衰弱した主人公の前にプライベートナースが現れる。作りの丁寧さとヒロインの気持ちに惹かれた。癒しの雰囲気にしっとりと浸れ、素敵な恋愛が見られる、恋愛ゲームとして好きな作品だった。
共通前半、突然来た優しいまりあや騒がしい彩乃とのドタバタがありつつ、主人公の病気の酷さに苦しくなったり、同棲にドキドキしたりとプレイしながら広樹と共に癒されていた。
だから後半、身体が治り始め、"普通の幸せ"を追い求めていく展開にはその心情描写の丁寧さと個々人の理想に前半に感じていた不幸な平穏とのギャップがあり好感を覚えた。
推奨攻略順はBAD→彩乃→まりあの順がおすすめ。美緒√は…クリアしてないので分からない。
演出
漫画風の形を変えるコマ割りやフィルムみたいな背景の枠、背景の中に溶け込んだ立ち絵、色の付いた線画のイラスト等、特別動いたりすることは無いが、静的な変化とデザインのセンスが光っていた。
立ち絵と背景に距離感があるのが個性的だった。グッと近づき目の前で顔を覗き込んで来たり、キッチンで料理していたり、と背景の中をウロウロ動く立ち絵との組み合わせがとても良かった。
ネタバレ強めーー
以下各ルート
BAD
誰ともくっつかないBADENDの終わりの別れは、素朴ながらまりあらしかった。その後の話では広樹が掲示板を見て無かった…なんてウソをつき、彩乃は青ざめ、ウソと分かると受かったことに嬉し涙を流していた。
「おめでとう、ヒロちゃん…」
と幸せに馬鹿やってるの見てこれがまりあが望んだ平穏なんだなってじんわり感動が来たのだった。
彩乃TRUE
「頑張れば、できない事なんて……絶対、ないんだからっ!」
マラソンと以降の流れは今作でとてもお気に入りだ。今まで一つに向けて努力をしてこなかったが彼を勇気づけようと朝も夜も身体を張り一人で練習し走り続けた彩乃。本番では一人きりでも走りきろうと力の限りを尽くす様にはグッと来た。
それから広樹が自分の為にそこまでしてくれる彩乃への気持ちに気づいていき、彩乃もそれに応える流れはとても甘酸っぱい。
付き合い始めてからの近すぎる距離感によるすれ違いは親友でもあった二人らしく、引きずった悩みが単に仲違いという見かけだけのものでなかったことも良かった。
予想以上に濃い幼馴染の話が読めたな、と。
身体が弱く、望むと望まざるに拘わらず与えられるばかりだった彼が
「でももらうだけなんて、絶対にイヤだよ。
俺だって、コイツに何かを与えてやりたい」
と支え合うのを見るのは爽快な気持ちになれた。
まりあTRUE
彩乃の身の引き方が好きだ。
かつてのデートを再び回るときの、彩乃TRUEとの映画に対する感想の比較なんかも上手くて読み手を刺してくるなと思った。
広樹がフェンスをよじ登り、彩乃がジッと無言になるシーンもお気に入りだ。
当時病弱な彼は登るのに失敗した。
好きなヒトのことを治してあげたいと必死に努力してきたのに変えられなかった悔しさと、まりあが来た一ヶ月で本当に持ち直した広樹の体調を目の当たりにした彼女の複雑な心情を考えるととても切ない。
「ワタシは言ったよ…ちゃんと言ったよ。あの時も、そして今だって!」
失恋しつつ恋を応援し、不甲斐ない彼の目を覚そうとする彩乃は立派だった。
大学生になった彼らの変化は顕著で、時間の流れを感じさせつつ、まりあを筆頭に変わらないものも際立っていた。
彩乃は合コンの女王なんてあだ名が付いてるのを聞いたときは笑った。
「何ですってぇ…ふ~んだ!どうせワタシは、アンタに負けましたよ~だ!でもね。でもね……え〜ん!ヒロキのバカ、大バカ~!」
酔っ払ったこの台詞は彩乃のお茶目なところが出ていて、声優の演技もトーンの変化が大きくほっこりした。
その後のまりあとの一件では、彩乃は高校時代に広樹にした様に、今度はまりあに発破を掛けて背中を押していた。広樹の親友である彼女らしい姿再び見られて嬉しかった。
普通すら与えられず諦めていた広樹が幸せを必死に掴みとっていった高校以降の話には彼の努力と成長があった。
「俺さ、自分には絶対に幸せなんてないと思ってた。だってさ、ずっと辛い事ばかりだったんだ。他のヤツらには……彩乃にだって、この辛さは分からないと思ったよ」
「ああ、そうだよ。探せばどこかにあるんだよ。「四葉のクローバー』は。俺はこうして、まりあに会う事ができたんだから」
これを見て読んで良かったなと思えた。
気になったこと
まりあはどのタイミングで広樹を好きになったんだろう?ということが気になった。広樹は不器用ながら優しく、まりあにいつでも歩調を合わせていたから、あれだけの距離感で接していれば好意が芽生えるのも自然なことだなと思った。しかし明確な瞬間が見れなかったのでそこは惜しかったなと。
hシーンが謎システムだった。
攻略に必要なランダム要素のあるじゃんけんと同じで幾つかのシーンがランダムな組み合わせで決められているらしく、選択肢を間違えたなと同じシーンをスキップしようとすると微妙に変わっていたり、シーンの度に少しだけの差異であったりと無理に入れなくてもなと思った。