ErogameScape -エロゲー批評空間-

竜さんのVenusBlood -HYPNO-の長文感想

ユーザー
ゲーム
VenusBlood -HYPNO-
ブランド
DualTail(DualMage)
得点
90
参照数
3256

一言コメント

SLG好きはもちろん、そうでなくてもお勧めな秀作 (ネタバレは最下部に)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前作のGAIAは「良い部分は多いけど悪い部分も無視できない」といった粗のある良作といった感じだったが
本作Hypnoは様々な部分が改良され、AVGパートもSLGパートも量、質ともに満足できる秀作に仕上がっていた。
今までの集大成を出すと告知していたが、今回も看板に偽りはなく、期待以上の出来だった。

*ネタばれは後述する形で最下段に。ゲーム未プレイだと意味がわからない用語については説明を付けてないのでわかりづらいかも。(先人の誉れ云々など)

■SLGパート
・自由度の高い師団構築
まず1ユニットごとのカスタマイズでは追加称号、洗脳雇用or通常雇用、装備を変更可能で
戦闘などで得る経験値でのレベルアップと戦闘勝利時に増える忠誠度によって成長する。
このユニットを6人以下で組み合わせて師団を編成し、3師団を合わせて1レギオンを編成する。

ユニットは攻撃向けや防御、回復、補助、継続ダメージ、内政向けなど色々あるが、追加称号など、
カスタマイズする余地が多く残っているので何要員とするかは補正して自由に決められる。
ぱっと見微妙なユニットも戦略や師団編成次第でいくらでも使えるようになるのはこのゲームのとても良いところだと思う。
もっとも、どう使おうと強いユニットや相当てこ入れしても弱いユニットもいるのだが。
師団編成はどういうレギオンにするかにもよるが先人の誉れ付きの防御師団、攻撃師団、トレハン師団あたりが鉄板のレギオンになるかと思う。
あとは戦略に応じて継続ダメージor回復師団とか、夜用の防御や攻撃の他、特定の種族に強い師団なんかが候補だろうか。
もしくはネタっぽい師団を作るのも面白いと思う。私は触手、触主、触手姫、触王を使った触手師団を作ったりした。実用性はなかったが。

ユニット眺めて二時間、称号追加で一時間、師団編成でまた一時間・・・とストーリーが全く進んでなくても悩むのが楽しいゲーム。
しかし、自由度が高すぎてどうしたらいいかわからん、とか、この先どういう称号が手に入るのか?どんな装備が手に入るのか?などなど、
あまりに考えすぎると答えが出せず、次第に苦しくなってくるのも事実。
幸いそれほど難易度の高いゲームではないので、なんとなく良さそうなものを選んでどんどん進めていくのが楽しい進め方、になると思う。

    彡⌒ミ
    (´・ω・`) <悩みすぎてハゲないように注意!


・選べる難易度
難易度は一周目でも4種類から自由に選ぶことができ、SLGが苦手ならイージーやベリーイージー、得意ならハードを選べばいい。
ノーマル以下だとやや易しいが、ハードで始めて二章でアークロンド(序盤ではちょっと強めの勢力)に行くと手ごたえのある戦闘が楽しめる。
イージーは「勝利スキップボタン」を使うことができるので詰むことはなくなる。「とにかくエロが見たいぜ!」とか
「なんだかSLGパートがだるくなってきた・・・」という場合にも使える他、
イージーでもレア11装備をドロップさせられるので楽して装備品を集めたい場合にも使える。
さらに、ゲームオーバーになってもユニットや資金収入などをほぼ全て引き継げるため、
高めの難易度を選んで詰んでしまったとしても無駄にはならない。ここで改めて難易度を選びなおせばいいという親切設計だ。

ただ、あえて難癖つけるなら、ゲームの難易度が全体的にやや低めだったのだけ、ちょっと残念。
Frontierのバトルロイヤルは敵が怒涛のごとく押し寄せ、高難易度だと倒しきれないので、敵拠点を奪いながら逃げ回らなければいけない厳しさがあった。
GAIAでは師団を数割ずつ削られながら防衛ラインを徐々に下げ、コアの周辺まで押し込まれることも少なくなかった。
しかし、本作では勝つか負けるか?ではなく、上手く勝てるか否か?であるため、やや緊張感に欠けるところがある。
やはり勝ったときの爽快感は負けたときの悔しさがあってこそ。
S++ランクでステージクリアするにはそれなりに考えなきゃいけないので、そういう意味でゲーム性は十分にあるのだが
とても面白いゲームだからこそ、「一見無理ゲーに見えるが、戦略を突き詰めていけば勝てる」要素が欲しくなる。
我ながら贅沢なこと言ってると思うけど。

