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1unamuさんのサクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-の長文感想

ユーザー
1unamu
ゲーム
サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-
ブランド
得点
95
参照数
497

一言コメント

過去を振りかえるまで、その景色が幸福だったことに気付くことはない。 この作品は「人生」そのものを描いた人間ドラマである。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■点数詳細
ストーリー ★★★★★
演出   ★★★★★
BGM   ★★★★★
ボイス   ★★★★☆
グラフィック ★★★★☆
システム  ★☆☆☆☆

ストーリーについては物語性に関しては未完だと感じた方も多いかと思いますが、「幸福の先への物語」「梯子の上にある風景」「ありふれた景色」をテーマとして描いているならばⅥの終わり方が私個人的には最良であったと思います。構成についても完璧であり、周回すればするほど作品の事細かな作り込みに感心させられるはずです。特に序章から二章の時点で六章で語る直哉の芸術論や認識論を語っている事に周回によって気づいた時には驚きを隠せませんでした。どんな頭だったらこんな構成するんだと……。(褒め言葉)

また演出についてはⅢで感動させられたのですが、その際の櫻七相図の差分や、櫻達の足跡の(協会から見た)全体像が欲しかった所も事実なのでグラフィックは下げさせてもらいました。ボイスについてはもう少し男キャラ(特に章一)の声を増やしても良かったのではと思っています。
システムについては正直セーブデータ数やセーブ・ロードの移動の悪さ。スキップの不便さなどで下げさせてもらっています。というかシステムさえ良ければ100点あっても良かったと思っています。
以下作品の感想となっています。

■感想
私がこの作品を終えてまず最初に感じたことは、この作品はアダルトゲームとして発売されているが、アダルトゲームである必要は無いと感じた事だ。
最終的に草薙直哉は一度もSEXをすることもなく童貞のままでエンディングを迎える上、物語もあれ以上先の物語を描くとテーマが変わってしまう為、テーマ性を重視するならばあの終わり方こそ正しいからだ。

しかし、アダルトゲームである必要は無いと感じたが、18歳以上が購入できる環境であったからこそ、このゲームの評価は高くなったと私は推測している。
なぜならば18歳以上の多くの者が草薙直哉という人物の人生に共感を得るからだ。

18歳以上の多くの者。つまりは学生から社会人へとなった者達の多くは、自身が地元から離れ、または自分が地元に残り、多くの友人達が地元から離れた経験を必ずしている。
そんな経験をして過去を振り返ってから、初めて当時の修学旅行や、親友と一緒に遊んだ時間の風景が、幸福だったことに気付くのだ。

そういう誰もが経験する"ありふれた物語"として草薙直哉の人生をこの作品と通して再度経験することで、自らの人生と共感するのが、この「幸福の先への物語」というテーマを描いた『サクラノ詩 -櫻の森の上で舞う- 』という作品が伝えたかった一つなのではないか。そういう風に私は感じ取れました。だからこそ今の生活がきらきらしている学生からは、この作品は後味が悪いと感じやすいのではないかと思います。
ただ私は、この作品を通して人間が生きているという事がどういったことなのか。幸福とは、作品とは、色んな事の認識を改めるキッカケとなりました。人生観を変えた作品を一つ述べよと問われたら、私はこの作品を推します。それだけ本当に素晴らしい作品でした。