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Accord4312さんの駄作の長文感想

ユーザー
Accord4312
ゲーム
駄作
ブランド
CYCLET
得点
83
参照数
3526

一言コメント

この物語は、決して人間には理解できない。人間が犬の行動原理を理解できないように、飛び交う虫の感情を理解できないように。人間じゃない化け物のことを理解することなんて、経験から理解を得る生き物にはそんなことは不可能だ。その意味で、この作品は「駄作」でしかない。だが、どうだろう? この真っ白な世界の中で、彼女らの世界を垣間見たいとは思わないかい? そして、この「純愛」物語に、少しでも触れてみたいと思わないかい?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この物語が紡ぐは、化け物の狂宴。
彼女らが紡ぐその世界に、我々はどんな言葉を送ればよいのだろう。

というわけで、2014年も終わりに近づき、師走が背後に迫るこの頃。
一時は発売未定にもなった、「化け物の、化け物による、化け物のための物語」。
それがかつては「BLACK CYC」で異端ゲー製造メーカーとして、ユーザーの信仰を集め、一世を風靡したメーカーの残滓を引き継いだロープライスブランド「CYC LET」が満を持してミドルプライスで世に送り出した本作である。

本作において、私が抱いたこの作品への詳細な感想・思考は、ほぼすべてが先達としてこのゲームの感想を投稿したoku_bswa氏の感想(http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=20387&uid=oku_bswa)に記されていることもあり、改めて私が詳細に書く必要があるのかという面もある。
しかし、書きたい気持ちは十分にあるので、氏の感想には及ばないであろうが、こうして書かせていただくことにする。


私たちは、「化け物」という言葉をどのような意図で使うだろうか。
たとえば、並々ならぬセンスを持つスポーツ選手。予備校模試で全科目満点を取ってしまうような天才。これらの者のことを私たちは特に意識することなく、「化け物」と呼んでいることだろう。
それは、彼らの為すことが私たちの創造の範疇から逸脱した行為だからであろう。
私たち生き物は、「経験」をしなければその創造の範囲を広げることなんてできない。
それゆえに、理解できないものを客観的には同じ「人間」でありながらも「人間」と認めたくないからこそ、「化け物」と呼ぶのである。

では、その「化け物」たちの為すことを理解したいとする。
その「経験」というのはどうすればできるのだろうか。
たとえば、男に生まれ、太く、角ばった肉体を持って生活してきた私が、細く、丸みを帯びた肉体を持つ女の生活を理解する「経験」とはなんだろうか。
人間に生まれ、二本の手と二本の足を使役し陸地を動き回る私たちが、手足を持たず、その長い身を持って地を這いまわる蛇の動きを理解する「経験」とはなんだろうか。

答えは簡単だ。「そんなものは存在しない」、これに尽きる。
さすれば、男からすれば女の思考は「化け物」であり、人間からすれば蛇の動きは「化け物」であろう。
しかし、それでは、「化け物」と呼ばれた者を理解することができない、という批判もあろう。
世界平和を掲げ、差別をなくそうという「私たちからすれば」ある種当然の批判である。
そして、このような状況が残ることは許さない、「化け物」と呼ばれる者たちが差別され、私たちとは違う不当な扱いを受けるのを可哀そうだと思わないのか、という意思が生まれるのもまた、「私たちからすれば」当然のことである。

しかし、それはあくまで「私たち人間」の話に過ぎない。
当の「化け物」たちは、本当にそんなことを求めているのだろうか。

その答えをこの作品になぞらえて言うなら「否」であり、彼ら「化け物」は決してそんなことを求めてなどいない。
彼らにとっては「人間」の主張するそのすべてが対岸の火事であり、「化け物」同士で自分たちを理解さえできれば、それでいいのだから。

本作は、そんな化け物たちが所詮人間には理解できないと、化け物同士で傷をなめ合う。そんな物語である。

攻略に関しては、狙いのキャラを追い続けるだけなので、全く問題はない。
ただし、一週目は選択肢がないままに由貴√に突入(だと思う。BADエンドなのかもしれないが、よくわからない)するので、注意されたい。その他の個別ヒロインに関しては攻略制限は特にないが、個人的には以下の順番でプレイすることを推奨したい。

由貴→そまり→華愛美→枢→アリス

えぐい描写に関しては、まったく文句がないというべきだろう。
サンプルCGにおいて既に公開されていた、四肢切断、眼球刳り抜き、乳房切断などに留まらず、食糞、脳姦、レズプレイと言ったものまで、これでもかというくらいえぐいものをチョイスしてくれている。


また、各シナリオについてであるが、これについてはとにかくプレイしてから体感してほしいとしか言いようがないことから、細かい感想は控えるが、「理解できない」という意味の驚きを与えてくれるシナリオであるかのように思う。

ただ、先に描いたように。
この作品は本質的には「化け物」たちによる「化け物」のみからなる、お互いがお互いの傷を理解し合う、ただそれだけでいいという排他的な世界を描くという「幸せ」と、そこから生まれる「愛情」とを真摯に書き切った「純愛」物語であり、そこに人間である私たちの理解の範疇に留まるものはないと思われる。
しかし、この作品における彼女たちも、最初から「化け物」である道を選びたかったのではない。

「愛されたい」
「赦されたい」
「やり直したい」
「変わりたい」
「認められたい」

そんな「人間」ならだれもが持ちえた感情から精いっぱい、ちょっとだけ周りとは違う「人間」がその「人間」ならでは感情を、血のにじむような努力をし、追い求めた結果として、「人間」であることを捨てた。
その結果として「化け物」となったのが彼女らであり、そんな彼女らが紡ぐのがこの「駄作」なのである。
そう思えば、少しでも「対岸の物語」としてのこの作品を考えることができるのではないだろうか。

キャラについて。
プレイ前は女装少年ということもあり、枢がダントツ一番手だったが、やってみるとクロエもかなりかわいい。
逆に、誰とは言わないがすごい勢いでイメージひっくり返る子もいるので、その子にはちょっと複雑な感情もチラリ。


最後に、総評として。
本作はその描写や物語の異質さから、世間一般に評価される余地を有しない。
今私のような既プレイユーザーたちがそろって「この作品は良作である!」と声を上げたところで、その容貌からだれも見向きはしないであろう。

しかし、それでも。
「ボクを受け入れてほしい」というこの作品の願いが聞こえたならば。
こうやって、さびしそうに身を寄せ合って、慰め合う既プレイユーザーという名の「化け物」の姿に興奮するような人間なら。
貴方たちも、「化け物」の仲間入り。

そんな、「駄作」の世界へようこそ――――――