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比翼れんりさんのアオナツラインの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
アオナツライン
ブランド
戯画
得点
83
参照数
759

一言コメント

駆け出す 明日へのライン

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

タイトルのごとくまさに夏の青春ゲー。王道の王道を往くテーマでありますが、きちんと場面ごとにキャラクターたちの心情を丁寧に追っていることがポイント。友達から恋人へ揺れ動いていく不安定さを横着せずに、視点豊かに描いているのが、全体的に形になっていました。

結が「線」と表現していましたが、出会い、そして横に結び付いていくというのが、青春学園ものの大前提ですね。それが曖昧になっていたり、別のところに尺が割かれていたりと、ここまでテーマを絞らないかぎり表現が弱くなってしまうものにも思います。今作では、主人公のほか、幼なじみと中学校からの付き合いになる男友達の3人グループから広がっていきます。非常におもしろいなと思うのが、海希のほかのヒロインが、ソロの結と他グループから弾かれたことねの2人ということ。くっついたり離れたり、そうやって関係は変わっていくということが、物語のスタートに提示された相関図として巧いなと思わせます。


この作品において、元気印なら海希な気もしますが、結の行動力とパワーはそれ以上に重要な歯車かもしれません。結が転校するきっかけが主人公だったというのは、案外現実味が薄いかもしれませんし、3人の輪の中に入ってくるのもグイグイ来るなといった印象です。ただ、それ以降の仲間たちとの交流では、非常にいい役どころを担っています。お嬢様学校出身とはいえ、その周りにいた友人たちがいい感じに自由である点やそれに引っ張られ彼女自身も奔放な気質になっていて、それでいて教養を持ち合わせていて諭す役回りになる場面もあります。これが結が作品を軽やかに回す歯車になるゆえんで、海希が沈んだときやことねの刺を柔らかくするのも、彼女がいたからこそというイメージがあります。そんな結の個別ルートは、いくら自由奔放とはいえお嬢様ならではの、実家との確執になるのかなと心配がありましたが、そんなことはなく、主人公と彼女自身でよく考えて次のレールを探すもので、いい意味では余韻を残したエンディング。父親がフェスを経た彼女を見て、主人公の後押しをするわけですが、もう少しその辺りの描写や結自身の想いの変遷のエピローグがある構成が個人的には欲しいのですが、こういうフェードアウトする締めかたは意図的なのだろうとも思います。

ことねは刺のあるキャラクターで、共通ルートからマイナスに傾くような役回りが目につきました。いちいちしゃくにさわるような物言いが許容できるかできないかのラインで、最後まで心配になる場面もありました。しかしながら終わってみれば海希に匹敵するほどの大好きなヒロインに育っていき、それは主人公と上手く馴染んだからなのかなと思います。まるで猫のように、なついてからのデレぶりはすさまじく、接触を求めるシーンが多くあるのですが、それがストライクにかわいさを感じました。ルートの主題は、芸能界を目指すことになりますが、主人公をはじめ、周りのアシストが効果的に入ってるのが、ひと夏の成長という意味では大きかったと感じます。成長とはいっても何も特別なことはなくて、ありのままの自分を表現できるように、潜在している部分を引き出すというのが、実は彼女一人では難しかったわけで、それを気づかせるきっかけという意味では、結や海希、主人公たちとの夏はターニングポイントになっているのでしょうね。その前段にあった、前のグループから弾き出される格好になっている部分についても、きちんとフォローが入っており、ことねの気持ちの区切りはついているのが汲み取れます。ラストのスランプ(?)からのストリートライブ、そしてオーディションの流れは好きな展開ですが、シンプルすぎたかなとも思います。ただ課題曲の歌からのエンディング→エピローグに限っていえば、非常に余韻を感じるもので、人によっては「え、ここで終わり?」とも思うでしょうけれど、個人的には絶妙な引きだったと強く思います。

主人公と海希、そして千尋の3人から始まった関係は、いつの間にか5人になり、付き合い始めることで、また揺らいでいきます。海希ルートでは、共通部分や他ルートでも暗に匂わされていた、海希との過去の出来事、千尋の家族が感情的な描き方を交えながら展開されます。これは作品全体に共通しますが、人物の揺らぐ感情を表現すること多く描写されています。何も特別が起こる話ではないだけに、いかに起伏をつけたストーリーになるかが鍵ですが、この心情描写がとてもインパクトがあります。特に海希ルートでの海希、達観、千尋の想いの丈をぶつけあいながら、秘めたる心うちを確かめあい、そしてわかりあっていく様は、この作品の最大の見せ場だと思います。最後に海岸でみんなで泣くのは、不器用な関係性が出ていていいですね。海希が子供の頃との違いを感じ始め、距離を置く時期を経るも、千尋のおかげで学園に入る頃には、この3人の結び付きができているところが、この作品のベースであってスタートライン。そう考えると素直になれない2人の間を仲介していた千尋は非常に重要なキャラクターなのでしょうね。良くも悪くも3人+2人がこの作品のあるべき形なのかもしれませんが、このオリジナルである3人に関しては、この先も繋がっていてほしいなと思います。それにしても海希と本当の気持ちを確かめあって以降のデレは凄まじい…

各ルートのエンディングを経ると、この物語が始まる前の"プロローグ"が始まります。倒置的な見せ方ですが、この夏がいつまでも終わらないように工夫されており、最後まで世界観に浸れる設計なのだろうと思わせます。


コンプしてみると、シンプルなテーマながらも、とことんキャラクター間の関係性を描くことに特化しており、余計なものはないように感じます。それは何も綺麗な青春だけではなくて、それぞれ後悔したり、仲違いがあったりしながら、一歩進む、そんなお話です。海を青く輝かせるためには、空も気持ちも淀みなく晴れていなくては。