な塗でわたしは好き。音楽も特段目立ってはいないものの楽しげな雰囲気とシリアスな雰囲気の落差は強調されていたと思う。
 一方、作画や音楽がキャラのイメージに合っていない点もあり気になった。例えば愛は、過去の影響があり「いつも寒そう」な様子で、事実として「吐息が白い」設定である。つまり周りは暑いのに独りだけ寒い、しかも体の芯が冷えている、という矛盾が美しいキャラ。しかし作中最も変化に富みユーザーが着目する顔の肌色は血色の良い肌色である。個人としては抜きゲーにシナリオ性を足すのであればグランドルート以外のキャラについてももっとキャラの「影」の部分が描かれていた方が、キャラに奥行きが感じられ愛着が湧いたのではないか、と思う。
 でも総じてよかったです。





以下つれづれなるネタバレ
(考察ではなくネタだけを書いているので注意)














ほたる「人を好きになること以上に大事なことなんて、なんにもないよ」
(Loveではなく、Likeとして読むと結構名言。多分深読み。)














愛「失いたくないと思うほどの大切なもの、私はあなただけで十分・・・ううん、手一杯だわ」















あずき「好きな子ができたなら、世界で一番幸せにしてあげなさいね」
















































以下、ほたるノーマルエンドはいわゆるEND1のこと、ほたるハッピーエンドはEND2のことです。
またORほたるはオリジナルほたるのことです。
あとルートのテーマとか勝手に決めているだけなので、本当かはわかりません。皆さんはどう思いますか。


ネタバレで思ったこと雑記:
作品全体のテーマ、ひいてはほたるルートの大テーマは
「人間、受け入れられない他者もいるよ。無理しなくていいんだよ。」と
「でも、共通部分や善性を信じて受け入れられたら清らかで素敵だね」と捉えた。
これは初めての感じた憎しみを受け入れられないノーマルエンドの誠と、受け入れた上でもっと相手を知ろうとするハッピーエンドの誠にあらわれている(そして結果は見ての通り)。ハッピーエンドでほたるが最後に言った「誠が青色」発言の意味は、「青」に含まれる清らかさや澄んでいる様子を表そうとしていたと解釈した。
(https://okjiten.jp/kanji137.htmlの部首解説など)

グランドであるほたるルートでは、ルートのテーマ、
「人を好きになること以上に大事なことなんて、なんにもない」(ほたるノーマル10; 4010n)
「生きることの良い側面をみて生きて行く大切さ」(随所)
ということが、
死なないために生きようと思った「ほたる」/ORほたるが嫌いな「誠」の結末と、
幸せになるために生きようと思った「ほたる」/ORほたるが好きな「誠」の結末の、
選択肢の対比という形で提示され、また文章でも別途提示されることで読み取りやすくなっており大変満足できた。
さらにこれらが結局「嫌いな人やモノの良い部分を見て、清く生きる」という大テーマ根本的なところで同じ思想であることが感動的だった。

ほたるハッピーエンドは後付で、この作品のTRUEはほたるノーマルルートなのではないのか、と思う方もいるだろう。しかし、ほたるが23:55に真実を初めて伝えた場面で、ほたるは主人公にあの女に騙されないでほしいと伝える。ここで挙げられた騙されることとは、①ひとつの命を救うために別の命を犠牲にすることで解答するという問題からの逃避、②失ってしまったほたるたちに想いを持ちすぎること、等であった。ハッピーエンドのほうではこれらを犯していないため、こちらがより伝えたいことであったのかと考えている。
また、オープニング映像においても、ラスト光(ホタル)が交差する映像で光が1つになっている。これもハッピーエンドがTRUEであることを示唆している。
ちなみにであるが、この1つの体に収まった後のほたるは2重人格状態になっている模様(ライターのtwitter)。これは作中に書かないとわからないだろ・・・



その他:
言霊などの能力はおそらく感情や意志がしっかりしている方が強くなる。ORほたるの例はもちろんだが、最初の方で愛が里で一番感情が豊かなことと、愛が一番力が強いことを関係づける記述あり。

あずきのやっている店「折り紙」は「下り神」なのだろうか。また織部という名字は、物語を織りなす、というところから来ているのだろうか。こころが最序盤で言っていた「だって楽しい”お話”の始まりなんだもん」と関係づけて解釈もできそうだが、解釈力がない(絶望)。


調べたこと雑記:
- 「殺してやる」ルートではアマツツミ(他人の生きる意志を奪う罪)を犯したORほたる(ほたるの命を奪う)と誠(ORほたるの命を奪う)が死んだ。

- ほたるの一人称、「ほたる」は1週間を生きる狭義の”私”を指し、「わたし」とするときは総体としての”私”をさす。(ex.わたしは何度でも貴方に恋をする)

- 主人公の名字は「神代」(=神の依代)

- OPムービーの最後、2つの蛍が交わって一つになる演出、「殺さない」エンドの伏線。

- ハッピーエンドの方のORほたるとほたるは、ライターによると20%程度しか記憶や魂を共有しておらず、分身能力自体も失われていない為、FDが出れば分離可能な様子。ライター的にはほたるの今後の生活は、ほたるとはイチャイチャして、自分なりの記憶が欲しいと願いながら正直になれない闇ほたるがツンデレしてからかわれる、といった様子らしい。FD待ってます笑


エロスケの感想を読んで
- ほたるとの結婚式の言葉、「あなたは健やかなる時も、病める時も、水野ほたるを愛しますか?」という言葉にふさわしい、「心が健やかなほたる」も「心が病んでいるほたる」も愛したのがハッピーエンドと考えるとグッとくる。

- op曲タイトル「こころに響く恋ほたる」は攻略順にもなっている(こころ→響子→愛→ほたる)。恋と愛の違いもあって、全然気づかなかった・・・


終わっても疑問なこと
- 誠が青色になった理由。(晴れた青空?心に青いと書いて情?)


好きな言葉:
・ほたる「『なにを選んでも後悔することはあるけれど、後悔を背負って強く生きよう』(中略)これは前向きでありながら、強調されているのは負の面ですよね。【怖いこと】があっても勇気をもって進め、と(中略)でも、もっと単純に、成功したいという人の想いの強さだけに目を向けるべきではないでしょうか。自分で選んだ道を歩き、成功できたら嬉しいことだよ、ってーーそれを最初に夢に見て、最後まで信じて進め。ただ、進みなさい」(このポジティブに生きて、行くがテーマとも思ったのですが、あんまり強調されていないですよね。エロゲのメンタルガチ強主人公になれているからかもですが。どう思いますか。)






参考:
ネタバレで思ったこと+調べたこと:以下のページを参考にしました。
https://web.archive.org/web/20201024011139/https://sengchang.hatenadiary.com/entry/2017/05/26/214037
https://twitter.com/mikage_work/status/1243086281459896321
エロスケの感想を読んで:以下の方の感想を参考にしました
篠宮かたち様、Hisui-Konohana様