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151eさんのこの世の果てで恋を唄う少女YU-NOの長文感想

ユーザー
151e
ゲーム
この世の果てで恋を唄う少女YU-NO
ブランド
elf
得点
100
参照数
5679

一言コメント

正直、これほどまでとは思いませんでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

こんなにも早く、再び満点をつけることになるとは思ってもいませんでした。
本作は本当に素晴らしかったです。
特に素晴らしかったのは、A.D.M.Sシステムとリフレクターデバイスだと思います。
これらは、AVGという媒体を上手く利用していると感じました。
一般的なエロゲは、選択肢によって分岐され、各ルートへ向かう作りになっています。
それは、ユーザーから見れば、同じ時間軸に、(仮に選択肢A、Bがあったとすると)Aという選択肢を選んだ場合とBを選んだ場合とで、違った世界が存在するということです。
本作では、その本来のユーザー視点をマップ化したものが、A.D.M.Sシステムと呼ばれています。
つまり、本作においてのキーワードとなる、"並列世界"を視覚化したマップということです。
序盤では、このマップは未完成で、主人公のたくやが進んだルートを自動的に記録してくれます。
しかも、このマップは、たくやもリフレクターデバイスという装置を通して、見ることが出来るという設定になっています。
ここからは、今川教授の言葉を借りて、リフレクターデバイスをRデバイスと表記します。
Rデバイスとは、本作のキーアイテムで、八つの宝玉をはめる穴と、分岐点にさしかかると光る宝石がついている装置です。
この宝玉には、触るとその時間に留まることが出来る、という性質があります。
宝玉に触れたあとに、Rデバイスから宝玉は一旦離れ、その時間に留まります。
宝玉が留まっている地点を、A.D.M.Sのマップで確認でき、マップを開ける状態ならば、いつでもその留まっている地点まで戻ることが出来るのです。
一度戻ると、また宝玉はRデバイスに自動で収められます。
一般のゲームのセーブロードに近いですが、この宝玉のすごい所は、持ち物と体に起きた変化を引き継ぎで戻ることが出来ることにあると思います。
しかし、時間を移動する副作用みたいなもので、記憶だけは引き継ぐことが出来ません。
正確には、記憶がなかったことになるのではなく、一時的に靄をかける感覚が近いと思います。
それ故に、なにかのきっかけで記憶が戻ってくることもあります。
実際に、会社から超念石を盗み出すルートでたくやは、自分の頭のたんこぶで移動する前の出来事を微かにですが、思い出します。
このRデバイスを使うことによって、時間移動が可能になるのです。
本作は、これらの機能を最大限に生かす作りになっていました。
人と話すときも相手の口元にマウスカーソルを合わせてクリックを押さないといけなく、しかも長い会話の時には相手の息継ぎのタイミングだと思うのですが、そこでいちいち喋りが途切れてしまいます。
その度に、また相手の口元をクリックするのはとても面倒くさく感じました。
ですが、この作りがRデバイスを生かすことに繋がっていたのです。
これのおかげで、会話中にアイテムを使うことが出来るのですから。
本作は、ルート分岐が、選択肢よりもたくやの行動で決まることが多いのですが、これによって会話中にアイテムを使ったか、使わなかったか、で分岐させることを可能にします。
しかも、そのアイテムを手に入れていないと、会話中にアイテムを使う方のルートには行けません。
なので、そのアイテムの入手場所を少し先の未来に設定することで、普通のセーブロードでは不可能なゲーム展開を実現させることに成功しています。
これらのシステムが生み出すゲーム性は、最近のゲームに慣れていても面白いと感じると思います。
では、本作がゲーム性だけかというと、そうではありません。
シナリオはもちろんのこと、BGMも良い味を出しているのです。
本作のBGMはその場面の雰囲気を上手く演出していたと思います。
