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(光)エロゲの罪さんのヒマワリと恋の記憶の長文感想

ユーザー
(光)エロゲの罪
ゲーム
ヒマワリと恋の記憶
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得点
90
参照数
1488

一言コメント

青春というものに関して深く考えさせられる作品だったように思います。 学生時代の青春...恋愛のひとつの形をリアルに描けていて青春したくなりました。 タイトルもクリアしてわかる素晴らしさで、やってよかったと思える作品です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

思わず「青春したい...。」そう思ってしまうほどの青春...恋愛のひとつの形というものを綺麗に描けていたように思う。
青春とはほとんどの人が経験することになるだろう。
人それぞれ彩や輝きが違うだけで青春とは誰しもが経験しうる日々。
この作品ではそんな青春というものから恋愛に至るまで様々な事がリアルに描写されていた。
例えば登場人物の髪の色や話題などもそうで、黒や茶色の髪が多くまた話題なども映画や音楽の話などが多く、
世界観や雰囲気は何か特別なとこがあるわけでもない感じだったにも関わらず惹きこまれている自分がいた。
こういう学園生活もあるんだろうなという風に思ってしまうような作品。






●カナルート


幼馴染3人の過去のしがらみからの解放がメインってことでよかったのかな。
事故でなくなった沙紀というもう1人の幼馴染のことをみんなそれぞれが引っ張っていて、
いまなお切り離せないでいる...けどいつまでもこんな形ではいけない。


沙紀の好意が主人公に向いていたと思わせられるような発言を隼人はしているわけだが、
これは本当に主人公に好意が向いていたのかは今となってはわからないし、そういう描写もなかったように思う。

沙紀は隼人の告白を一度断るが、その後の約束「必ず優勝してみせる・・・・優勝したら付き合ってくれ」
だが、この約束には「優より多く点を取って」という前置きがある。
これは沙紀の好意の向きが主人公である可能性を大きく表している。
しかし、沙紀は主人公に対して試合の前の日にこうお願いしているのである。

「なるべく多く、隼人にゴールを決めて欲しいのっ」

「あなたより多く決めて欲しいの」

これは沙紀の好意が隼人に向いていたもしくは向きつつあったのではないかと思う。
初めはそんな直ぐに心境の変化があるものなのかとも思ったが、
主人公や茜が亜依や隼人への好意が恋愛の好きではなく憧れだったように、
沙紀もまた同じような気持ちに気づいたのではないか...そう思った。
気が付いたら愛し合っていた主人公と茜のように、
なんとなく一緒にいて楽しい、なんだかんだで自分のことをよく見てくれている…。
そうやって自分自身の本当の気持ちにいっしょにいたいとそう思える人物に気が付いたのではないだろうかと思ってしまう。


だが、一度断ったからには自分からその気持ちを伝えられなれなかったのではないか...。
他にも、当時から主人公のことが好きだったであろうカナの存在なども影響しているのかもしれない。
だからこそ、カナもまた沙紀の気持ちに気づき今まで告白できないでいたのではないか。



最後のPKもカナが居なかったら主人公はやらなかった可能性が高い...。
自分が隼人を過去のしがらみから解放してあげられるのだと勝負を受ける決意を見せたのはよかったとは思う。
だけど、自分からやろうという気になって欲しかったかなと。
悩んでるところにヒロインの声でその気になるのならまだいいけど、一度は逃げの姿勢を見せたのがいけなかった。






●汐里ルート


初めの印象としては不思議な雰囲気を持った娘だなぁといった感じでした。
話としても基本的にイチャイチャラブラブな恋人生活が描かれていたように思う。
このルートでいろんな謎が浮かび上がってくるのだが、
最後には悲しい別れを強いられることになるルート。

しかも、主人公はそのことをすっかり忘れもとの学園生活へと戻ってしまう。
汐里もまた学校に通っていた夢を見ていたと言ってはいるがどこまで覚えているのか定かではない。

ルートの最後では主人公と同姓同名のキャラが出てくるわけだが、これは優という人物としては同じなのかもしれないが、
一緒に学園生活を恋人として生活した主人公とは違う存在なのだと思う。

主人公の性格も他のルートに比べると明るさが上がっているようにも感じられたことからも、
もしかしたら汐里にとっての現実の世界では沙紀も死なず、
主人公もサッカーをやめないでいたのではないかそう思ってしまうのだ。

では、なぜそのやめないでいた主人公が医者になっていたのかというのは、
結果的に事故は起きたが沙紀は死なず、だがその影響で医者を志すようになった。
サッカーも他のルートで言っていた様にみんなでやるのが楽しいのであって、
真面目に練習してプロになるつもりはないといったようなことを言っていたのでどちらにせよ本格的にやるつもりはなかったのではないだろうか。

夢で恋人となっていた主人公はそれを忘れ、汐里は現実で同じようで違う主人公とまた新たに物語を紡ぎ始める...。
そんな風に捉えてしまったからかどこかモヤモヤとした気分が残るルートだった。





