恋って なんで 気付いた時 始まってるの
今回の戯画はキスシリーズ寄りの作品なのかなと思いますが、あまりコンセプトのようなものを感じないのが実情です。一応、独自の設定がないわけではなく、天体宮や水の都市など、掘り下げれればいくらでも派生しそうな種はバラまかれています。天体宮は、顔の見えない中で本心を赤裸々に語っていくという、キャラクターの心情を描写していくうえで、とても活用できるファクターだなと思いましたが、顔バレして以降は形骸化してしまい、もったいないなと思います。内輪だけのものだったのが話が広がらなかった要因かなと見え、例えば学園の伝統みたいな位置付けならば、オンオフのきいた展開がされていたように感じます。ま、ノーマルENDでその辺り匂わせていますけれどね。もうひとつ水の町というのも各背景から感じることができ、ベースの世界観は好きです。蛍に関するストーリーもうまく馴染んでいると思いますが、その次に来るものはありません。2つのお祭りがもっとそこに絡んでくると、町の伝統や成り立ちとも繋がった話になっていたかもしれませんが。良くも悪くも、大きく話を広げるつもりはなく、各ヒロインごとの身近な話題にすることを選んだのは、戯画らしいなとも思います。
ひまりは猫村ゆきさんということもあって作中では唯一安心して見ていられるヒロイン。年下の幼なじみの良さを感じるのがルートの特長となるはずですが、それほど描写があるわけではありません。どちらかというと、親の仕事の都合で外国へ引っ越しが決まっているなかで、好きな人と付き合うことにためらいがある女の子というのが、他のルートとの違いになるのかなと。天体宮のメンバーから後押しを受けて、それでも好きな人と付き合う流れは、報われた恋は良いなと思わせます。問題はここからで、何か主人公が行動を起こして、その引っ越しを阻止するのか、追い付く努力をするのか、と思ってルートを進めるも、そのままいったんの別れを経てエンディングという、なかなかチャレンジャーな構成。エピローグで再会できました、めでたし。と思う人はいるのでしょうか。恋は諦めてはいけないというテーマは好きですが、その先に何もないのは、個別ルートとして体を保っているのかも怪しい…
律はほんのり不思議な香りのするヒロイン。キャラクターの形づくりとしては、個性として個人的には好きになれました。個別ルートの展開は嫌いではなく、玲というサブキャラも強すぎず弱すぎずいい立ち位置にいたように思います。その兄妹と家の問題がルートでは主題になりますが、設定としてはうまく機能しているようで、律が両親に理解してもらえるまで説得していくのは見せ場なのかなと感じます。そうすると見せ場なのだから、それほど描写がないのは残念なところ。結果は綺麗に付いてくるのはわかるのでいいとしても、「何度もチャレンジしてようやく了解がもらえました」というのが数十回のクリックでしかなく、過程が弱すぎます。なかなか良さげなテーマを扱っていただけに残念。他のルートとバランスを取ってしまったのですかね。
英梨はどうにも合わないですね。意地を張っているというか、周りもそれは関わりたくないよな、という言動がやっぱり無理。姫月とセットになると、さらに良さがわからなくなります。ルートは親しくしていたお店の店主が高齢で閉めることになって……という、わりとよくあるタイプの話で、それをなんとかするために奮闘していくヒロインと、支える主人公のわかりやすい構図。恋人になるのがエンディングというおもしろい展開ですが、それまでのふわふわとした関係性の中にもいちゃらぶ要素があるならば、それはひとつの完成形だと思います。しかしながら、キャラクターが合わないという致命的な前提があるからだと信じていますが、それにしてもどうもつまらない日常シーンでした。
小さな先輩、小羽は身体の悩みを突き詰めていくのかはと思いましたが、それはさすがになく、家の事情と上級生ならではの進路問題がルートの基本。妹や母親にそれほど出番があるわけではなく、シリアスさが薄いのはいいですね。小羽がひとりで悩みながら爆発してしまうのが、ついていけませんでしたが、その不安定さが等身大なのかもしれません。保育士という夢を追いかけるのは結構ですが、その夢にたどり着く過程が曖昧で、よく捉えきれず、このルートは小羽がただかきみだしただけという印象です。主人公の重要度もそんなにないような。キャラクターは嫌いではないですが、一枚絵では胸がそれなりにあったり、その不安定さも裏を返せば、イマイチキャラが定まっていないような印象もありました。
英梨、姫月と不快なキャラクターがいたのは正直キャラゲーとしては致命傷。何かそれを跳ね返すほどの伏線があれば、してやられたな、とも思えるのでしょうがそれもなし。シナリオで勝負ができていない以上、キャラクターの良さで話を回す必要があるのに、これでは負の感情しか生まれません。ただ、それ以上に厳しいのが主人公。意図的なのかなと思いますが、言動がいちいち気持ち悪いですね。思考パターンが欲望の塊みたいな感じで、久しぶりに引きました。
ストーリーでは、猫がひとつターニングポイントなのかなと思いましたが、それほど重要な場面で登場してくるわけでもなく、どれをとっても中途半端な印象が強いです。ひとつ良かったのはモノローグ。ヒロインの心のうちを描くのに一役買っていました。失恋パターンもあるのもおもしろいですね。それを上手く活かせるだけの構成力はなかったようですが…