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0500hhhさんのラブピカルポッピー!の長文感想

ユーザー
0500hhh
ゲーム
ラブピカルポッピー!
ブランド
SMEE
得点
95
参照数
480

一言コメント

退屈はしなかった。全体的にマイナス点の少ない作品っていう感じ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今作の魅力としては掛け合いの多様さかな。モブ寮生だけでアルファベット順にA~Kぐらいまでいるし、女子寮とそこに併設してあるカフェがメインの舞台ということもあって大人数が生活の場を共有してワチャワチャ賑やかにするのはすぐ作品の世界観に愛着を抱けるつくりになっていると思う。
演出面もいい仕事していて、画面端からフキダシを出す周囲の反応表現は過去作でも何度かあった演出ではあるものの、寮生達がよく絡んでくる今作にこそ一番ピッタリ合ってた。たまにヒロインがそこに加わるのも面白い使い方だったしね。よく見る演出だけじゃなくカットインやスマホ風の縦画面、応援対決での文字表現のように手を変え品を変え見新しい演出をバンバン出してくれるので見てて飽きないし、プレイヤーの操作が都度必要なフキダシクリックやクリックHは強制じゃないのも楽(フキダシクリックはOFF/ON/自動表示みたいな細かい段階の切り替えがあれば理想形だったが……)


シナリオ面は自宅が燃えてそこから女子寮の住み込み寮母になるっていう突飛な導入とは裏腹に進行は意外に着実というか、作中のイベントを追ってみると定期試験パート→試験の鬱憤晴らしを兼ねてのスポーツ大会→大会の主題だったフェスの出店場所の視察→フェス本番……と各エピソードごとに前の話を踏まえて次はこれをしますという感じに順序立てられているので結構見やすい。涼花のクレープ作り、チェッキーダンス、キリンのぬいぐるみといった一度使った描写を後々に再び持ってくることが多いのもあって作品としての連続性はピカイチ。希未がルートで急に英語得意な設定出してきたなと思ったら試験の件でそれっぽいことは言ってたり細かいところで整合性を取ることに余念がないよね。全体的にまとまった構成だったんじゃないかなと。
プールデートから個別ルートに分岐していく流れも本作と同じディレクターの放シン2だと個別ルートの1シチュエーションとしてノルマ的に消化されるイベントだったんだけど今回はデート中の出来事を元に話が恋愛方向にシフトしていくので告白に至るまでの過程として効果的にシナリオに盛り込めていた。どういう流れで告白したか?がはっきりしているのは好印象です。

まあ気になる点もないというわけではなく寮母に関しての描写は微妙。朝食か夕食作るかであとは大体カフェ業務にフォーカスが当たってたような。生徒は当然のこと日中には授業があるため昼間の交流を描こうと思ったらその時間に主人公が居るハニベアの描写を多くするのが手っ取り早いんだけれども、試験勉強パートで弁当作りやら買い出しでサポートしてたのがピークでその後ガチスポやらフェスでチームハニベアとしての話が中心になっていったのはちょっと物足りない。ソフマップ特典ボイスドラマでトイレ修理や電球交換してるのが語られたけど寮母である説得力を出すためにもああいう風に色々な雑務を寮生達が自主的にやってた星九頭さん寮母時代との比較を入れつつこなすとか、寮内だけでなにかイベント事やるとかみたいなエピソードが欲しかったところ。交流自体は十分描けてただけにそこはもったいない。
あとハニベア服のHが寮長だけしかないのは明確な不満点かな。個別のアイキャッチに選出されてて共通ではエピソードの大半着用していることもあり結構プッシュされてる衣装だと思ってHシーンは当然あるものと期待していただけにここは肩透かし。従業員の綾子さんですらないからFDのネタに取っておいてるにしても本編でももうちょっと入れておくべきでしょう。


メインヒロインで特に良かったのは涼花と衣川。涼花は共通の時点から苦手意識を抱いていた寮生活への意識の変化という成長軸が用意されてて今作随一で扱いの良いキャラだった。共通ラストに自分のことは自分で決めていいと背中を押すのも星九頭寮の和気藹々とした雰囲気を散々描写してきたからこそそこに居場所を見出す説得力があるし、個別ルートで退寮しても度々寮生達と関わる場面が多いので全体を通して寮という舞台の恩恵を最も受けたキャラだと思う。最初は遠慮がちだったのが交際後は吹っ切れて自分の我を通すようになっていくのも微笑ましく、たんぽぽ以外自己評価低めのヒロイン達を肯定していく今作の真っ直ぐに明るい作風は結構好き。こちらも前向きになれる感じがあって。
衣川は典型的なワガママガール的な言動だけかと思いきやインフルエンサーとしての矜持を感じられる毅然とした立ち振る舞いも見られて結構格好良く、プロとしての一面と背伸びして大人になろうとする子供としての面を名前呼びするまでの過程っていう恋愛モノの醍醐味に上手く絡ませていたというか、交際は大々的に広めてアピールしつつ衣川美卯の仮面を被っていない素の夢佳を共有できるのは主人公だけというのがまさに良いとこ取りな関係性だなあと。良いとこ取りっていうのは寮モノやカフェモノに傾倒しすぎないコンセプトにも通じる訳で今作らしい距離感よね。涼花ルートでの結婚式は二人っきりなのに披露宴を寮内全員でやるみたいなイチャラブとわちゃわちゃを使い分けた感じもそれっぽい。

あとサブ二人、たんぽぽはサブキャラということでキャラ立てが公式ページの設定だけで完結している感ある分「どストレートな好意」というアピールポイントにおいてはちゃんと期待通りでした。
普段思ってる事そのまま素直に言うタイプのキャラが言葉に詰まる程に照れているのはめちゃくちゃ可愛い。フキダシクリックの一番好きな場面を挙げるならこのルート。
綾子さんは社会人キャラなのでエピローグで直前の会話で言ってた結婚を見たかったのはあるけどメイン2人と被るし、ネガ思考が少しずつ改善させていく心理的変化の結実としてはあれが妥当かな。今までのヘラりっぷりから見るとラストで見せた前向きな姿には感慨深いものがある。あと欲を言えばもっとカフェ制服の立ち絵が見たかった……


最初にタイトルとキービジュアルを見たときはひたすらギャグ一辺倒になるのかと思ってまあ実際面白かったんだけれども、面白いよりは楽しいとか居心地が良いって表現の方が適切かなと。男性なのに寮母になったりサブヒロイン二人がポジとネガの両極端なキャラ付けだったり……そういった相反するものでも自然と受け入れてくれる懐の深さがこの作品の一番の良さだと思う。好きな作品です。