・自由に侵攻(進行)できる
基本的には各ステージごとにある目標ターン、撃破数、拠点制圧数を目指すことになるが、
各ステージの敵を全部倒して経験値を稼ぎたいならそうしてもいいし、全ての敵をトレハン師団付きのレギオンで倒して、装備を稼ぐもいい。
目標を満たすことで得られる装備品や鉱石は後でいくらでも取り返しが付くので意図的にのんびりやるのもプレイヤーの自由だ。
のんびりやる場合、師団はしっかり考えて作った師団が3つあればこと足りる。
デウスモードで目標ターン以内に攻略したいなら15師団くらい欲しいが、これは2週目以降の話なので一周目は気にしなくてもいいだろう。
余裕があるときは目標を満たすように進めて、敵が強いと感じたら目標達成報酬は諦め、装備品稼ぎをするやり方がオススメ。


・長く遊べる
一周目ハード ロウルート:70時間
二周目タナトス バーサク1 カオスルート:99時間(累計)
三+四周目イージー(称号や仲間の取りこぼし回収):116時間(累計)
五週目ベリーハード バーサク5 デウス:127時間(累計)
六週目タナトス バーサク5 デウス:142時間(累計)
七週目ハード バーサク5 デウス(アイテム稼ぎ):147時間(累計)
引き継ぎなしタナトス バーサク5(三章まで進めたところで普通にクリア出来そうと思って中断):11時間

上記の合計158時間とセーブ&ロードの時間で実際のプレイ時間はおそらく200時間前後だろうか。十分長く遊べて満足した。
ちなみに、前作GAIAのプレイ時間は300時間。この差は、本作の難易度があまり高くないことと、
GAIAだとやらざるを得なかった資金稼ぎが本作ではやらずに済むようになったことが影響してると思う。
出来ればもうちょっと遊びたかったけど、短くなった要因が一長一短だから仕方ないかな。

・バグは少なめ
毎度結構な量のバグがあったVBシリーズだが、本作はゲーム進行に影響するようなバグはあまりなく、
最新パッチのVer1.07aがある現在では細々としたバグを残すのみで、あまり不快感はなかった。
他のゲームと比べて少ないわけではないし、前作でもあった「バグなのか仕様なのか不明」というのもあるので、気になる人は注意。
ただ、覚悟してた割にはそんなに無かったな、という印象ではある。

・一見さんにはちょっと厳しいくらいシステムが複雑
スキル、ユニット、システム・・このシリーズが初めての人にはちょっと覚えることが多すぎて、混乱することもあるのではないだろうか。
チュートリアルはシリーズの新作が出るごとにちょっとずつ良くなってきているものの、カバーしきれてはいない。
よって、このゲームを初めてやる方は、イージーで始めてざっとチュートリアルを読んで適当に動かしながら徐々に覚えていき、
Wikiなどの攻略情報を見ながら高難易度に挑戦していく・・・というのがオススメ。

新要素や変更点について
陣形
正直なとこ、あまり機能してないと思う。リーダーによって陣形が決まるのだが
リーダースキルとその発動に合うユニットを組む方が優先なので少々意識しにくい。
また、相手の陣形に合わせてどの師団を当てるかできたら良かったのだが
先陣の誉れを有する師団を一師団目に置かなきゃいけないことを考えると、とてもじゃないがそこまで意識することはできない。
陣形は師団編成できる状態なら自由な陣形にできるように仕様を変えたほうがよかったと思う。

霊体種族
なかなか面白いアイディアだと思う。
ただ、後半の強敵は霊特攻を持ってるのでガーダー代わりとなると肝心なとこで役に立たず、
ヒーラー、バフ役としてはまぁまぁだが特に霊ユニットじゃなくてもその役は務まるし、
何より霊ユニットは霊素回復のスキルか戦術スキルでしか回復しないというのが足を引っ張るので
最終的に味方としては、使ってもいいが使わなくてもいい、程度の価値で、
敵としては対策がいくらでも出来るので強いってほどでもない。
総合的には若干ゲームを面白くさせる要素にはなってるといったところ。

洗脳雇用
プレイ前は自爆師団の使い勝手が良くなるのではないか?と予想してた。
どちらかというと良くなるのだが、本作での「師団全滅で下がる忠誠度」はたったの2なので大した意味はなかった。
重要なのは「洗脳するとリーダースキルと戦術スキルが使えなくなる代わりにパラメータが変化する」という部分。
下がるパラメータもあるが、それも合わせてユニットの役割を変えることができ、カスタマイズ性を上げることができている。
多いのは「知力が下がって他が上がる」などで、変り種では「攻撃力と防御力が逆になる」なんてのもある。
雇用時のセリフが変化したりもして、なかなか面白かった。

