面白い小説風、というのがこのゲームの正しい分類。 経済(に関する)ゲーの体を成しており、ヒロインは基本的にどうでも良い感じ。
一言で言うなら、非常に残念。 以下、感じたことを素直にだらっと書く。 ネタバレ有。
・大まかなシナリオラインについて。
自分の周りのヒロインを守るため、裏の汚いお仕事をガンガンして相手とやりあいますよー、というのが本筋のシナリオ。
要するに、ゲームのルールとして経済やらをバックボーンにした話を展開する。 で、まあ言わなくてもわかるだろうが、その後に少年漫画的に敵の裏をかいたりして、ちゃんちゃん、とするわけだ。
何が問題か? カタルシスが薄いことに集約される。
巨悪とされるサブキャラが早々に出てきて、主人公に異様な執着をする。 異様な執着の結果、ヒロイン(ら)にまで害を成そうとする。 それを2部構成で成敗する。
という感じなのだが、そのサブキャラがそもそもキチガイなのである。 女サブキャラなのだが、生理的な嫌悪感を抱くような性格描写の上に成り立ったキャラである。 また、この女は単に気持ち悪い以外にたいした罪を犯してないんじゃないのか? くらいの気持ちにさせられる。 ちなみに、別に俺がそう思ってるわけではなく、そもそも主人公がそう想っている、と描写される。
それをそもそも成敗して改心させたとして、「病質ストーカーを退治してやった」くらいの感想で、気持ち悪い何かがリムーブされた、くらいの感想しか抱けなかった。
謎が解けた、主人公が成長した、苦難の末結ばれた、正義は勝った、などのカタルシスは弱弱しい。
シナリオが終わって、予定通りの改心があったときも、「あーやっと終わったなぁ…」程度のもんだった。 突然改心した、といわれてもこいつに対しての嫌悪感はこいつの性格に根ざしたものなので、改心した=悪事をするのをこれからやめる、という流れではこいつへの生理的な嫌悪感を取り除くにいたらなかったのが要因だろう。
・経済ゲーであるということ。
題材としては悪くなかったとは思う。 ただ、個人的には好きじゃなかった。 なぜなら読んでるうちに理解が面倒になってたから。
どうせ天才お嬢様が勝手になんか考えてたのが最後の最後で役に立ったよ☆みたいなので解決されるので読んでようが読んでなかろうがどうでもいいし。
また、時折主人公がヒロイン(ら)に対して、一般経済学や政治的なことを軽く講釈垂れるのだが、こっちはプレイヤーとして別にお説教垂れられたくないのである。 ライターがドヤ顔かなんかで一般的な知識を教えてやってんやでぇ(ドヤァ)みたいなのが背景にあるのが透けて見えてウンザリするだけである。 ちなみにストーリーに一切関係のない講釈であり、ガチでこいつ何のために解説してんの?と頭の中が?マークでいっぱいになる。 ライターが講釈したいだけじゃないの?
よく知りもしない相手からされる政経の話なんて、いくらまろやかにしたり形を変えたりしても、少なくとも俺には本能的に忌避感が沸く。 この点に関しては明らかに(ライターの)主観を交えた話をするべきではない、と俺は思う。 なまじ主人公の口から発させてる段階で、手を変え品を変えしてる感じが出て、薄気味悪さが、もう。
もしこのライターが政治、経済思想的にアレな奴だったらどうすんだろう。 そういうのは、気の置けない友人らと飲みの席で語らう、くらいにとどめておいて欲しい。
・キチガイウザイ
個人的判定で4人。 うち1人はシナリオにはほぼ関わってこないが、完ッ全な、知恵遅れ、白痴、情緒不安定である。
問題は残りの3人が、ヒロインも含めた本作登場人物の中でも、重要度において上から数えた3人であるという点だ。
1.前述のストーカー、サブキャラ。 気持ち悪いのが仕事。 前述したので割愛。 女キャラで見た目と声が良かったから許されてるもんの、これで男キャラだったらと思うと背筋がマジで凍るし、その場合はこのゲームを絶対途中で投げてると思われる。 後、仮にこいつが攻略ヒロインだったらジャンル違うゲームになってっから。
2.ヒロインその1、わけわからん言動を繰り返しながら、見たものは完全記憶し、一瞬で電卓以上の精度と速度で暗算し、ひたすら頑張ってる(と描写されてる)主人公をヘコませるほどの計画を一瞬で考え出すパーペキ天才。
設定的な面を羅列すると物凄く賢くないとおかしいのだが、その実人間関係については3歳児で成長が止まったかのようにもまた描写される。 周囲も3歳児として扱う。 はっきり言って、面倒な説明面を丸投げするために設定をくっつけていったらスーパー天才になってしまいました、みたいな感じで、性格描写との乖離がひど過ぎてもはや笑えてくる。 ジェバンニもビックリ。 おかげでこいつがメインヒロインなのに一切愛情持てなかった。 現象と化してて人間味がゼロ。
