青春モノが好きならやるべき。
これほど青春を感じる作品がほかにあろうか?(いや、ない!)。学生時代の青春を思いっきり満喫していて、あとで辛かろうが関係ないといった感じで日々を過ごしている。
プロローグで、航が周りと仲良くすることを意図的に避けていた凛奈に向かって、俺たちは別れるときに辛い思いをするから(仲間である)おまえ(凛奈)も一緒に悲しむんだ。と言ったシーン。
ここでは辛い別れを経験して心を閉ざしてしまった凛奈がその思いをぶつけ、一年後には避けられない別れを迎える航がそれでも精一杯悲しみを受け止めようと、この大切な日々を心に刻もうと、その決意を描いている。
このときふと、『ヤマアラシのジレンマ』が思い浮かんだ。ヤマアラシはお互いに近づきすぎると傷つけあい、遠ざかりすぎると凍えてしまう。そんなことを繰り返しながらお互いの距離を決めていくというものだ。
でも、航が意図しているのは、『たとえ近づきすぎてお互いを傷つけあっても、寒さをしのぎ、あとで傷を治せばいい。』ということだった。…どんなに深い傷でも、いつかは治るものだから…。ああ、“ジレンマ”の解決方法にはこんな方法もあるんだなあ、と思った。
共通ルートの最大の見せ場は言うまでもなく、あのマラソン大会である。航が凛奈をつぐみ寮の仲間にしようと必死で行動し、凛奈がそれを拒絶する。(ここでも凛奈の仲良くしたいという気持ちと別れの辛さとの葛藤がわかる。)
そしてふたりは最初に出会ったその場所でマラソン大会で決着をつけることを決意する。凛奈は長距離の特待生だった。航は一地方、それも小さな孤島のマラソン大会の前回の優勝者だった。勝敗は誰が見ても明らかだった。航は凛奈を納得させるには凛奈の得意分野で勝つしかないと考えたのだ。そして航は分かっていた。凛奈は走ることが大好きなのだと。
心配する海巳に対して航は勝つ要素(凛奈が手を抜いてわざと負ける)があると言った。だが、凛奈はそれを聞いてしまい、さらに意地になる。凛奈のコンディションは全盛期に戻った。航は陰謀をもつ教頭に追試を宣言される…。
迎えたマラソン大会当日、次々と選手がエントリーする中、航はその姿を現さなかった。スタート直前、航が見るも無残な姿でやってきた。彼は一日中教頭に追試をやらされていた。そしてマラソンと同じ距離をすでに走ってきたのだ。
凛奈は言う、そんな体調で参加すべきではない。長距離では命を落とすこともあり危険である。自分も以前無理をして体を壊したことがある。もし一人で棄権するのが嫌ならば自分も付き合う。と。
航は言う、そんなことだからお前(凛奈)は勝負に負けるのだ。と。
その言葉を聞き凛奈は本気で相手をすることを決める。航は続ける、先にゴールした方が勝者だ。たとえどのような結果になろうとも。と。
そうこうしているうちにレースはスタートしていた。航はトップに追いつこうとあせるが、凛奈がそれを制止する。2番(凛奈が1番)になるまでは自分のペースについて来いと。航は睡眠不足で限界に近いながらも走る。もうすぐ下り坂になる、そうすれば…そこで倒れても凛奈は自分に気づくことなく、自分を心配することなく走ることができるだろう。
しばらくして凛奈は気づく。航が先ほどの場所から追ってこないことに。中継地点ではさえちゃんと静が待っていた。凛奈は告げる、航はどこかで倒れているかもしれない。と。静は責める、「航に何かあったらおまえのせいだ!」と。凛奈は自分の張っていた意地を後悔する。「今までへんな意地を張っていてごめんなさい。」と。そして、自分が探しに行くと言う。
しかし、紗衣里先生はそれを制止する。「あんたは走れ。そして一番を取れ。」「一番を取ってそのときまだ今の気持ちを覚えているならば、ここに3つの誓いを立てなさい。」「一位を取った賞状をつぐみ寮に飾ること、今夜の祝勝会に必ず参加すること、そして今までのことをみんなに謝ること。」
凛奈は理解する。自分が一番をとることが自分にできる償いなのだと。…もう、航は勝利していた。凛奈が自分の気持ちに素直になったのだ。
中継「ゴールまであと××メートル。現在のトップは…えっ!!」そう、そこには航の姿があった。航はすでに勝利していた。勝負に勝って試合に負けていたのだ。
でも航には負けられない理由があった。なぜなら、ゴールで航を待つ、航が勝利すると信じて疑わない頑固な幼馴染がいるからだ。
凛奈は突然の航の出現に戸惑う。航はそして…ゴールテープを…切る。
勝利の瞬間だった。実際にはショートカットをしたため失格であったが、凛奈との勝負、先にゴールした方が勝ち。たとえどんな結果になろうとも。…宣言どおり航は勝利したのだ。…自らの骨折と1ヶ月の停学と引き換えに。
