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畢竟マインドぴspringさんの”Hello, world.”の長文感想

ユーザー
畢竟マインドぴspring
ゲーム
”Hello, world.”
ブランド
NitroPlus
得点
88
参照数
60

一言コメント

日常描写が丁寧だからこそ燃えが際立っており、萌えと燃え塩梅が絶妙だった。作中の2020年を超えた今でも依然未来を感じられる程練られたSFでもあり、非常に楽しかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

大作だった。大切な日常が音を立てて崩れていく感覚というものは、これくらい力の入った物語でしか中々味わうことができないなと思った。人を知らなかったロボットが人を愛するようになり、人のために命を燃やす。とても熱い。

平均50時間と普通の2倍くらいのプレイ時間は全く長いと感じなかった。三部構成のようになっていることで盛り上がりが複数回あり、この構成によって後半には疾走感もすごかった。

ニトロプラスが挑戦した萌えということで製作は難航したらしいが、丁寧な日常描写の分だけ燃えの土台がしっかりしていた。


ネタバレ多め↓↓↓↓









後半の展開がとても好きである。
vs HIKARIで全ての決着が着いたと思っていたから、素敵な性格をした妹の遥香の誕生やvs IZUMO、vs偽和樹、戦闘機との空中戦、vs オシリス等、終わらない燃えに息をつく暇も無かった。
特に一周目はこれを見た衝撃に唖然とした。


攻略の順は奈津美、深佳、千絵梨、遥香。それぞれノーマル後にトゥルーをやった。
エンディングの違いは好きなのだが、分岐は別視点の側面が強い。遥香のアクチュエーター、修正DNA等の補足は面白かったが、これから起きることが分かっている状態では上手に萌えに入り込むことはできなかった。


キャラとして好きなのは和樹、遥香、奈津美。
このゲームのヒロインとしてなら奈津美が一番。
以下キャラについて


奈津美
一周目の奈津美ノーマルを走りながら、奈津美と和樹の二人のことが大好きになっていた。何より奈津美から見た和樹が格好良すぎである。
和樹は奈津美がどこにいても、逃げても、攫われても何度でも迎えに行く。地球だって飛び出せる。
和樹くんは奈津美にとってヒーローで、奈津美さんも和樹のヒロインだなって…

全てが始まったときの、通学時での陳腐な衝突から本物の運命へ変わっていく、二人の恋が尊かった。終わった後も一緒にいる二人の幸せを願いたかったが、ノーマルもトゥルーのどちらも幸せばかりではない。少し寂しさは残りつつ、満たされた気持ちで終わった。


和樹に告白しておいて、深佳ルートで薫と圭介と気持ちよさそうにやってる所を見て和樹がショックを受けている、それが私にとってショックだった。最初から攻略したくなかったのだが、ますます嫌になってしまった。

トゥルーの薫を助ける場面の
「僕は止まる。でも、安心して。その時は、目の前のかおるんを信じていけば大吉だから」
と急に流暢に語り始める和樹が入ったおねがい君と薫の反応は笑った。


深佳
スタッフに機械工学を専門にしていた人がいるのか、工学オタク会話が繰り広げられて楽しかった。
遥香が起動したときに駆動系がダメになり、深佳がしばらく落ち込むエピソードでは、バックグラウンドの有無で印象が異なる。
親父との諍いがアクチュエーターへのこだわりへ繋がり、遥香を完璧な状態で親父に見せることが自分を認めてもらうことでもあるとまで考えが至らず、それを知り驚いた。


遥香
和樹より更に人間らしいロボットとして生まれた妹。人へ見せる憧れや和樹の家族としての態度が素敵だ。
オシリス編では乗っ取られることで、悲しいことに多くのルートで見捨てることになる。その分、遥香ルートで元の遥香が戻ったときは無類の喜びがあった。最後の人間の痕跡を探す二人の旅では、終末を迎えた世界と変わらず明るい遥香の対比が美しかった。


HIKARI
和樹との機械的な会話が好き。
IZUMOとオシリスの二方を知ると、物分かりも良く、今日も報告してねと控えめに催促してくるHIKARIちゃんの可愛さを感じる。


和樹
今作の魅力そのものの少年。純粋すぎてヒロインより可愛かったりもするが、大事な場面では誰よりも格好良い。最初にぶつかったのが男なら男であってもそれなりな雰囲気になっていそうだと思う。
そういった真っ白なアイデンティティが、人の善悪を学習しながら人を愛し、生存の肯定へ傾いたことに大きく感動した。

途中から女装バレで一悶着ある様な展開がロボットの和樹でもあるなら、恋愛までした後に人では無いことが分かればヒロインは相当にショックだろうと身構えていた。しかしそれは杞憂に終わった。
「和樹君は、自分が傷ついても、壊れても、私を助けようとしてくれた」
「もう私、どんな時でも、和樹君を信じられるよ」
もう人でもロボットでも気にならない程信頼を得ていたんだな、と。

トゥルーで心臓を抉り出すスチルの苦痛に耐える和樹の顔が辛かった。和樹の強い意志を感じられた。


bgmについて
global-network had already broken down
が好きだ。メインテーマの"グローバルネットワーク"のアレンジである、"僕が守るべきモノは何か"や"ネットワーククライシス"等の中で一際アップテンポな音が目立つ曲。この曲自体が好きだが、緊迫した場面でこれが台詞と共に流れると更に躍動感があった。