3.ヒロインその2、とある事件によってボッコボコにされた主人公の顔を見て大笑いするような女。 作中行為において、どんな些事においても主人公に迷惑をかけるという点で行動原理は一貫しており、常に謝罪はない。 反省もまたない。
エロゲーにありがちな現象として、こういうキチガイも周囲や主人公の空気感的になあなあに中和されるというのが良くあるのだが、本作においては主人公も普通に作中で何度も普通にキレる寸前までイライラしたり、本気でバカだと思ってたりする。 よって、プレイヤー視点だけでなく、作中ですら、綺麗にキチガイとしての立ち位置を確固たるものにしている。
設定上、不幸を負わされてるのだが、なんなら「こいつの自業自得じゃないの?」くらいの綺麗なキチガイっぷりで勘弁して欲しかった。 他の人(ここに感想を書いてらっしゃる他ユーザーの方)も槍玉に挙げてるのはこいつ。
本作の攻略可能ヒロインは5人だが、上述の2人と、サブ(ストーカー)キャラが会話数の5割くらいを誇ってるんじゃないだろうか。
キチガイほどキャラが立てやすく、会話が作りやすいため、作中で登場しやすい、というのは俺が以前こき下ろした他社別ゲーの姉にこの夏(他社作品を話題に出して申し訳ない)で十分学習したのだが、人は何故同じ過ちを繰り返すのだろうか、と哲学的にもなれる。 こいつらをお前らは心底可愛いと思って書いたのか? サブキャラはともかく、うち2人はヒロインだ。
・ヒロイン(恋心)の不在。
このゲームの基本的なストーリーが、ストーカーをなんとかしよう!(or アイドルになろう!)なので、ヒロインとの恋模様はどうでもいいのである。 主人公は最初からモッテモテであり、作中でも突発的にモブキャラから性行為を日常的に申し込まれるような描写が(ギャグとして)あるように、ヒロインすべてを最初から恋に落としてるのである。
驚きの初期好感度ALLMAX!! 恋心はヒロインからの行動によって成就されます!
ヒロインとの恋愛譚は、メインストリームで展開されている話の傍らで発生するため、なんやわからんまま性交してたりするのである。 恋してんの?主人公。
落としてる感覚もあったもんじゃなく、単に展開的にマンコの近い順にチンコが収まったんだよ、と言われても納得するレベル。
また、この手の社会的立場の高い(=本作ではお嬢様、ないしアイドル)と恋愛するときによくテーマにされがちな社会的立場の差からくる懊悩も控えめ仕様。 妹だろうが義理だってことで姦通OKバッチコーイ!
悩めよ、もっと。 人間を描写してる気がしない。
・これが良かった。
散々ぱらこき下ろしたものの、実際、面白かったのである。 8割くらいのゲームを何らかの形で途中でGIVEUPしたり後回しにしたりフル化してしまったりする俺も、最後までやったほどには。
1.少年漫画的なストーリーの踏襲。
前述したが、要するに巨悪と戦うため、悪事に手を染めながらその背を取るために東奔西走し、ズンバラリ。 最後の最後で悪人が改心して…。
些細なアレやコレを捨象して考えると、まあ非常にありがち。 別に悪い意味で言ってるわけじゃなく、古来から伝統の大衆好みのシナリオであり、その点は非常に良く出来ていた。
2.テキストがいい。
俺はよく「シナリオ」と「テキスト」を単離して考えるのだが、「シナリオ」はストーリーのことを指しており、その差は「で、3行で説明してって言われたらどんな話になるの?」ってのが「シナリオ」であり、「テキスト」は要するに地の文である。 本作は、地の文は優秀だった。
前述のようにそのペダンチズムが鼻につく場合もあるのだが、雑学を豊富に鏤めており、読むさいも飽きさせない。 また、話の引きの使い方も上手くて、気になる複線を小出しにしてきやがるのも小憎たらしい。 えがった。
3.一部ヒロインはいい。
ぶっちゃけると詩綾。 このヒロインに関してだけ、ストーリーもよければキャラクターもよく、展開も良い、挙句の果てにはエッチシーンも最高です!と、どうしたんだ?突然。ってな気分になる。 購入してウザキチガイに耐えられなく、げんなりしてる人も最低でもこいつだけは攻略すること。
・総評
非常に残念である。経済の話であることとシナリオのアウトライン以外の、キチガイヒロインズと勝手にフォーリンラブ現象の二つは明らかに後手対応も可能だったと思う。 軌道修正が出来たと思う。
もっと言えば、あんだけそれなり面白いテキストを書くライターが、どうしてその程度のことが出来ない?とも思う。
それらの問題によって、この作品がヒロインと恋愛する、というのが根本的なベースにあるエロゲーではなくて、経済に関してのあれやこれやで人間模様が交錯するようなゲームになってしまってる。
極論、ヒロインとくっつかなくてもこのゲームは完全に成立する。 またくっつくべき必要もなければ、恋心がメインテーマに与える影響も微々たるもの。
エロゲーたらしめてない。 俺が、この作品を小説と評したのはそういう理由である。