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Accord4312さんのBRAVA!!の長文感想

ユーザー
Accord4312
ゲーム
BRAVA!!
ブランド
Sweet light
得点
78
参照数
2508

一言コメント

雪乃しずくお姉ちゃんは素晴らしいヒロインです(俺的

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

というわけで、ほぼ休館状態になっていた劇場を亡き祖父から受け継いだ雪乃しずくとみなもの姉妹に懇願され、劇場再興の手伝いをすることになった二人の幼馴染、宝木宙人(主人公)が「舞台の上にはヒロインがいる」の信念のもとに劇団「BRAVA!!」を立ち上げようとする物語が今作「BRAVA!!」となります。

上記の文章を読んで違和感を感じた方もおられるかもしれません。目的と手段がごっちゃになってますね。
あくまで主人公たちが目指すのは「劇場の再興」であって「劇団の結成」ではありません。
しかも、物語は劇団結成後は劇場の運営云々はほぼ語られず、劇団としての活動の苦悩などが話の重点になるため、この時点で違和感を持った方はプレイを少し考えたほうがいいのかもしれません。
ですが、そのような側面はあれど、「劇団結成及びその成長の物語」としてみれば間違いなくよい物語であったと個人的には思います。

共通ルートは主に劇団結成からメンバー集結、初公演前後まで。
その後の公演による修正や劇団・劇場の発展に関するストーリーはキャラごとに語られる量が異なることになります。
基本的には毎度毎度挫折しながらも主人公やヒロイン、支えてくれるサブキャラクターの力でそれを乗り越えていく、という形で物語が描かれます。

以下は各ヒロインの話です。(ネタバレは極力しません。書いている順番はワタシの攻略順です)

月舘日向
アイドル声優を目指してネット声優活動及びネットラジオの活動を行うアニメ好きの学生……といえば非常に聞こえはいいものの、その実を言ってしまえばただのアニメ好きのプチこもりで、声優になりたいと思いながらも具体的な努力に向かうことができない、さらには努力をしたいと思っていてもできないという無気力さを持つ、まるで私たちを見ているかのような典型的なクズヒロインです。
劇団「BRAVA!!」では演劇「月薔薇姫」で男装して敵国の王子様、「エメルダ王子」の役を演じることになります。
彼女のルートで描かれるのは「夢に向かうということ」についてであると個人的には思います。
上に記したような典型的なダメ性格の彼女(作中でも、その無気力を十分に発揮し、士気を上げるメンバーの中で一人脱退を画策するなど)ですが、その彼女が後述するヒロイン・花瀬あおいという対極の存在や主人公と関わっていくことで夢に対する気持ちで変わっていく、そんなストーリー展開となります。
個人的に眼鏡ヒロインであることから「苦手なキャラは先にやろう」という精神で真っ先に攻略したキャラではありましたが、シナリオのメインクラスのヒロインであったこともあり満足度は非常に高かったです。

雪乃みなも
劇場兼カフェのオーナーである雪乃しずくの妹で、主人公の幼馴染。
ちんまい身体ながらパワフルな行動力と模試は常に全国トップクラスの知識、年に似合わぬ大人びた思考回路を持っており、劇団「BRAVA!!」では敵国に仕える賊長「レディ」役兼脚本兼撮影兼運営補佐……と一番動き回るヒロインとなります。
正直、動きすぎで身体が持たないだろうとは思いますがそれもパワフルさでカバーなのか。
作中では特に初めて文章を書いたという脚本面以外でその才覚を称賛されることはなかったと思いますが、これで役者として通用してるということになっているのですから化け物です。
彼女のシナリオは姉であるしずくとの主人公を巡ってのかかわりの話と、劇団のプロモーションビデオの作成について。
ヒロイン唯一のロリ枠ではありましたが、シナリオの盛り上がりは乏しかったかなぁという印象。演劇そこまで重要視されないからなぁ。

