ErogameScape -エロゲー批評空間-

畢竟マインドぴspringさんのひまわり アクアアフターの長文感想

ユーザー
畢竟マインドぴspring
ゲーム
ひまわり アクアアフター
ブランド
ぶらんくのーと
得点
83
参照数
75

一言コメント

誰もが前に進もうとしている。そんな人間らしさが刺さった。鬱要素は多い分作者の書きたいことがしっかり描かれていた印象がある。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

初めに感じたことは、ハッピーエンドそのままの続きなのにシナリオが重すぎるな、ということだったが、
短くも作者の魂が感じられる物語だった。

前半と後半、キャラについて書く。






ネタバレ多め↓






・前半
前半は陽一が主体の話だった。日常の中の苦しみと夢に熱くなった。


──もしかしたら、
そんな未来が、あったかもしれない
と生きる苦しみを抱えながら、陽一は物語に夢を見ている。私自身が物語に焦がれているから、この始まりにすごく好感を持った。

「僕に──宇宙部の部長は荷が重すぎました」
「でも…だから……僕の持てる全力で...あの子を幸せにしたいと……!」
とつまらない日常を受け入れた陽一の後悔に対して、銀河は
「…まったく。父にも聞かせてやりたい台詞だな」
「日向君は立派だよ。あの英雄にもできなかったことをやってのけようとしている」
と言う。その頑張りへ、的を射た励ましにも一見聞こえるが陽一には諦めたつもりの情熱が心を蝕む。

『たくさんアクアを傷つけた…アクアを泣かせた。
それでも…身勝手な言い分かもしれないけど…僕はアクアが好きだった。』

擦り減っていく陽一を見るのが苦しく、こうしてアクアへの愛が伝わってくるからこそ、二人に本当の意味で幸せになってほしいという気持ちが強くなった。

二人を囲う仲間たちがいることが集まり、その温かさには幸せを感じられた。

作中に何度もアクアと陽一がhをしていることが描かれ、
『過激な言葉はまやかしで、あえぎ声は演技だ。』
と寂しさを埋めるためとお互いに理解してやっていることが明かされる。とても空虚だ。

そうした馴れ合いの内、妊娠が発覚する。
「──ひまわり」
「それは、あなたが追いかけてきた夢の名前だわ」
子どもへの名前に「ひまわり」と言う陽一に、未練を全く捨てていないじゃないかというアクアの返答にはゾワッと来た。

陽一は夢が半端な気持ちのまま終わり、ただ子に押しつけようとしていること、子に気持ちが向いていないことが分かり、アクアと陽一の間に生まれた亀裂が決定的であることを強く感じた。

まだひまわりに囚われていることを自覚した陽一が、お互いのやりたいことを両立させる形の提案をしたことは大吾や銀河と同じような道を歩むとしても納得があった。


・後半
後半はアクアから見た物語で、予想外の伏線もあった。


アクアが妊娠してヒロイン達が集まった場の一風変わったガールズトークはとても楽しかった。
初めてのブラが授乳用ブラだったなんてすごいエピソードだ。

それから決心して母親になる気持ちが固まった筈のアクアは、再びルナウイルスと、子をどうするべきかの選択肢に直面する。

誰だ!誰がやったんだ?という戸惑いに、
考え得る最悪の形でみんなヤってしまっている。
紅葉のヒステリーからそう繋がることは大吾の件を見ていても気づくことが出来なかった。
銀河が妹が誰かと関係を持つことを気にかけていたことも、もしかしたら銀河がある程度知っていたということかもしれない。
しかし明香里と大吾がやったと確証が取れたときは正直嬉しかった。本編の明香里の愛が実って良かったと。

また、秋桜と陽一のh後の朝を見返すと、
『……その日の疲れが出たのか、気づいたら寝てた。』
と陽一の中では完全に疲れて寝ただけになっていた。秋桜のポテンシャルが見えて恐ろしい。

薬を手に取り、話しかけないでくれというアクアに、
「...聞いているか、あさひ」
という形で明が言葉を伝え始めていた。本当に良い親子だ。

そうして出会った秋桜に、孤独を埋め合うことは決して悪くないとアクアは生かすことを決める。二人の友情が素敵だった。

ただ一つ気になるのは、ウイルスの持つ全ての記憶が完全な形で発現する問題は、世代を跨ぐ程記憶が混ざり合い、深刻になるのではないかな?と思った。

終盤にはアクアが大吾のことがまだ好きであることが分かった。ほろ苦いが、プレイしてそこまでのダメージは食らわなかった。陽一はこれから大吾を追い越してアクアを振り向かせていくのだと思っている。



・その他ヒロインなど

アリエス
精子バンクからでも陽一の子どもを産みたいと言っている程の熱意が面白い。しかし初恋を追いかける女の子であることを思えば少し応援したくなった。アクアの恋のライバルでもあり、親友でもある。時には力強くアクアが幸せになれるようにサポートしていた。

「おねーちゃんが女の子らしくないんじゃないんです」
「アリエスが女の子らしくなったんです」
にはアクアルートのアフターであることを忘れてしまうくらいにヒロインしていた。

アクアが遂に妊娠したときにはまだ負けてません!と意地を張りアクアに泣かされてしまう。ちょっと同情してしまう。

陽一とアクアと仲違いした際には突然現れた秋桜にも先を越されているんだから救えない。彼女も家に来ていたから、秋桜が来ていなかったら陽一はアリエスに寂しさを埋めてもらったかもしれない。

らまーず法で勝手に落ち着くところがまた見られて良かった。



空港のシーンが印象的だった。
「子どもができたんだ」
「……………」
「………………」
「………………ほぉ?」
と長い間にじっくり顔を驚いたり怒ったり感情を伝えてくるのが面白かった。
しかし祝い事になった娘のようなアクアへ、不器用な彼なりの気遣いも沢山あり、しっかりと考えた名前も授けてくれる。
そんな父にアクアが感謝を述べると数秒無言になり、思ってもみなかった言葉に反応が遅れながら目を見開き驚きつつ、平静を装い直し、静かに笑う。今更照れなくてもいいじゃないという返しにもまた面食らう。この俺が?本当に?という葛藤が見えた。

自棄になって電柱を一緒に倒すことを提案してくるのはかなり笑った。


明香
「ボクは、生涯のうちで出会える人の数が、きっとみんなよりもずっと少ないから」

無印の本編でヒロインとして一番好きだったから、悔いの無いように小さな幸せを見つけていこうとする姿を見て寂しい気持ちになった。

明香アフターがやりたい。



あとがきによると、陽一とアクアはすぐ別れそうという話から派生したらしく、そこからこれだけ重いものが出来たことはすごい。