●亜依ルート


パッケージにも描かれているようにメインとなってくるのはこの亜依のルートなのだろうとプレイする前は思っていた。
ゲームを始めてすぐに始まるのは主人公が亜依に告白するシーンだったというのもある。
だが、プレイして結構直ぐに気づくことになると思うのだが、これは本当のメインとなるのは茜なのである。


お互いの恋愛を応援するために結んだ同盟からの本当の気持ち。
このルートでは主人公は亜依への気持ちが憧れではなく心からの好きだという気持ちだと言っている。
だが、茜は自分の本当の気持ちに気づき涙を流すことになる。
それを見てしまった亜依は大切なものを奪うことなんて出来ないと一度は主人公を振ってしまう。
2人のぎこちない関係に気づいた茜が自分の気持ちを正面から亜依にぶつけ、亜依もその気持ちを受け止めることにより、
自分もまた本当の気持ちに向き合おうと決意し、2人はようやく本当の意味で結ばれた。


このルートは確かに亜依ルートなのだが、茜の失恋描写が綺麗に描かれていたためどうしても茜に目がいってしまいがちだった。
茜が結ばれた二人を見てなくシーンもそうなのだが、その後のボイスレコーダーに残された二人のやり取りを聞いて心を痛めたり、
けじめをつけるためにもと告白し、主人公の気持ちを確かめた後送り出すシーンはとても感動できた。

「私ーーー!あんたの事ーー!好きだからっ!!!」

目に涙を浮かべ、それでも笑顔で主人公のことを送り出してくれたその姿にとても惹かれた。
これは大切な恋の記憶なんだ...と。
しっかりと受け止めて、また明日から頑張らないと。
そうやって自分を鼓舞する姿はとても輝いて見え、青春そのもののようにも感じた。






●茜ルート


確かにシナリオに起伏は見られなかった。
だが、それでも主人公と茜のやりとりというものは見ていて楽しいものがあった。
お互いの恋愛を応援するために結んだ同盟...それから始まる2人の関係。
階段下で交わされる作戦会議やそれを実行しようとする姿は正に青春そのものではないかと思う。

時間が経つにつれ、いつしか2人は互いのことを意識し合っていた。
なんとなく一緒にいて楽しい、なんだかんだで自分のことをよく見てくれている…。
憧れなどではない、本当の恋愛というものを2人はしていくことになる。
好きになるという事は案外なんともない理由だったりするのである。
一目惚れでもいい、なんとなく気になっていた相手への気持ちがいつしか恋心へと変化していた。
それもまた確固たる理由のひとつなのだ。
いや、理由なんてほんとは大したことないのかもしれない...。
好きになり、その後相手のことをいかに好きでいられるか、大切に出来るかそれが大切なのかもしれない。

この作品は現実でありそうだなと思うような何気ない日常を描けているのだが、
その日常を過ごす主人公や茜達をみていてとても楽しいのである。
お弁当のことで悩んだり、嫉妬したり、女子力アピールをするために雑誌に書かれた事を実践して空回りしたりと。
とにかく、どこからどこまでもがありふれた現実を描けていた。
その中を楽しそうに青春する姿は見ていて惹きこまれた。


不器用ながらも2人でひとつの恋愛の形を作り上げていく姿は素晴らしかった。
未来を夢見て、未来に希望を託し、互いに一緒にいようと誓い合う。
それはひとつの夢...。
極々ありふれた事かもしれないが、茜と結婚して、家族のために働く。
そんな2人の夢...。
それを叶える為に頑張ろうと決意し、夢見る未来への一歩を踏み出す為に文化祭のステージに立つ。


そうやってこのルートは終わる。





●True Story


他の作品だとそれぞれの個別が終わって、エピローグでその夢見た輝かしい未来が描かれ終わる...
といったことが多いかもしれない。
だが、この作品は謎の答え合わせと伏線の回収も兼ねた話を描いている。

坂本が自らを天使だという理由、亜依が弾くピアノの曲、なぜ誰も曲名を知らないというのかこれらも全てわかることになる。
天使だと言っているのには何か裏があるのだと思っていたが、本当にそうだったときは少しショックもあった。
そして、亜依が主人公の為に知らないと言い続ける曲をひたすらに弾いている姿の本当の理由を知ったときには、
辛いものがあった。
自らの意思で来たわけではなく、坂本に呼ばれこの世界に来た亜依。
再び、青春時代をかつての友人たちと過ごしながら、主人公と茜をくっつけようとする。
どうして自分が?そう思っても不思議じゃないと思うのに、それでも2人の仲を取り持とうとしていたのだと知ったときは感動してしまった。


最後までやって確信できることだが、亜依の存在がなくては茜との物語は紡がれることはなかったと思う。
メインヒロインでありながらも、作品全体としては引き立て役というモブキャラのような立ち位置に描かれてる亜依。
現実の世界ではお見合いを断り、そして茜とちゃんと話をして仲直りをする。そう決意してこの世界から消えていく...。

