「生きる幸せ」と「死の受容」を考える物語
〇雑感
良い作品だった。日常は楽しいしヒロインは可愛いし謎は興味深いし…
ホームコメディと銘打っているのは、人が生きている中で味わえる、普通の家族の暖かさと、愛する人との別れがこの作品の柱にあるからだろう。
なんか考えちゃうな、自分や家族の人生について。
〇キャラとシナリオ
・真
物分かりが良く少々カラッとした感じのあるお兄ちゃん。不快感が無いのは良いけどもうちょっと個性があってもよかったかなと思わないでもない。
・琴莉
初めての出会いのシーンから「初めて親切にしてもらえた」や桔梗の反応から既にん…?と違和感を感ぜずにはいられず、その後の交流の中でも真が彼女を「救う」と言ったり他のキャラとの会話やCGからやっぱこの娘…と疑惑が深まっていった。そんなことも変態ドMおじさんの件で一度頭から完全にすっぽ抜けはしましたが、きららの襲撃を退けた時に発現した能力や、真との肌の触れ合いでの真のモノローグ、伊予の忠告、等々……"そのCG"が出る直前までは杞憂で会ってくれと切に願いましたが……
テキストによる情報の出し方が上手で、読んでいてそれとなく分かるようなことから『由美と琴莉は会話したことが無い』みたいに演出としてはありがちだけど実際に読んでいるとちょっと気づきにくいところまで、プレイヤーにもしっかり推理させてくれる点が〇でした。
今作メインヒロイン4人いるくせしてデートシーンが全然ないのですが(うち一人は家から出れないし)琴莉ルートラストでの遊園地デートは、それ故に際立っていました。
愛する人との別れにある程度の時間があるのってどれほど辛いことなんでしょうね。事故であれば別れは一瞬だし、認知症なんかの病気は長いお別れとも言われます。どれだけデートが楽しくても、どれだけ相手を愛していてももうすぐ永遠に会えなくなってしまう。
最後の時間は二人だけになれる場所で……というような展開は色んな作品で結構見てきましたけど、遊園地という舞台にしっくりくる意味付けがされているなと感じたのは本作が初めてです。
別れたくないけど別れなきゃいけない、でも自分でその時を決断することが出来ない。だから、一度乗ってしまえば必ず降りる時が来るメリーゴーランドにその決断を託してしまいたかった。これが観覧車の場合もありますけど、観覧車は向かい合って座るから相手の表情が見えてしまうし、少し体が遠いですよね。対してメリーゴーランドであればしっかり掴まる必要があるから体も近いし、一方向を見ることになるから相手に表情を見せなくて済む。琴莉の笑顔でお別れしたいという気持ちと、でもそれを貫き通すにはまだ未成熟な性格を考えればそりゃこっちを選びますよね……と、たったこれだけのことを書いているだけでも滂沱を禁じえません。
・桔梗
桔梗との穏やかかつ苦みを含んだ早すぎる別れは、プレイヤーに今作のテーマを暗示させつつこの世界には都合の良い救済は存在しえないことを突き付ける。個人的にはこの桔梗との別れが今作でも3本の指に入る好きなシーンの1つ。他2つはメリーゴーランドと葵のフェラ。
・伊予
真に理性的な判断を促しつつも時には真の感情を尊重した選択肢を与えることもある、師匠or長老ポジであり姉貴ポジでありクソガキマスコットでもある。属性過多だが便利過ぎないのが作品世界にほどよい緊張感を持たせている。
個別√はおまけ程度の長さしかなく、正直不満。恋愛描写にも説得力が無いし、琴莉が納得してしまうことも分からなかった。どのルートにも言えるけど絵が良いからちょっと騙されかけるんだよな……
・葵、芙蓉、アイリス
本作のホームコメディとしての団欒に不可欠な愛すべき家族。日常シーンでの葵のきまぐれ&適当具合は猫娘系キャラの中でもかなり高位にあると思う。芙蓉は能力の無さゆえに他二人よりも落ちるのかなと思っていたけど姉妹との絡みや独自の動きが出来る分色々な顔を見せてくれて楽しかった。アイリスは変態ドMおじさんのせいで初っ端から不憫な印象が強いが、真が自発的に抱くシーンが二回ある等後発ながらフォローもあり。琴莉じゃなくてもここにいたいなって思える雰囲気を作り出せていたと思います。
1つ不満があるとすれば、パッケージデザインにデカデカと鎮座しているもんだから普通にメインヒロインとして扱われているのかと思えばそうでなかったことぐらい。無条件で自分を好いてくれるキャラはそれ以上が無いのでメイン昇格とか無いのが辛いとこなんだな…
・由美、梓