このBGMとシステムがシナリオをより引き立てます。
シナリオにおいても、システム等に引き立てられていたから良かった、というわけではなく、それ自体がとても良く出来ていました。
各キャラに割り振られた使命があり、それらの延長線上で交錯することにより生じる事象がある。
全員が何かしら動いているように見えるのです。
個別ルートに入ると、他のキャラは邪魔をしないように舞台から降りる、なんてことはなく、個別ルートの裏で、自分たちの使命を遂行するために行動している。
そのキャラたちが、個別ルートを攻略する上でのヒントをくれるときもあれば、その個別ルートにとっては何も関係ない行動をとっているときもあります。
しかし、その何も関係ないと思っていた行動が実は、次にそのキャラの個別ルートを攻略しようとするときのヒントになっていたりするのです。
そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれませんが、その当たり前をシナリオに取り込んだ作品がいったいいくつあったでしょうか。
数えるくらいしかないと思います。
少なくとも、私がプレイしたゲームの中では指を折るくらいしか思い出せません。
このように、全員が動いているようになっていることで、時間移動やループを題材とした内容が生きてきます。
時間を扱っているだけあって、時間の流れさせ方が上手いと感じました。
その流れの中で爽快に展開される物語がユーザーを飽きさせません。
謎や問題にぶち当たって、過去の出来事や、未来の出来事で得たヒントを元に謎解きをし、謎が解けると、次にやるべきことが明確になることは、数学の連鎖問題のようにも思えます。
その問題も、決して難しすぎるなんてことはなく、ちゃんとテキストを読んでいるなら、少し考えればすぐにわかるようになっています。
たくやと一緒に謎解きをしている内に、たくやの性格を徐々に理解していくので、感情移入もしやすくなります。
上記した、”アイテムがないと、進めないルート”があることで、悲しいバッドエンドを一度見ていないと、正規のルートに進めないなんてこともあります。
たくやに感情移入出来ている状態であれば、そのショックは相当なものです。
しかも、アイテムを手に入れ、再びそこを訪れて、正規のルートを進み、やっとのことでハッピーエンドを迎えようとしたところで、”カオスの矯正”が発動……。
オールクリアしないと、ハッピーエンドは見られません。
このため、躍起になってオールクリアまで突っ走ろうと思うようになります。
しかし、この段階ではそう思っていても、次の個別ルートで違った謎と出会い、ターゲットのキャラを追いかけているうちに、そのキャラに惹かれてしまう始末。
著者の思惑通りになっている自分がいます。
そして、様々な謎解き、出会い、恋をして、ようやく、たくやの使命である、宝玉を全て見つけ出すことを完遂すると、父親の有馬広大の誘導で、異世界へと飛ばされます。
その異世界で、たくやは世界の全てを知ることになるのです。
今までの謎が全て種明かしされ、もやもやしていたものが一気に集束するのは気持ちがいいものです。
ただ、製作期間の都合などがあったのでしょうか、異世界編では少し駆け足になっているようにも感じました。
異世界で出会ったセーレスとの日常が端折られているので、急展開すぎて一瞬ついていけなくなりました。
オールクリア後に出現するSPディスクで補足されていますが、その内容を本編に組み込んでくれていれば、たくやの妻であるセーレスが死んでしまうときにもう少し悲しむことが出来たと思います。
異世界では、たくさんのお世話になった人たちがたくやの目の前で死んでいきます。
クンクンが死んだときはさすがにきつかったですね。
現世で神奈が死ぬときくらい悲しくなりました。
ただ、最重要人物かつ最愛の娘である、ユーノが生き残ってくれたのは嬉しいですね。
たくやをとても好いてくれるユーノが死んでしまっていたら、私が受ける衝撃は計り知れません。
赤子のときからの成長を、たくやと一緒に見ているのです。
可愛くないわけがありません。
死ななくて本当に良かった。
