ErogameScape -エロゲー批評空間-

竜さんのマブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプスの長文感想

ユーザー
ゲーム
マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス
ブランド
âge(age)
得点
83
参照数
1373

一言コメント

全体的に量、質ともに大満足の出来・・・・なのだが、終盤一割くらいの部分が微妙で高得点は付けづらい。(ネタバレは後半から)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

最後まで質が保てていれば間違いなく90点以上付けられた、かなり惜しい作品であるものの、良作ではある。
最後が駄目なだけでどれだけ減点しようか迷ったが9割の部分を90点中80点、最後の1割を10点中3点、ってことで83点とした。

最後の最後だけ肩透かしだったが、それまではシナリオ、BGM、CG、演出、どれをとっても満足できる内容。
ぬるぬる動くBETAもよかったし、唯衣を初めとしてヒロインも可愛かった。

発売からそれなりに経ったが、加筆修正されたものがこの後出るかもしれないので、現時点での購入はお勧めできるかは微妙なところ。
未完成というほど後半の内容が欠けてるわけじゃないし、、楽しめないことはないので、値段次第で中古なら買ってもいいかもしれない。
もしくは今これを買って加筆修正したものは値下がった頃に買う、というものアリだと思う。出るとは限らないし。
とても低い確率だと思うが、修正パッチで最後の部分が追加されたり・・・する可能性がなきにしもあらず。
2015年4月22日という発売から半年以上立った頃に修正パッチを出すというやる気があるのかないのか分からないことをしてるので判断に困る。


ちなみに、他のマブラヴシリーズはやってなくても問題なく読めるだろうが、
やってた方がより楽しめる&話が理解しやすいと思う。



・アニメーション
ゲーム中に短めながらアニメーションが挿入されているのだが、これがなかなか良い出来で、物語を盛り上げる要素になっている。
「戦車が後退しながら迫ってくるBETAに砲撃する」
「戦車級が戦車の入り口こじ開けて中の人間を捕食する」
「戦車級が扉をこじ開ける」
などなど、敵の怖さが伝わってくる演出には軽く戦慄を覚えたほどだ。

・主人公の成長
主人公は腕は一級なのに過去の辛い経験から周囲とうまくいかず、問題を起こしがちな人物。
これがいい仲間と巡りあって少しずつ成長していき、計画も順調に進んでいくのだけど、
この過程が丁寧に描かれていて、最初から最後まで気分よく読めた。
特に日本関係の物を全て毛嫌いしてたのが段々と受け入れていく様がいい。
74式長刀を褒めるシーンは二周目のプレイで色々な背景を知ってからだとジーンとする。
最初はちょいちょい腹立つ部分もあったが努力してる姿がよく出るためか、応援したくなる面が強い。
また、吹雪を主人公が馬鹿にするけど、プレイヤーのための説明でもあるんじゃないかと思う。
結果的に吹雪が如何に優れてるかってのがわかるし。



・人物描写がうまい
登場人物はどれも人物描写が丁寧に掘り下げられていて、味がある。
それぞれに信念があり、物語に複雑に絡み合っていく。
本作のテーマは正直なとこハッキリとは見えにくいんだけど、おそらく「信念の確立」もしくは「信念の対立」ではないかと思う。
理由はネタバレなので後半で書こうと思う。

・唯衣が可愛くて強くて格好いい
ちょっと魅力集め過ぎじゃないかと思うほどすごいヒロイン。
良いシーンはいっぱいあるけど、特にマシンガン一つでタンク級と戦ったシーンは戦慄した。
おまけ(?)シナリオの帝都燃ゆでも大活躍する。


・対人戦たっぷり。BETA戦もあり。
本作は不知火弐型を作るストーリーなので、そのテストのため対人戦をすることが多い。
これも十分に面白いし、対人戦よりは少なめながらBETA戦も楽しめる。


・読み応え十分のテキスト
どちらかと言えばシリアスな面が優れている作品だと思うが、仲間内の会話も笑いどころが多く、最初から最後まで飽きずに楽しめた。
ミスリードを誘うような読み取るのが難しい部分もあるし、BETA戦はいつ誰が死んでもおかしくない、緊張感がある。


・BGMの出来が良く、挿入歌が7曲もある
質も良く、ゲームをかなり引き立てることができている。
BGM鑑賞モードが無いのがちょっと残念だが、BGM鑑賞用セーブデータをわざわざ用意したくなるくらい良い出来。