その日、凛奈はつぐみ寮の仲間となり、そして同時に背負うことになる、一年後に待つ胸を掻き毟られるような別れを…。
この出来事を描写することで、つぐみ寮の仲間の絆をより強いものにすると同時に、航はやるときはやる男だということを表現している。そして海巳のこうと決めたときの頑固さを伏線として張っている。
他にここで注目すべきは、さえちゃんの名言。先生としてのカッコ良さを表現するのとともに、「これからつぐみ寮の仲間として一緒に海巳の飯を食う」という航との約束を3つの誓いには入れなかったことで凛奈の自主性を促し、航を立てたという見方もできる。
個別ルートについては割愛するが、凛奈ルートについて少しだけ。
凛奈のルートの終盤でピーターパンの劇を演じるシーン。凛奈(ピ-ターパン)「僕はネバーランドに残る。」海巳(ウェンディ)「ネバーランドには子供しかいられない。いつまでも子供のままではいられない。」海巳「あなたを待つお母さんの元に帰ろう?」
このシーンでは、航が述べている通り、「頑固な海巳はいつまでも子供のままのピーターパンだった。新参者の凛奈は外の国からネバーランドにやってきたウェンディだった。…最後に発覚した決定的なミスキャスト。」だった。
いつまでもこのままでいたかった海巳。それでも仲間との生活を通じて、一年後に迫る別れを受け入れた。…そんな海巳だからこそ、ネバーランド(=つぐみ寮での別れを認めないこと)にいつまでもいてはいけないという言葉の重みが違った。凛奈はこれまでの生活を通じて海巳に頑固さを知っていた。もっとも海巳が別れを嫌がっていたことを知っていた。ずっと、ずっと最後まで納得しない海巳だということを、仲間になった今では分かっていた。そんな海巳に説得されれば認めざるを得ない。自分は最初そんなことも知らず、ただ別れる悲しみを辛くしたくない為だけに意地を張っていた新参者だったのだから…。
ここでの海巳のつぐみ寮のみんなとの別れに対しての頑固さというのは別のルート(海巳ルート含む)でもあまり表現されておらず、少し残念だった。
…何故か海巳と凛奈以外はあまり感想を書けていない気がするけど、他のメンバーもいいですよ!?たとえば、静ルートの会長のあのセリフとか、宮の(いまでは好きな)本当は嫌いだったおせち料理に対する思い入れの健気さとか、『十二人の怒れる教師(以下略』でのさえちゃんの成長ぶりとか。
まあ、そんなこんなでつぐみ寮のメンバーと心を通わせた後で、『この青空に約束を』ですよ!
つぐみ寮の取り壊しが決定し、季節は卒寮式を迎えていた…。
いつもの石段を登るとそこにはいつものように階段の数を数えていた宮の姿があった。「71,72,73…」宮はいつものように階段の数を数えている。
航が声を掛けると宮は数を忘れてしまった。航が区切りの部分を指して段数を教える。しかし、宮は認めない。「最後に上る階段の数をそんないいかげんな方法で数え違えたくない。」
そしてまた、1から数えなおす。毎日数えている宮が区切りの位置の段数を間違えるはずがない。
宮は本当はただ、少しでも思い出の場所に長くいたいのだ。別れの前に心の整理をつける時間がほしいのだ。航はそれを察し、階段をあとにする。
寮のまえのグラウンドを通り過ぎようとすると、いつものようにバスケットボールを持ち、フリースローに励んでいる凛奈の姿があった。
凛奈は今までの感謝を、フリースローを決めることで心の整理をつけていた。
航「いつまで、そうしているつもりだ?」
凛奈「心に整理がつくまでかな?卒寮式までには終わらせるよ。…終わらせなきゃいけないもん。」
航はゴールに響く音を背にする。
寮の裏庭では、畑仕事に精を出す海巳がいた。
航「そんなことしたって、だれが作物を食うんだよ?」海巳は泣きそうになる。航は慌てて、「俺が全部食うから。こっそり忍び込んで食うから。」と言う。
海巳はまだ、畑に水を撒いていた。
寮に入ると紗衣里が待っていた。
彼女と航だけはこの島を離れない。つぐみ寮はなくなってもふたりは学園で会える。しかし、ふたりでは違うのだと分かっている、今までの日々とは。その証拠にいつもならすぐに空になっているはずのビールがフタを開けられないまま持っていたのだ。紗衣里は航と話すことで決心をつけ、航はその場をあとにする。
寮の中ではまたひとり、心の整理がつかないものがいた。静だった。
寮の屋上にいくと奈緒子が出てきた。さすがというべきか、奈緒子はもう心の整理はついているようだった…。
そして卒寮式が始まる。紗衣里が先生として、寮長として、卒寮証書を渡す。
奈緒子が会長として、先輩として、みんなの姉として、答辞を述べる。卒寮生を送り出す在寮生はもう、いない…。
そして、みんなで歌う、あの歌を。
