あっぷりけらしさ全開の作品でした
個人的に前作は楽しめなかったあっぷりけ。
今作は桐月さんがシナリオに入る布陣に戻ったことや先行の無料アプリ版をプレイしていたため期待値は高めで入りました。
結論から言えばかなり面白かったです。
「ビジュアルライトノベル」と銘打った作品で、一つ一つのお話はかなり短め。
伝奇要素の見せ方もルートロックをかけた中で見せていく形をとることで、短い期間に起きたお話をダレることなくしっかりと駆け抜けるつくりをしていた。時間はそう長くはかからずすべての結末を観ることが出来るだろう。
各キャラクターに扱いの差があるのは致し方ないところだとは思うが、ルートによっては「後味が悪さ」が目立つ。しかしこれは伝奇ゲームであり、その「後味の悪さ」も作品の魅力となっている。
なかでも「孤独の旋律」というエンドはかなり後味が悪い。
一葉が抱えた思いと役割すべてが悪い方向へ向かうこのエンドは屈指の後味の悪さだ。
伝奇ものとしては最も魅力を感じるエンディングの一つであった。
その他のエンドでは「浄化」というエンドが存在する。
これは誰もがパッケージを手に取った際にメインヒロインであると感じた零のルートである。
無料版プレイ時には、幼馴染かつ彼女の性格などを見ているとコンチェルトノートの莉都を思い起こす人もいるだろう。
私も少し重ねてみてしまった部分はあった。しかし、製品版をプレイしていくと莉都とは違った強さが見て取れた。
ある種この物語の根幹の一つとなるのが「浄化」エンドだと思う。
紅の存在について真相に近づいていく。そして零の思い。
最後に零は強さと弱さを見せる。何物にも代えられない無償の愛について考えさせられるエンドだった。ある種シンセミアのアンチテーゼかもしれない。
零にはエンディングが3つほど用意されているがどれもハッピーエンドとはいいがたい。それでもしっかりと魅力があるキャラに描き切っていた。
最後に解放される紅のルート。
紅は無垢でどこまでも素直な存在でとても不気味だ。
しかし、主人公同様、彼女に触れるうち彼女を理解したいという欲求にかられるようになる。彼女を「悪」と考えられなくなる。
そして決別の道を選ぶ際、一つのルートで最後に現れるのがまたしても零である。この演出は憎い。前に零のルートを通ってきたプレイヤーからすればここの零の気持ちが痛いほどわかる。
解放されなくてはならなかった彼女を開放する方法は彼女の隣にいることではないというのがまたエグイ。彼女は主人公が「解放」するのではなく、自らが葛藤で進んだ道の先に解決策を見出した。零と主人公は最も近くにいて決して交わらない存在であるという事が明示される。この描写が「桐月さんらしい」と唸った点だ。
さて紅ルートなので零から話を戻したい。
グランドエンドである「解放の羽根」へとつながるルートでは、主人公が紅との未来を周りに納得させていく。このルートで主人公は自身の力を返すことで彼自身も解放される。そして土地のしがらみも解放されていく。
犠牲もあった。過去の事件も決して忘れることはない。それでも未来の話をしていく物語のキャラクターに強く感情移入できる作りだった。
ここまで長々書いて、好意的な言葉を並べて何故80点止まりなのか。
理由はやはり短さである。ミドルプライスながらクオリティは確かに高い。シナリオも申し分ない。だが決定的に短いのだ。これは最初に述べた通り、「ビジュアルライトノベル」という側面を考えれば当然だ。今の市場を鑑みて新しい取り組みとして行ったプロジェクトの一環である。こればかりは致し方ない。
しかし、このクオリティを堅持しフルプライスを成し遂げたのがシンセミアである。
価格以上に楽しめたが、より没頭することが出来ればこのすべてのエンディングがより活きてきたと思う。
それができる製作陣だと思うし、この作品の方向性を好いているファンは多いと思う。
だからこそ、またフルプライス作品に挑戦して欲しい。あと20点を埋めるのは物語の厚みだと思う。「ビジュアルライトノベル」に求めるものではないことは重々承知だ。でも、ここにもう一度挑戦して欲しいチームであるとやはり強く思わせてくれた作品だった。
最後に、使いやすいフローチャートや全ルート解放後のタイトル画面とロゴの変化など丁寧な配慮はファンにさせる点だと私は思っています。