**この先濃厚なネタばれとなるのでご注意ください**








さて、ここまではずっと褒めてきたが、問題の後半一割の部分について触れたいと思う。




・本作のテーマ
これがなかなか分かりづらく、作者とユーザに溝があるのはこれのせいだと考えている。
私の解釈では「ユーヤの信念の確立」「敵味方それぞれの信念の対立」あたりがそうなのではないかと考えている。
ユーヤは幼少の頃の経験から日本人を全面的に否定し、アメリカ人として認められるように死に物狂いで努力し、一級のテストパイロットになった。
しかし、これはある種の逃げであり、消去法で選んだ道に過ぎない。
「こうしたい」という単純な欲求から論理的な思考を経て貫くべき信念を確立する。そういうことがユーヤにはできていなかった。
この物語は、そんなユーヤが様々な人物の信念と触れ合い、己を知り、人を知り、自分の信念を確立する・・・そんな物語である。
・・・と書かれていたらよかったのだが、これはオチを読んだ自分が予想したものに過ぎない。
つまり、もしこの予想が当たっていれば、あのオチに納得できる・・・と逆算したものになる。
ゲーム序盤に電磁投射砲が出るし、その次には不知火弐型を作る話になるのだが、
これらはきっと舞台装置的に使ったもので、作者が物語の核として描きたかったものではないのだろう。
とはいえ、脇役としては完全に目立ちすぎであり、ユーザが不知火の開発の方に目が行くのも自然なことと言える。
だから理想を言えば不知火や仲間が最後どうなったのかをキッチリ描いて、かつ、
テーマの結末の方もしっかり締める・・ということが出来れば最高の作品になったのだと思う。
もしくはテーマがわかりやすく描かれていればまた違う評価になった可能性もあるのだが・・・。

惜しいところでまとまりに欠けている感はあるものの、このテーマ関係の話自体は非常に面白い。
特に非人道的なものに関してはかなり深く、物語に絡んでいく。
本作には様々な敵役が出るが、悪役はいない。ただ敵の「犠牲にせざるを得ないもの」が味方にとって許せないものだから敵となるのだ。
逆に、自分たちが犠牲にしてきたものの恨みが連なって暴動を起こす、というのもあって
何が本当に正しいことなのかとユーザを葛藤させることうけ合いである。
サンダーク中尉は敵役だけど、共感できることもかなり言ってるし、悔しいが格好いいと思うことも少なくなかった。
RLFのテロもBETAの戦争が終わるより遥かに前に自分が死ぬと思っていたら行動するしかないのも理解できる。
敵以外では、ユーヤの生い立ちの背景もそういった信念が関わっている様が描かれるし、
こういった点に目をつけてみると、本作の違う魅力を感じるかもしれない。



・г標的撃破の瞬間がない
г(ゲー)標的というのは桜花作戦時に出てくる超大型のレーザー種で、このゲームのラスボスとして立ちふさがる。
圧倒的な攻撃力を見せつけ、このままではスサノオがやられて桜花作戦が失敗するのは確実。
そんなピンチに颯爽と現れる主人公とゆかいな仲間たち。
犠牲を出しながらもなんとかボスの前にたどり着き、ヒロインと共にг標的に突撃する・・・というところでエンディングが流れる。

プレイしてない方には何を言ってるのか分からないかもしれないが、書き間違いではない。
大事なことなので二度書くが、このゲームの最後のシーンは傷一つ付いてないボスに攻撃し始める時点である。

エンディングの後、г標的を撃破した一枚のCGが表示されるものの、いや、そうじゃねぇよ!っていう。

そりゃまぁ、あの展開で最後が「г標的に近づいたら衝角で叩き落されました」
みたいな展開になるとは誰も思わないだろう。オルタネイティブで桜花作戦が成功してるわけだから。
ヒロインを攻略して念願のセクロスシーンに入ったら「緊張のあまり立たなかった」とはならないように
ヒロインと共にラスボスに向かっていって「力及ばず撃墜された」とならないのはわかる。誰でもわかる。
でもだからって省略していいわけじゃない。
セクロスシーンに入ったと思ったら射精後のCGが一枚表示されるだけだったりしたら文句の一つも出るだろう。誰だってそーする おれもそーする。
誰がどの兵装使ったのか? 戦術機の36mmや長刀でも十分なダメージを与えられるのか?
他の隊が光線級吶喊したときみたいな迎撃はどうだったのか?
そういうのを見たかったんだよ。案の定というか、最後のCGで戦術機の腕もげてるしね。
さぞかし手に汗握る攻防があっただろうに・・残念だ。
この作品を気に入っていればいるほど、他のシーンでは丁寧に書けてるのに何故ここだけ・・・と思うだろう。


・終盤の急展開
終盤はかなり駆け足で、頭が追いついていけない展開になってしまっていたのが残念。
当初の計画と大分違ってるけど、ウェラーはどうしたんだ?とかXFJ計画はどうなったのかとか、結構多くの疑問が残ることになる。

一応メインテーマに対するオチは描かれているので未完成とは言い難いのも確かなのだが、物足りないのもまた事実だと思う。



まとめ
全体的な質は非常に高いのに、最後の部分が少々受け入れがたいのが難点。
だが、未完成とも言えないという点がまた評価が難しくしている。
理想を言えばやはり、一周目では分かりやすいオチを、
気に入って再度プレイした時に新たな魅力が出てくる・・・という状態に出来れば最高だったのだろう。
もちろんとても難しいことであるだろうが、このライターさんにはその実力があるのではないかと思う。
いつかそういった作品を出してくれるものとして、期待したい。