~さよならのかわりに♪~
ひとつずつ思い出す 目蓋に映ったたくさんの夢たち
さよならの向こう側に 大切なものを置いてきたんだ
傷つくこと恐れても 逃げることじゃ変わらない
誰でもそう弱い心 だからお願いそばに居て
揺れる季節と 君にさよなら
どうしても見えないから 濡れた瞳、隠してる
あの時描いた 約束の場所へ
きっといつまでも 待ってるよ
笑顔で抱きしめるから
いくつもの涙の意味 忘れてた気持ち教えてくれたね
移りゆく景色の中で 同じ道を歩いてきた
差し出した手に思い出の 僕らの選んだ(大切な)これからが
最後にくれた 笑顔でさよなら
またここで会えるから 明日を今、見つめてる
あの日交わした 青空の下で
きっと いつまでもかわらないよ
さよならのかわりに誓うから・・・
最初に泣き出したのは、お嬢様の宮でも、だめだめなさえちゃんでも、幼い静でも、別れの辛さを避けようとしていた凛奈でも、ずっと、ずっと、別れを拒んでいた海巳でもなく、奈緒子だった…。
奈緒子は心の整理がついていたわけではなかった。みんなの頼れる姉として、弱い姿を隠してこらえていただけだった。
奈緒子の泣き声を皮切りに、宮が、さえが、静が、凛奈が、海巳が泣き出した。
ずっと、この日が来るのは…分かっていた。避けられない別れと…分かっていた。覚悟はしている…つもりだった。いままでこらえてきた気持ちが・・・爆発した。
~END~
「待って、まって、まってよ~」とどこからか声が聞こえるので彼女について語ろう。
それは、みんながつぐみ寮を卒寮したあとの話。
つぐみ寮は取り壊され、航はあの石段を登ることができなくなっていた。…航はつぐみ寮を守ることができなかったのだ。
しばらく立ち直れなかった航だが、時が経つにつれ会長としてふさわしい人間となっていった。
…さえ「こんなの、星野航じゃないやい。」
航が塞ぎこんでいるときに励ましてくれるひとがいた。その少女は毎朝近所迷惑も考えず航の家にきては騒ぎ出す。それこそ、毎日、毎日。
航はなんだかんだ言いながらも彼女に助けられていた。もし彼女が毎日のように騒いでくれなければ、航は塞ぎこみ、参ってしまっていただろう。
…そして年に一度の祭りの日、いつものように彼女が来て祭りに行こうと囃し立てる。しかし、その場所は航にとってトラウマとなっている場所を通らなければならなかった。航は行くつもりはなかったが、いつものように彼女のペースにはめられて来てしまった。
しばらく後、航は逃げ出す。一年前、つぐみ寮に新たな仲間を迎えるために駆けたあの崖を通って。この崖ならばいくら彼女とはいえ、追ってこられないと考えたからだ。
そして航は港にたどり着いた。すると、後から声が聞こえてきた。今は祭りでこんなところに人はいないはずだ。振り向くとそこには、ぼろぼろになった振袖を着て笑顔で笑っている茜がいた。
・・・もう航も、茜には適わなかった。
航は問う、どうして、付き合いの長くない俺のためにここまでするのか?
茜は答える、「まだ気づいてないの?本当ににぶいなぁ。」
・・・この島にはある伝説がある。『逢わせ石』という石の伝説が。
二つに分かたれた石は必ず再び廻り逢う。
・・・7人目の妻ができました。(笑)
・・・ということで、この作品のテーマはずばり、“青春の思い出”。
避けられない別れがあるとわかっていても、それを前向きに受け止め、みんなで青春を謳歌する。それがこの作品であった。
島の人たちのうっとおしいながらもの優しさとか、悪役の学園長と教頭も青春の思い出があって、この物語に出てくる人物はみんなどこか現代の人が忘れてしまったものを持っているように思う。
あと、静の両親も、最初はインスタントラーメンを作ることさえもめんどくさがっていたのに、娘のために改心して一生懸命努力したこととか、ベタながらも丸戸氏の人物描写はこころ温まります。
パルフェよりも評価が低いのは、こんにゃくでは個別ルートが個々の幸せを求めるものなので、『この青空に約束を』のようにみんなで別れを経験するというTRUEに及ばないから。つまり、本末転倒だけど、個別ルートがいらない。というか、間違いのルートであるというか、そんなところでしょうか。(別に個別ルートのシナリオが悪いんじゃなくて、“みんな”での友情や幸せこそがあるべき姿だから…。)
その点、パルフェはみんなとの“家族”というべき絆があって、そのうえで恋人を作る感じなので、わりと自然だった。
なので、総合評価としてはパルフェには劣りますが、かなり素晴らしい作品であることは間違いなく、何か心に残るものがあったように感じます。
この作品を作ってくれて、ありがとう!!
ここまで長文を読んでくださってありがとうございます。