星架ナナミ
ロシア人と日本人のハーフで最近日本に帰ってきたばかりのちょっと日本語のおかしな後輩少女。当初は学園の演劇部に所属するも自分の想像とは違う現実に苦悩し退部、そして劇団「BRAVA!!」へと参加することになります。
演劇「月薔薇姫」では二国の争いで村も家族も失ってしまった少女「ヴィレッタ」の役を演じることになります。
彼女のメインとなるシナリオは「コンプレックスを超えるということ」にあります。
決して円満とは言えない形で演劇部を「放棄」してしまったことや、「ぽてぽて」と称する自身の体型など、その屈託なく見える笑顔の裏に彼女が秘めるコンプレックスの塊をいかに越えていくか、ということが語られます。
普段のぽわぽわした様子とは全く違う演劇での姿は必見。たぶん、女の子としては一番かわいく見えるヒロインなのではないかなと思います。
ぽてぽて、って言い回しがすごくかわいいです。

花瀬あおい
幼少時は天才子役としてドラマにとどまらず芸能界で活躍するものの、現在は活動を休止している元タレ。劇団「BRAVA!!」の役者入団第一号であり、その演技力はずば抜けており、団員たちを指導する立場にも。
演劇「月薔薇姫」ではメインヒロインとなる亡国のプリンセス「アイラ姫」の役を演じます。
重度のアイドルオタクである主人公がアイドルに陶酔するきっかけを作ったのは幼少期の彼女で、主人公が彼女のオタクであることを公言するほどであることや、演劇で主役を張ることからも予想がついたが、作中では一番のメインヒロインとして描かれることになります。
彼女のシナリオで描かれるのは「高みを目指すということとは」ということ。
芸能界復帰を目指し、その足掛かりとするため「BRAVA!!」に所属することを決めた彼女の判断は、その道として正しかったのか。また、それ以外にも彼女と家族の問題についても触れることになります。
メンバーでは一番の実力を持つと同時に一番の努力家であり、非常に社交的でもあることから先に書いた月舘日向とは対極の存在であり、その絡みが多く描かれることになります。
また、余談ではありますが、作中で唯一演劇「月薔薇姫」を最初から最後まで通してみることができるのはこのヒロインの√です。

雪乃しずく
劇場とカフェ「BRAVA!!」のオーナーであり雪乃みなもの姉でもある主人公の幼馴染。劇団「BRAVA!!」には音響担当としてかかわるものの、基本的には劇場とカフェの運営に携わることになる、ヒロインの中では一番メインシナリオからは遠い存在となるキャラクターです。
性格は先述した妹であるみなもとは真逆で、頭の良さとピアノの才能こそあれど引っ込み思案でネガティブ思考。男である主人公とほとんど変わらないほどの高身長でなければ妹のみなもと姉妹逆に思われても仕方ないレベルです。ただし、主人公への愛の強さは2人そろって共通というべきか。
彼女のシナリオで描かれるのは「まだ続く初恋と音楽」。
幼き頃の出来事を機に主人公に恋をし、そのままに大人になった彼女の恋物語と、劇中の音楽についての彼女の実力発揮がメインな話となります。
これは個人的な話ですが、声優が榊原さんであることや、スーツの似合う高身長ナイスバディな黒髪ロングの年上女性であること、さらには弟分である主人公ラブが過ぎて甘々であるダメお姉ちゃんであることやお酒が大好きなことから、私の好きな属性を悉く的確に突いてきたので、危うく二次元の嫁の座を動かしてしまう羽目になるところでした。

推奨攻略順
対極になるとされる
あおいと日向については日向→あおい
でプレイすることや、あおいがメイン級の扱いであること、雪乃姉妹の√に関して一部演劇の省略が見られること、しずく√はある種劇団を客観的に眺める√であることを考慮すると、以下のパターンがよいのではないかなと思います。

①ナナミ→みなも→しずく→日向→あおい
②ナナミ→みなも→日向→あおい→しずく

また、これ以外でも、メインシナリオ(演劇「月薔薇姫」の上演)に対する関連度でいえば
あおい>日向>ナナミ>>みなも>>>しずく
であるので、これを参考に自由な順番でプレイしていただければいいと思います。

