シリーズの中の異色作。だが〝初代〟~〝それから〟が描いてきたMemories Offのテーマを踏まえながらも昇華した物語に仕上がっている。
メモリーズオフ〝しない〟こと。この一点を繰り返し強調することによって〝とぎれたフィルム〟は〝初代~それから〟の伝統を乗り越えることに成功したと思います。
過去作Memories Off の伝統(面白さ)とは主役ヒロインをメモリーズオフ〝する〟ことにありました。
初代 桧月彩花
2nd 白河ほたる
想君 黒須カナタ
それから 陵いのり
過去作において主人公は物語開始時から主役ヒロインと密接な関係にあるが(ほとんど恋人関係)、大抵は主役ヒロインをメモリーズオフ〝して〟別ヒロインとくっつく展開となる。したがってプレイヤーは真END以外はドロドロの三角関係をこれでもかと見せられることになる。主人公達が主役ヒロインをメモリーズオフ〝する〟ことで巻き起こる葛藤と別ヒロインとの新たな道への関係がMemories Off シリーズの肝であり、魅力なのです。
では〝とぎれたフィルム〟はどうか。なんとこの作品の主人公のメモリーズ(大切な想い出)とはヒロインはなく映画の完成となっています。もちろんギャルゲーではあるのでシナリオが進むとヒロイン達と恋人になりますが、一貫してシナリオの軸にあるのは映画の製作についてです。物語の結末の多くは妥協しながらも映画を完成させるか、映画製作をメモリーズオフ〝する〟ことで諦めることになります。この時この作品はメモリーズオフ〝する〟=新たな道というこれまでの伝統を否定し、メモリーズオフ〝する〟=挫折するという等式を示しました。浮気という面白さを描いてきたシリーズで、〝とぎれたフィルム〟はグランドエンドまで一貫してメモリーズを持ち続ける(映画製作を諦めない)ことを謳う作品となるのです。だから〝とぎれたフィルム〟はMemories Off のテーマを確かに受け継ぎながら、新たなMerories Off の視点を得ることに成功したのです。