最大ダメージの表示
ユニットがどの程度のダメージを実際に与えたのかが分かって便利。贅沢を言えば平均なども見たかった。

師団が36まで組めるようになった
前作では12師団までしか組めなかったので、普段は使わないトレハン師団や自爆師団なんかは使うときに組み替えてたのだがそういう煩わしさが減った。
ただし、ストーリーではマップが狭いために6師団と補助に数師団あれば十分で、多くの師団を動かすのはデウスモードに行ってからになる。
もしレベルの低い師団が使い物にならない、というようになったら内政の軍事を上げ、ターンをひたすら送っておけばいい。

兵種の枠が42人まで雇用可能になった
組める師団増加に伴って雇えるユニット数も大幅に増加。それでもキャスター枠なんかは埋まるが、
今までのシリーズではあった「強いユニットだけど、兵種枠が埋まってて雇えない」ということがほぼ無くなった。

フォースが師団ごとに溜まり、エンカウントバトルでも発動できるようになった
前作まではプレイヤー側だとメインバトルでしか使えなかった戦術スキルだが、今回は敵と同じ条件で使用可能。
これにより、ユニークユニットの価値も上がった。

鉱石変換
前作では部分的に使えた鉱石の変換は、道具の素材欄で何時でも好きなだけ変換できるようになった。
これにより、撃破金運でやや低めの鉱石を集めまくるのが無駄にならなくなった。
最終的には撃破金運6が多いのでこれを変換していくことになると思う。
アイテム収集が楽になったので地味に嬉しい変更だった。

装備品の増加
Frontierだとレア8以降の装備は1個まで、GAIAだとレア8は3個、レア9以降は1個ずつだった。
本作ではレア8が4個、レア9が3個、レア10が2個、レア11、12が1個(一部2個)と大きく増加。師団が大幅に増加したのと合わせたのだろう。
使う師団を6師団くらいに限定すれば余り、15師団くらい使うならちょうど使い切るか、若干余るくらいで、十分な数がある。
前作までは次元斬撃を付与する装備なんかは貴重でその時必要なパーティで使いまわすようなことをしていたが、これをしなくて済むようになった。
最高のレア装備もラスボスがドロップするし、一周で5個くらいは集められるので、オールコンプリートもそんなに大変ではなくなったのは良かった。


■AVGパート
・エロが大分ノーマルよりになった
ノーマル寄りになるのは長年(?)このゲームのファンだった人には微妙に残念がられてることもあるらしいのだが自分にとっては正直、嬉しい限りだった。
VBシリーズはこの特殊さから多くの人にはお勧めし難かったのだが、今回は大丈夫な人も多いのではないだろうか。
しかし「そうは言っても、特殊は特殊なんでしょ?触手とかびょるびょる出るんでしょ?あぁいうの苦手なんだよね」と思ってる方もいるだろう。
そんな貴方のために以下にグループ分けした数字を書いておくので許容範囲かどうか参考にどうぞ。
シーン数109 / 独断によるため誤差がある可能性アリ

グループ分け基準 / 公式サイトのイベントCGサンプルで言えば何か?
A:19+18+13=50 :触手も出ない至ってノーマルなもの /二段目
B:17+13+11=41 :触手は出るけどほぼノーマルなもの /一段目
C:5 + 4+ 1=10 :ハードだけどエロゲでは割とあるもの(SMっぽいのとか) / 八段目左
D:1 + 7+ 0= 8 :ふたなり、腹ぼてなど、かなり特殊なもの /該当なし

ちなみに前作GAIAのシーン回想85+産卵CG13枚を分けると
A: 5+13+4+ 0=22
B:11+12+6+ 0=29
C: 6+ 1+1+ 0= 8
D:13+ 9+4+13=39
・・となるので本作がいかにノーマル寄りになったかわかっていただけると思う。
「触手出てたらノーマルじゃねぇだろ!」と思う方もいるかしれない。でもこのゲームやってると次第に慣れてしまって、
「触手出るくらいなら全然OK!ジークハイル・ビョビョリーヌ!」などと意味不明の供述をするくらいには洗脳されるので安心。