システム面
吹き出しによる演出や演劇の事細かな演出などは非常によかったと思われるが、スキップが遅いこと、バックログが少し見づらいところなどは改善の余地ありか。
修正パッチを適用後でこれなので、そこまでよいものということはできない。
アイキャッチの部分で各ヒロインが「ぶらーば!」と言うのであるが、特にナナミの「ぶらーばー!」の言い方はすごくかわいかった。

音楽面
先ほどの演出面とは被ることになるが、演劇の演出における音楽や、挿入歌の使用など、悪い点は見当たらなかったように思う。
流石樋口さんということもあるし、主題歌及びエンディングを歌うカナリアさんの歌声も癖になるものであった。

CG面
AKINOKO氏の手がけた前作でそのバランスを酷評された「かみのゆ」にくらべて各段にエロさやかわいさが上昇し、萌え系コメディーの絵としては非常に良いものになっていたと思う。
だが、これは言ってしまえば氏の前々作以前の絵柄に戻っているともいうことができ、逆にどうして「かみのゆ」の時だけはあのような絵柄になってしまったのかと疑問を呈したいところではある。
また、予算がないのかどうかわからないが、メインヒロインの以外の立ち絵がすべてシルエット(ヒロインや主人公の子供時代も含め)になっているのはいかがなものか。
物語中多く関わってくることになるサブキャラも少なくなかっただけに、気になった。
もっとも、慣れてしまうとそれも一つの演出のように見えてしまっていたので許容範囲内ではあるが。

総評
一番最初に書いたことの一部繰り返しとはなるが、物語序盤でいきなり違和感を感じさせるようなシナリオでありながらも全体としてみれば「劇団結成からその発展まで」を劇団としてとヒロイン個人としてをうまく絡ませて描いた良作ラブコメディと言える。
しかし、このスタッフで作り上げた前作という位置づけになる「かみのゆ」に比べ、成長を描く物語であることから「変化」というものを描かざるを得ず、そのせいか矛盾点や腑に落ちない点などが目につくように見えてしまった。
また、劇団の成長とヒロインの成長を絡ませて描く作品という形式上、個別√の長さはどうしても少なくなってしまうのにもかかわらずそれに合わせたHシーンの長さのバランスが取れていないような面を感じてしまったことから、この作品を購入した多くの層が期待したであろう「『かみのゆ』越え」というものは残念ながら果たされなかったように思える。
ただ、それでも、「地上最強のラブでコメディーなハッピーエンド!」というパッケージ裏にかかれた言葉には偽りない物語といえるレベルには十分達しているため、今回のような評価にさせていただきたい。

普段私はシナリオライターをあまり気にして購入するユーザーではないのであるが、私が絶賛するゲーム「かみのゆ」に関わり、今作でもライター兼監督を務めた大田憂氏のこの作品に対する熱意は、初回特典に付属するパンフレットの対談や演劇に対する描写の深さから感じられた。また、二作続いて私の好みに合う特にシリアスもなく萌えてラブラブなシナリオを描いてくださることから、私の中で氏は今後の作品に期待させていただきたいクリエイター様の一人として名を連ねることにしたい。

以上を、この私が本作「BRAVA!!」をプレイした感想と雑感として投稿することにしたい。
期待作の多かった6月の中で、どうしても知名度の面では勝てなかった本作の評価を期待するすべてのユーザーの方の購入やプレイの検討の材料となれば幸いである。

では最後に、氏をはじめとするこのゲームの作成にかかわったすべての人々に対して、この言葉を送ることでこのレビューを締めたいと思う。

「じゃあいくぞ――せーの……」
「「「「「「「BRAVA(ブラーバ)!!」」」」」」」

※CMムービー曰く、「BRAVA!!」とは私たちの良く使う「ブラボー」という言葉が男性に対する言葉であるのに対しての女性に対する言葉であるということであるが、この場でそのことについて気にする必要はないであろう^^;