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比翼れんりさんの流星ワールドアクターの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
流星ワールドアクター
ブランド
Heliodor
得点
72
参照数
379

一言コメント

蒼い月が見下ろす未来 傷跡隠したアクター

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

暁の護衛やレミニセンスなどでシナリオを担当していた衣笠さんの久々のエロゲ作品。DMM系列ブランドからのリリースですが、良いところも惜しいところも、今まで通りというか。さすがの世界観の設計や、多様なキャラクターたちの相関図の描き方、伏線を張りながらの共通ルート展開など、おもしろいなと思う部分はわりとありました。ただ、あまりにも世界を大きくしすぎたというか、明らかに蛇足なのではと思う設定、描写が弱すぎて回収しきれなかったり、そもそも次に派生していかなかったり、おもしろいんだけどおもしろくないと感じるのもまた一面なのかなと思いました。

警察モノの本作。教団に関わる事件を追うというのが大きな柱でしたが、やはり共通ルートが絶頂になっていたように見えます。レベルの程度こそあれ、複数の事件を通しながら、キャラクター間の横の繋がりが増えていき、それぞれのバックグラウンドも小出しになっていくのが良かったです。厳密には脱落方式ではないかもしれませんが、選択肢次第で順番にヒロインルートに分岐するスタイルで、メインストーリーではなく、そのヒロインに特化し事件を据えているのは、割り切れていて好きですね。

多様な種族がいる世界ということがあるので、ヒロインのひとり、シフォンはセグイット。これはヒロインの差別化を図る意味では効果的でしたね。他のヒロインにはない彼女らしい特徴を活かした個別ルートの場面場面が印象的でした。もちろん戦闘力が高いので、全体的にバトル展開で活躍するのも好きですね。その反面、残念な部分がまた人間味もあってバランスの良いキャラクターかもしれません。話を戻して、個別ルートは置き去りの設定のように見えたセグイットの国とデルーガが再登場する後半がメイン。どうもキナ臭い展開が見えてきましたが、まさかのスタートラインに立つ前にエンディング。これは見事な投げっぱなしでした…

小町は婦警だけど、主人公となんだかんだいい関係。嫌よ嫌よもなんとやら、かもしれませんが、ポルターガイストの一件で随分様変わりしちゃいましたね。普段の態度から、二人きりになった時のデレ具合は、おそらくヒロインの中ではいちばん好きになりました。親の話もそこまで足を引っ張らず、ポルターガイストの件に噛んでいたくらいで引いたのは逆に良かったかなと。シュバルトの秘密を最後回収するくらいは、オマケ的なエピソードと捉えることにしました。基本的には、小町といちゃラブして、赤面するのを楽しめただけで、このルートの意義はあったと感じました。わりと重苦しい世界観と展開でしたので、ほんわか終わるのはある意味良かったのかなと思います。

メルは人ではあるも、他国のお姫様。クーデターに会い逃げてきたのが、そもそも本作の序盤であって、逃れられない布石でした。やはりそれを回収するのは個別ルート。二人の敵は強かったものの、ルート入って以降は、端役に成り下がってしまい、新しい刺客が出てきました。これが確かにパワーがあるのですが、それを案外あっという間に倒してしまったので、その先が何かもうひとひねりあるのかなと思いました。しかしながら、次に繋がるものはなく、ゲノム国で何か動きがあるのを匂わせながら、エンディングは一時の平和。確かに脅威が一瞬は去っていったかもしれませんが、根本的には解決に至っておらず、戸口をかなり大きく開いたわりには、閉じきれなかった印象です。

ラスト固定でクラリスルート。本作はメタ的な発言もチラホラありますが、そこまで違和感に思えないのはいい意味で抜けた世界観のおかげかなと思います。そのいわゆるひとつの世界線であるクラリスの個別ルートで、主人公たち同期4人の過去に触れ、そして教団事件でのクラリスとの関係も回収されます。が、どちらかというとその事件の前のルイーズの一件が回顧シーンでは中心に。最低限の伏線は拾われたようには思いますが、すべてが清算されているわけでは到底ありません。リンダという意味深なキャラクターをラスボスのように扱っていたわりには、今後の展開を示しただけでエンディングとなり、他ルートの追随を許さないほど、何も始まらないうちの終演。メリッサの病など設定をいろいろ派生させるスパイスはあっただけに、かなり閉鎖的な結末に思いました。

同期4人のエピローグは何気に好きで、他国に目を向けず、自国のために戦う意志が見られて、シンプルながらもあって良かったと思うお話。ただやはりクラリスルートを軸としたTRUEがないと消化不良甚だしいのでは。グランドエンディングを第2オープニングに使っても良いくらい音楽全般は良かったのにもったいないですね。正直今作だけでは明らかに未完。何かしらの続編で補完されないと収まらないのではないかと。これでは芥と言われても仕方ないかな思います。おもしろいところは少なからずあるんだけどね。