微妙な距離感に説得力を持たせる大学生・元カレ元カノ設定や、個別ルートでの爛れた生活、そもそものビジュアルから由美は本作のスケベ担当と言っていいはず。メガネのon-offできるのはイイね。彼女は登場人物中唯一普通の価値観で動いてくれているため、お役目や鬼に対して第三者的視点から関わることになる(終盤までは)。ただ、真にはもう少し厳しくてもいいんだぞ。
梓は大人のお姉さんとしての魅力にあふれたキャラ。関係ないけど伝統として先生とか警察とかが下戸だったり酒乱だったりってのあるよね。勢いでセックスしてしまいこちらも爛れた関係になりかけるも、大人な線引きをしたりとあんまり他では見かけない展開もある。
由美個別ルートで迎える結末は甘さと苦さを両立した味わい。お役目を全うし死者を常世に送ることも出来ず、かといって現状を維持することも出来ない真に対して伊予がした提案は一見都合の良い救いにも思えるが、あくまでも即物的な解決としての性質が強く、長期的な対応を必要とするもの。しかし由美にとってはそれが真を深く理解するきっかけでもあり、琴莉という大切な家族を手に入れることにもなる。死と生どちらも否定しきれなかったED。
対して梓個別の場合はリンカネーションを限りなく具体的かつ前向きに捉えることで救いを見出すED。鬼が出てきて超常現象すら起こる世界なのに、転生のシステム自体は現世の想像の産物であり単なる願いであるという点自体は一切譲らない非情さと、それでも前を向いて死を受容するために来世を願わずにはいられない人の健気さを描いている。
3番目の攻略でしたが、ここにきてようやく、あぁこの作品死生観については本当に真面目で、どうすれば幸せだと思えるんだろう?と常に問いかけながら作ってるんだな、と思い至りました。
・結末について
どのルートでも言えることですが、これが文句なしのハッピーエンドです!と言えるものは今作にはない。真の"お役目"という立場上曖昧な部分はあるものの『常に死者は成仏すべきだし生者はそれに捉われすぎてはいけない、また逆もしかり』という一定の線引きを求めてくる。どんな結末が幸せなのか、はプレイヤーの判断に任されているんだろう。
〇不満点
やっぱり短い!こいつらのお役目仕事をもっとみていたいと思ったし、琴莉一人にシナリオのウェイトを傾けすぎた結果、共通ルートからの分岐で起こる他メインヒロインのイベントが生き急いだように始まってしまうこともあり全体としての質を落としてしまっている感じが否めない。
本筋と関係ないお役目をもう1エピソード入れたり、琴莉以外のメインヒロインをばっさり削ってしまうのもありかなと思った。
〇エロ
私は、エロゲーやってるくせにストーリーの進行が停まってしまうことが嫌でエロシーンはすぐスキップ&クリアしてからきまぐれにシーン鑑賞したりしなかったりする人ですが、今作のエロシーンはキャラクターごとの個性が光っていて会話にしろシチュにしろプレイにしろ面白みがありなかなか楽しめました。葵の悪ふざけには普通に萎えたけどな!
絵だけ見てもクオリティが高いのは勿論ですが、鬼のCGはエロの中にも少しの恐怖を感じられるよう表情や台詞に拘っている様子で丁寧だなと感じました。
〇システム
・ミュージックプレイヤーがない、バックジャンプがない、チャプター選択が出来ない、ウィンドウ設定がちょっと不便等々不満は多いが、本編がそれほど長くないのでそこまで困ることはない…という皮肉
〇BGM
・エロゲだなーって感じ
ただ、『穏和』や『sentimental』は何度も聞くことになるものの不快感が無く、シーンごとを優しく切なく包み込んでいてくれた
〇ビジュアル
・キャラデザは2014年にしては少ーし古い感じはする
が、CGや立ち絵・背景に至るまでかなり出来が良く、特に塗りがかなりリッチなため満足度は高い
・表情で魅せることを強く意識したCGが多かった。桔梗との別れの場面での真のちょっとした変化や、普段の明るく生き生きとした様子の琴莉と冷酷なまでに死体としてしか描かれていない琴莉の頭部だったり、(上でも触れたけど)鬼とのエロシーンでは明確に人間とは違う反応を見せたり、逆に共同墓地の前に佇む二人のCGはどちらも表情が読めなかったりと、単なるフレーバーではなく、CGにもストーリーや物語世界を読み解く上での重要な意味を持たせていたことに素直に感心しました。
・今作の肝である"恐怖"を感じさせる絵はショックを与えるのに十分な説得力を持っていたし、過不足が無かったように思う。ゴアに寄り過ぎない。これ大事
総得点:88/100
シナリオ:36/40
キャラ:25/30
システム:8/10
BGM:9/10
ビジュアル:10/10