この異世界編を終わらせると、残った各キャラの真のエンディングを見て終わりになるのですが、正直見なくても問題ないかなと思います。
本当におまけみたいなものなので。
でも、真のエンディングはどうなるんだろう、と気になるのは確かですので、すっきりするためには見るしかないですね。
とても短いですが、「ああ、良かったね。お幸せに」という風な気持ちになります。
本作を全て終わらせたときに感じるのは、達成感と壮大なストーリーの凄さでしょう。
感服いたしました。
おそらく、もしも二週目をプレイしたならば、物語の全貌が見えているので、より話を吸収でき、もっともっと楽しめるだろうと思われます。
古いからと敬遠してきた本作ですが、やり終えた今では言えます。
このゲームは本物だと。
たしかに、絵もCGも古いですが、斬新なシステムに壮大なストーリー、魅力的なキャラクターがそんなことを忘れさせてくれるはずです。
是非オススメしたい作品ですね、これは。
今思うと、本作は二種類の近親相姦がありました。
一つは、たくやが知っててやるパターン。
もう一つは、たくやが知らずにやるパターン。
前者はユーノとのエッチで、後者は神奈とのエッチです。
ユーノのときは、最初から実の娘だとわかっている状態なので、確信犯です。
神奈のときは、全部クリアしないとわからないようになっています。
そもそも、それも本当に実の娘なのかもハッキリとはしません。
ですが、神奈=娘、と匂わせているので、高確率で実の娘だろうと想像出来ます。
他にも、義母とのエッチはあるし、同級生とのエッチもある。
売れっ子ニュースキャスターとのエッチ、教師とのエッチまであります。
著者がエロゲを通して伝えたかったのは、「愛に境界線はありません」ということだったのでしょうね。
しかしながら、近親相姦を良く思わない人も当然いるわけです。
ユーノの場合は、成長の過程をみてしまっているので、自分の子供とエッチすることにさすがの私ですら、うーん、と少し考えてしまったほどです。
受け付けない人はたくさんいたと、容易に想像出来ます。
ある意味、著者にとっても挑戦だったのでしょう。
それも含めて、本作はいろいろ考えさせてくれるゲームでした。
最後の最後に、答えのない謎かけをしてきますね。
ユーノとたくやが事象の根源に飛ばされたときに、何もないはずのその場所に一本の木を発見し、その木にユーノが名前をつけると言い出します。
「もうつける名前は決まってあるの。なんてつけるかわかる?」
この答えは、結局最後まで明かされずに終わります。
ユーザー自身で想像してください、ということですね。
私なりに、いろいろ考えた結果、答えはあれかな、と思いました。
最初は、たくやとユーノと一本の木という構図を見て、アダムとイヴが連想されたので、それの木の名前なのかなあ、とか思いました。
ですが、ユーノの「もうつける名前は決まってあるの。なんてつけるかわかる?」のあとにたくやが言った「わかっているよ」という言葉でアダムとイヴ説はあえなく撃沈しました。
たくやもユーノも知っている名前――それはいったい何か。
ユーノの家族を愛する想いの強さは本編で語られています。
ユーノはたくやのことが大好きです。
母親にも負けないくらいの愛がありました。
そのことを母親に打ち明けて、私たちはライバルだと認め合うことも出来た。
ユーノはいつまでも家族団欒で過ごしたいと思ったのではないでしょうか。
この名前なら、たくやが知らないわけもないですしね。
それが私の答えです。
では最後に、”この世の果てで恋を唄う少女YU-NO”と出会えたことに感謝して、終わりにしたいと思います。
この作品に出会えて良かったです、elfと菅野ひろゆきさん本当にありがとうございました。





追記

このゲームを今の技術でリメイクしたらいったいどうなるのか、声もついて、絵も綺麗になって……期待せずにはいられません。
そのときは是非、「W」の打ち損ねがあった箇所の修正をお願いします。
味わわせると打とうとしたのだと思いますが、一箇所「W」を打ち損ねたことで味あわせるになってしまっていて、少し気になってしまいました。