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音椰さんの家族計画 ~絆箱~(家族計画 ~追憶~)の長文感想

ユーザー
音椰
ゲーム
家族計画 ~絆箱~(家族計画 ~追憶~)
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
92
参照数
821

一言コメント

家族の始まりは夫婦。そこから家族は広がっていく。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ50/50点、キャラクター10/10点
音楽18/20点、グラフィック 14/20点
合計92点


悲しい涙ではなく、嬉しい涙、温かい涙を流すことのできる、泣きゲーの中でも名作と名高い作品。
共通シナリオの量が非常に多く、個別ルートに入ってからも長い。このボリュームでボイス付きというのだから驚異的。
家族という大衆的な主題を扱っているものの、設定や展開には『いかにも18禁ゲームらしい』ものも多かった。
が、ライターさんの書き方やキャラクターの魅力もあって、それも気にならない程度に抑えられているし、物語の魅力とインパクトは十分でした。
シリアス過ぎないようにホームコメディ色を強くしているのも、楽しく読み進めることができて良かったと思います。

登場人物は非常にアクが強く、個性の塊のようなキャラクターばかり。
活き活きとしている登場人物を見ていると、ライターさんが丁寧にキャラクターを描いているのが伝わってきました。
そして、ヒロインもそうですが、何よりもサブキャラクターの男性勢は本当に個性的。彼らの存在も、このゲームでは大きいでしょう。
基本的に主人公だけがツッコミで後は全員がボケなので、ギャグの合う、合わないはあると思います。

音楽は場面にもあっていたし、単体で聴きたくなるようなほどの曲も多かったです。
特に、OP曲とED曲は共にゲームの内容にあっていて本当に素晴らしかった。


『家族』というテーマを扱った作品は18禁ゲームというジャンルにも少なくはありません。
そこには親子、兄弟、姉妹、夫婦など様々な家族達が存在しています。
それらの中でも、家族というテーマを押し出す作品のほとんどは『親子』という形に主眼を置いているように思いました。
親子には、まず血の繋がりがあります。
血の繋がりというものは家族を描く上で非常に便利なものです。漠然とした『家族だから大切』という理由で助け合うことができる。
だからこそ親子の愛情というのは描き易く、多くの人が深く感情移入ができ、だから無駄なエピソードを必要としない。実に素晴らしいことです。
しかし、この家族計画という物語のメイン登場人物には、一切、血の繋がりがありません。
全くの赤の他人…しかも、それぞれが捻くれた芯を持っているので一筋縄で行くはずもありません。
事実、全てのルートにおいて家族計画は崩壊してしまいます。
彼らは契約によって生まれた家族であって、本当の家族ではない。彼らが家族になるには明確な利益が必要でした。
だから計画の崩壊によって登場人物の感じた感情は、家族愛ではなく同じ場所に住んで協力し合っていたという仲間意識に過ぎないでしょう。
それは恐らく、家族とは全く違ったものだったはずです。
なら、この物語は一体何を描いていたのか。
それはきっと、『夫婦』という家族の形なのでしょう。(例外もあるので、それは後述)
夫婦には血の繋がりというものが存在しません。見知らぬ男女が出会い、恋をして、共に生きることを誓い、そして夫婦になる。
それは『好きだから大切』という漠然とした理由です。
まあ、世の中には損得で夫婦となる人もいるでしょうが、それは家族計画と同じように、明確な利益を必要とする関係です。場合によっては簡単に崩れてしまいます。
血の繋がりのない見知らぬ人間が家族になる。そこには関係に服した愛情が必要となるからです。
このゲームの登場人物達には、その愛情もありませんでした。だから彼らの家族計画が崩壊することは必然だったのでしょう。
そうして崩壊した計画の中で、主人公の司はヒロインへの恋愛感情に気づくことになります。
そこには仲間意識や利害関係といったものがなく、夫婦となる為に必要な男女の愛情だけが存在します。
シナリオを進めると、司はほとんどルートにおいてヒロインと結婚し、さらには子供を成すことにもなります。
私は、ここに来て初めて、この物語の描きたかった家族の姿を見ることができたと思いました。
夫婦という、見知らぬ人間同士が本当の家族となる為の形。それは全ての『家族』が始まる地点。
恋愛を主軸とする恋愛アドベンチャーゲームだからこそ、ライターさんはこういった形に拘ったのではないだろうか。
私は、そう感じました。

で、このゲームで異色であると感じたシナリオがひとつだけあるので、そっちについても少し。
それは、五つあるルートの中で、司がヒロインと夫婦という形に落ち着かなかった唯一のルートである準ルート。
準ルートは最後、再び集結した家族計画の面々が準を迎え入れ、彼女の心の傷を癒すという展開となります。
彼女のトラウマは実の両親から与えられたものであり、ある意味『親子の愛情』を否定しています。
そんな準は、司だけではなく、司を含めた家族計画の参加者全員によって救われることになりました。
このラストは、家族計画というシステムが利害関係を超えて『家族』を作るものとして機能する唯一のシーンでもあります。
それは夫婦等の形を飛び越えても『家族』を作ることのできる『何か』。
養子、義理の親子、義理の兄弟・姉妹といった家族の形を支えている、肉親の愛情でも男女の愛情でもない『何か』。
その『何か』を一言で表現する為の言葉を私は知りませんが、恐らくそれは『絆』と呼ばれているものなのでしょう。
このルートがなければ、このゲームは、血の繋がりのない人間と家族になる方法をひとつしか表現しない冷たい側面を持っていたような気がします。
そして、だからこそ、このルートが『家族計画』というゲームの中で一際暖かく感じられたのだと思います。


人は生まれながらにして家族に属する。
やがて家族から捨てられる人もいれば、家族を捨てる人、そのまま家族でいる人もいる。
しかし、人はいつか与えられたものではない、自分の家族を作る。
これはそんな人々の話なのだと思う。
言葉にすれば平凡だが、それでも尚、魅力的なストーリーでした。


そういえば私が最初にプレイしたゲームがこれだったような気がします。懐かしい。