名作一歩手前感
架空の歴史を持つ現代の日ノ本が舞台のお話。地域復興と鉄道再生がお話の主軸にあり、ルート毎に主人公の双鉄とヒロインたちがどのようにして壁を乗り越えていくか、が見どころ。
・キャラクターとシナリオ
主人公の双鉄は大正文学のような古風な喋り方で豊富な知識を持ち、落ち着いた性格で様々な問題に冷静に対処しようとする素敵なお兄さん。物語中では8620蒸気機関車の機関士という立場で実際に機関車を動かしながらも、他方では様々な問題に対して適切な解決策の提案と人材の徴用とを行う、頭の切れる人物でもある。読み手としては、よくいる一人で悩んでしまううじうじ系や、サブキャラやヒロインばかりが手を動かしているのに何もしていないヒモ系の主人公とは違い、読み手の期待通りもしくはそれ以上の働きを見せてくれるストレスフリーな主人公。と言えるのだが、本作では双鉄とハチロクとを取り巻く登場人物が軒並み"良い人"であり"自分の信念がハッキリしていてそのための努力ができる人"なため双鉄の活躍があまり映えない。また、そういった登場人物が一度努力をすれば必ず良い結果となって帰ってくるお話が多かったり、物語の肝である"工場誘致撤回のための鉄道を用いた復興"という手段に対してエモーションが沸き立つ展開が少なかったりと、エンタメ性という点で非常にもったいない部分がある。
例えば、多くのルートでは8620を観光列車にして旅行客誘致に繋げることを画策するのだが、廃炭鉱を利用してテーマパークor参加型ストーリーライドを行おうというものがある。なまじ現実の人吉市をモデルに舞台設定をしっかり作り込んでいる分、この発想・実際に行った際の描写・人々の感想がどうしても(酷い言葉を使うと)ファンタジーを演出しきれないが故の文化祭じみた幼稚さと、現実の失敗した地方の"夢物語"的復興政策とを想起させるため、この事業が上手くいくということにはどうしてもご都合主義を強く感じてしまう。
一つ一つ積み立てながら前に進む構成なので、読めば分かる悪いシナリオだとは全く思わないが、万人受けはしにくい。
・システム面
欲しい機能は揃っているが、特筆すべきはTIPSの豪華さ
蒸気機関車及び鉄道に関するディープな単語の奔流に飲み込まれてしまいがちな本作だが、分からない単語はハチロクたちがボイス付きで教えてくれるので逐次理解を深め物語を楽しめるようになっている(ついてこられる人に限るが)
・BGM
ピアノ主体の物静かでエモーショナルな曲多し
BGM鑑賞画面でバージョン違いなども含めて77曲聴けるのは凄い
・ビジュアル面
E-moteと美麗極まる背景画の効果によりそれぞれのシーンで読み取れる情報量が多いので、どこでどんなことがあったか、が印象に残りやすい
現実の街を参考にしているので当たり前といえば当たり前だが、どんな人がどんな暮らしを送っているのか、を想像しやすい雰囲気を作れており、キャラクターに生気があるように感じることができるのは◎
キャラデザインの話をすると、ハチロクをはじめとしたレイルロオドたちの擬人化的デザイン一発で惹かれてしまったので満点
あと双鉄が声と言動を思えば幼い顔立ちをしているのが、Hシーンとのギャップを思えば少々サイコさを感じさせて良い
得点は以下のように考えました
シナリオ:31/40
キャラ:23/30
システム:10/10
BGM:10/10
ビジュアル:10/10