青春としての物語
青春を謳歌する学生の物語。
三人のヒロインはそれぞれに魅力があるのだが、五人の仲間の中で関係が出来ていく見せ方も上手い。
仲間内の排他的な盛り上がりを嫌味にならない程度に出す塩梅もバランス感がいい。
また、共通で全ヒロインが明確に好きになる描写をしていることも個別の唐突感無く良かった点。
少しご都合主義も感じるが、青春モノとしてはキラキラ感と初々しさがありいい出来でした。
ここからは少し個別の話。
結√
共通に入る前に主人公との出会いがあり、その時点から好意を抱き押し掛けてきた転校生。
ただその好意が、青春に向けられたものなのか個人に向けたものなのかわからないというのが共通から個別までの流れ。
憧れというものに純粋で行動力があるヒロインなのでハマる人にはとても可愛らしく魅力あるヒロインでした。
ことね√
生意気後輩という枠は意外と難しくて、嫌われ役になってしまいがち。
置きにいくなら可愛い子犬タイプの女の子にすればいいのだが、今回は敢えて生意気枠でやりきったライターのバランス感覚は良かった。
共通で明確に主人公を好きになるイベントが用意されており、そこからは生意気ながらなついてくる後輩という極めて強い属性にジョブチェンジ。声優の演技も相まって素晴らしいキャラクターに。
かなり好きなキャラクターなのですが、ひと夏で物語が終わってしまうため、オーディションに向けたことね自身の悩みやことねとの格差に悩む主人公という部分はかなりあっさりとしたものになってしまったのは残念な点でした。
ことねが夢を見つけて進むなかで、主人公が悩みながら隣に立つというところまではあまり落とし込めなかったかなと。
ただ、それをぶっ飛ばす位にヒロインが可愛く、主人公を下の名前で君づけするなど男心を擽るのは見事。
かなり好きなヒロインでした。
海希√
恐らくは一番ライターがやりたかったルートかなと。
三人の関係は歪で何処かでヒビが入ってもおかしくなかったもの。もっと言えば、もう壊れていたのだけどその上に新たな関係を覆い被せて維持したとも見受けられる。
主人公は海希に拒絶されたことが傷として残っており、自分への好意に自信を持てない一つの理由になっています。
一方海希は自分が言った言葉より言えなかった言葉に重きを置いていたことも面白い対比になっていたと思う。
千尋はその二人に救われ感謝の気持ちから二人を応援はしているものの今の関係は失いたくないと思っていて、三人ががんじがらめになっていたのが物語が始まるまでの関係性。
そこに結が入り、ことねを引き入れ関係性の維持が難しくなるなかで、もう一度あの夏を取り戻す為に動いた海希とそれを支援した千尋。しかしトラウマから動けず、今度は拒絶に近い言葉を主人公が発するのは構成として素晴らしい。
最終的にやり直しを遂げ、主人公と海希が結ばれると、千尋も今までの関係性にはいられない為、前に進むことを選んだ。
最後のシーンは昔壊れたままの関係を終わらせ、新たに関係の始まりを見せるいい演出でした。
ここからは妄想ではありますが、千尋は主人公と結をくっつける動きをしています。
この時の千尋は、三人の関係が続く事を一番に置いていたのかなと。
海希もこの時はくっつけるような動きをしていますが、このタイミングではまだあの夏のやり直しを意識しきれていないことや結が明確な好意を主人公個人に向けているとは思っていない為のお遊びだった。
この三人の関係は全てあの夏がスイッチになっているのだなと感じた。
声優、音楽、画、シナリオ、演出すべて高いレベルにあります。
ひと夏という区切りがある物語でまだ語りたいことが多いルートもありますが、いい作品でした。