ErogameScape -エロゲー批評空間-

ARTOさんのシュガーコートフリークスの長文感想

ユーザー
ARTO
ゲーム
シュガーコートフリークス
ブランド
Littlewitch
得点
80
参照数
1231

一言コメント

Littlewitchさん最後の作品。その感慨を抜いても良作という感想を持ちました。若干違和感の残る箇所はありつつも、作品の瑕とは思わなかったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

久々に何か書きたいと思ったので戻ってきました。リアル多忙で余りエロゲもできなかったのですが、ほそぼそと続けていたので、また感想書いたり、読ませて頂こうと思っています。以前とはちょっと違うこと書こうかなと思いつつ模索中なので、リハビリとして読んで頂ければ幸いです。と、ゲームに関係ない話おしまい。

-----
共通パート(前半)・個別パート(後半)という構成。前半・後半でそれぞれ独立した展開が用意されているので、中だるみしません。テンポがよい。また、主人公以外のキャラクタにもそれぞれ見せ場があり、脇役の絡みも激しい。そのことが単調さの解消に一役買っています。

冒頭、EDに提示されているように「おとぎ話」が本作のイメージにぴったりくると思います。ただ、無邪気に「いろんなものを信じていた」時代は終わり、「夢は未来の妄想に、やがてはただの思い出に」という道を通った後の、おとなのための「おとぎ話」。

ここで言う「おとぎ話」の意味は、単なるファンタジーではありません。まず統一的で強固な価値体系が存在すること。そして、やや楽観的なくらいの未来への希望があること。世界を肯定する思想、と言ってもよいかも知れません。

物語世界に存在している「神龍の加護」は、強烈な価値体系であり、世界を肯定的に支える超越論です。作中の「現在」を支えるのはそのような「加護」ですが、「加護」を失っても存続している国がほとんど、というのがミソですね。

ルリタニアは「加護」を得た恵まれた国のようでありながら、実は「加護」に縛られた時代遅れな国でもあります。「加護」を失えば「約束された幸福は二度と訪れないだろう」と考え「加護」に固執するルリタニアの国情は、既に「加護」を失いながら生活している国からすれば、滑稽に見えるかもしれません。「加護」は、これまでを支えてきた。そのことは揺るぎない事実。でも、これからを支えるものである保証は無いわけです。

この手の物語(神は死んだ!みたいな話をする)の典型として、神など必要なかったというオチに持って行く展開は多いのですが、「おとぎ話」が核になっているせいか本作は少し違う経路をたどります。「加護」はかつて間違いなく効果があったものであり、現在が成り立っているのは「加護」のお陰なわけです。そりゃそうでしょう。神を殺しても、神がいたことまでは否定できないんですから。

「加護」という「古いおとぎ話」は、人を安定させ、守ってくれる。でも、それは作中示されていたように、いつの間にか未来までも規定してしまいます。それは安定した未来をもたらすかもしれないけど、自由は失われていってしまう。

「加護」は必要かもしれないし、必要でないかもしれない。そう宣言することで、人は安定を失う変わりに現在から生み出される未来を手に入れました。それは、本当の意味で(というと本当って何だよって言われそうですが)「可能性」を手に入れたということです。自分という存在は、こう在るかもしれないし、別の在り方をするかもしれない。その可能性の中の一つにいるからこそ、一度きりの自分の生が価値を持つのだ、という考え方は割とポピュラーでしょう。その意味で、本作は人間の価値を取り戻す物語を構成を取っています。

ただ、それはもちろん良いことばかりではありません。誰かが理不尽に命を失ったり、大戦争が起こったりする可能性もある。それは作中でも「赤い空」として示唆されていました。でも、本作は「人(主人公たち)は素晴らしいから大丈夫!」と言うわけです。そこに新しい価値体系・超越論が生まれている。それこそが「新しいおとぎ話」です。

「加護」(歴史)への信頼を、「人」に載せ替えただけなんだけど、私はそれで良いと思います。だって、それこそ「おとぎ話」なんだから。個人的にはもう少し現実見てる話のほうが好きだし、わかりやすすぎて退屈、という意味じゃ確かに微妙な内容かもしれません。とはいえ、世界観と、新しい理想を担うに足ると思えるキャラクタたちが綺麗にまとまっている。未来と価値を取り戻せ!なんてのは割とありがちなお題目ですが、そういうのをこれだけシッカリと表現できていると思えた作品は意外に少ないんじゃないかな。

ニヒリスティックな思想がかっこいいとも別に思わないし、こういう一度否定を経た上で再構築された「おとぎ話」はノーテンキな盲信と違い、「自分で選択したおとぎ話」であるぶん、私には魅力的に感じました。

って、ここまでキャラクタの名前がひとりもでてない(笑)。偏ったというか変な感想になってしまった。でも、しょうがないんです。一番好きなのクロエさんだったから…(泣)。ちなみに次点がマキナさんで、三位にヒロインのマリー嬢。でもこれ、メインキャラに魅力がない証拠じゃなく、世界観がしっかりしてる(だからキャラクタが魅力的)証拠だと思うんですよね。

ともあれそんなこんなで堪能できた作品でした。これでメーカーさん休止というのはとても残念ですが、告知文などを見ると将来的な復活もあるのかと期待させるものもあるので、希望を持ちながら楽しみにしています。