・SLGパートを盛り上げるストーリー
ストーリーのみで評価するならそこそこ良い程度だが、SLGを引き立てるストーリーとしてはとても良い出来だと思う。
声優さんの演技も熱が入ってる。特に重要なヒロインであるシルヴィアとアノーラは良い。・・・一部ひどく違和感のある人もいるが。(好きな人がいるかもしれないので誰のことなのかは伏せる)
序章から8章まであるのだが、それぞれをまたいで覚えておかなきゃいけない伏線とかはなく、それぞれのステージで起こったのを眺めとけばいい。
もし時間が開いて忘れたならシーン回想で見直してもいいだろう。
あくまでSLGのストーリーとしてはいい、というものなのでイージーでSLGパートを完全にスキップしても楽しめるというわけではない。
(具体的な内容についてはネタばれのため後述)

・キャラがよく出来てる
人数も多いし、個性もそれぞれしっかり描かれている。
気に入ったのがとても多くて人気投票では誰に入れようかすごく迷った。

・見逃したイベントの回収が楽
難易度イージーはSLGパートを完全にスキップできるので、
見逃したイベントの回収やユニークユニットの追加、称号の変更などが前作までと比べてとても楽になった。


■BGM
全体的には、前作までと同じく、よく出来ている。各ステージの雰囲気に合ってるし、
バトル時の音楽もいい感じにこっちのテンションを上げてくれる。ボス戦のも気合入れて作ってある。
ただ、好きなものが多い一方で、No.45,47、55、56などのオペラっぽい人の声が入る曲はBGMとしてはちょっと"重い"と感じた。
メモリーを食うという意味ではなく、刺激的すぎる、という意味で。
AVGパートで聴いてる分には盛り上がるのだが、後半の敵を相手に師団の見直しをして悩んでいるときにずーっとあのBGMを聴いてると疲れてしまう。
音楽そのものとしては良いだけに微妙なところなのだが・・。
結局、そのBGMが流れるステージで師団見直しをする際はBGMを切って別の音楽を聴いてたので、ここはちょっとだけマイナスポイント。
BGMは点数で言えば+3点-1点で合計+2点ってところかな。
贅沢を言えば、BGMセレクトが出来れば最高だった。



■まとめ
全体的に様々な部分が改良され、質も量も満足できた本作。
VBシリーズの現在のシステムはこれで終わり、ということで今までの集大成というに相応しい秀作に仕上がっていた。
しかし一方でマイナス評価になりそうなものを徹底的に省いたので減った楽しみもある。高難易度だったり、エロの特殊さだったり。
万人向け"寄り"の秀作にしたために、一部の人間に傑作と評価されるものではなくなった。
メーカーとしては正しいと思うし、私自身の評価も今までで一番高いのだから何も文句はないのだが、一抹の寂しさも感じてしまう。流石にひどいエゴだとは思うのだが。
次回作以降はどういうものにしていくのかはわからないが、今後ともTailブランドには期待している。
いつか更なる進化を遂げたゲームを作って欲しい。



おまけ(?)
■VBシリーズ紹介
余談になるが、もしかしたらVBシリーズ自体に興味をもった方もいるかもしれないので簡単に紹介する。と言っても四作分だけだが。
EMPIRE・・まだゲーム性はあまり高くない。ストーリーは結構面白い。
ABYSS・・ゲーム性が高くなり始めた頃のゲーム。遠隔攻撃さえ付けとけばいい、という感じなのでゲームバランスはやや悪いかも。
      結構面白いし、桔梗が可愛いのでぼちぼちオススメ。
FRONTIER・・ゲーム性が十分高くなり、色んな新スキルの追加でバランスも良くなった。高難易度はかなり手応えアリ。オススメ。
GAIA・・面白くなる要素が追加されたが、それを阻害するものも増えた。シリーズ中最高の難易度を誇り、引き継ぎなしVHは一見無理ゲーに見えるほど。
      プレイヤーは使えない「愚者の嘘4」とか「ルキフェル*6師団」、「変異獣ドグマ*6師団」など凶悪な敵もいる。
      一旦ハマってしまえば長時間遊べるので、個人的にはオススメ。






*この先はネタバレの後述部分になるのでご注意*





AVGパートの後述部分
ロウルートは王道もの。前作までと大体似たような傾向だが、出来は今までの中でもかなりいい方だと思う。
特にヒロインの一人であるシルヴィアの主張に主人公が共感するというのは今までの作品にはなかったもので、なかなか新鮮だった。
カオスルートも今までの「ヒロインを含む味方が反乱→鎮圧して主人公が欲望の限りを尽くす」みたいなのじゃなくて
「ロウルートとは違う敵がラスボス+力で支配する傾向が強くなる」というものだった。
今まではカオスルートってどうも好きになれないな、と思っていたのでストーリーも自分好みになってて良かった。