「主人公より良い人はいないかもしれない」

そういう亜依に坂本は

「それもひとつの愛の形じゃないのか」

と問う。

お見合いを断り、茜と仲直りしても亜依はもしかしたら恋愛をしないかもしれないし、するかもしれない。
そこはわからないが、心残りがなくなり、愛に迷いがなくなった亜依の進む道は照らされていて欲しい...。
そう願う。


記憶を取り戻したときの回想もまたリアルに描かれており、
ここでは自然と涙が出ていた。
普通の絵とは違い、色の薄い淡い雰囲気の絵にすることで記憶の回想であることを表せていたように思う。
夢の為に受験勉強をする、暑い中手を繋いで歩く、冬休み・お正月にする旅行計画、卒業式、
始まった2人の新生活、そして描かれるのは幸せそうな未来の2人の姿...。
主人公と茜が歩んだ軌跡...そのどれもが恋人として現実にありがちなやりとりばかりで、
そのどれもが青春であり、2人がいかに幸せだったかが伝わってきた。
ホントに何気ないことばかり、だが心惹かれるものがそこにはあった。

簡単な言葉で言えば...『綺麗』である。

何気ない日常のはずなのに輝いて見えた。
こういった形での回想が来るとは思ってなかったので驚いたが、同時に感動を貰うことができた。
この回想の仕方は好きだし、とても上手いと思った。



記憶を取り戻し現実へと戻った主人公はクリスマスに休みを取り、正月まで地元で過ごそうと思い立ち、
帰省しようとする。その帰りの新幹線を待つ間に偶然にも茜と再会する。
久しぶりの会話はぎこちなく、それでも主人公が謝り、好きだと気持ちを伝え、
また新たに2人の物語が描かれていくのだとそう思ったときには涙が出ていた。

そして、天使に会ったという主人公にまたいつものように適当な相槌をする茜の姿、
それを信じようとしない茜を追いかける主人公...。
夢の中であった2人の姿がそこにはあり、安心感と共に心に暖かいものが溢れていた。


きっとまた、ここから新たな青春が始まる。


主人公もそう思っているように2人の青春はここからまた新たなスタートを切るのだ。
これから先、いくつもの壁にぶつかることがあるだろう。
だがそのたびに2人は互いに支えあいその壁を乗り越えていくに違いない。
もう、迷うことはないはずだ。



『また、君に恋をする。』

茜ルート・True Storyはこの言葉がすごく心に響いた。
この言葉はどのルートでも意味を成していたように思うが、
言葉の真意を考えるとやはりTrue Storyが一番しっくりくる。


タイトルの『ヒマワリと恋の記憶』。
これにもきちんと意味はあり、そこもまた好感触だった。
ヒマワリは、いつまでもあなただけを見つめてるという花言葉のように主人公と茜の2人が互いのことを
いつまでも見つめている...そういったことを表していると思うし、
2人に限らず他のヒロインにもこの花言葉は当てはまるように思う。

特に亜依はお見合いを断り、主人公より良い人はいないかもしれないと言っている事からも、
この先、恋をすることはない可能性がないわけでもない取れると思うのだ。
ただ、それでも恋は叶わずとも主人公のことを見つめているのではないだろうか。
未練がましい...そういわれてしまえばそうかもしれない。
だが、見つめる形が恋愛だけとは限らない…そう思ってしまう。

恋の記憶
これは全てのヒロインとの恋愛を表しているのだと思う。
違う選択をしていたらのもしもの世界かもしれない...。
だが、それでもそれは大切な恋の記憶なのだではないか。
それでも特に主人公と茜2人のことを表しているとは感じる。
この不思議な世界での記憶...2人が歩んできた恋の記憶...。
初恋からの恋愛、別れ、そして再会。
その全てがここに集結してるように感じる。




●BGM・CG

ピアノを使った曲が多く、そのどれもがシーンそれぞれの雰囲気にあっていて場を盛り上げ、
また同時に惹き込む力を持っていたように思う。
ED曲の『First Love』は作品の内容にあっていたように思う。
またこの曲が別れの曲だということはTrue Storyで知ったのだが、別れの曲だと知った上でEDを見るとまた涙が出てくる。


CGについても特に不満はなく。
どのCGもとても綺麗でした。
上記のように回想シーンの絵などは特に上手く描かれていて、
CGを見ているだけでもくるものがある。




●システム

こちらについてはシーンジャンプがあれば便利だったかなという点と、
もう少しセーフするストックが欲しかったなという点を除いて不満な点はないです。




●まとめ


モヤモヤが残ったり、説明不足と取られても仕方ないかもと思う場面はちらほらありましたが、
それをカバーするほどの魅力が詰まった作品だったように思います。
茜を気に入り、リアルで何気ない青春の日常を描いてはいるが、
どこか純粋じゃない部分があることに問題がないという方はプレイしてみるのもいいと思います。

全てのヒロインに平等にハッピーエンドを!!
という方には向いてない作品ではないかと思います。

最後に、こうして『ヒマワリと恋の記憶』をプレイでき、青春のひとつの在りかたを知ることが出来たのはよかったです。
青春は学生時代だけで終わりではない。そして、自分もこんな青春を送ってみたいそう思わせてくれる作品でした。