繰り返す日は何も変わらずに流れて 過去が離れてゆく そんな意識に溺れた
Azuriteからのリリースですが、前作からまた雰囲気は異なり、ダークっぽさよりは魔法や伝奇要素のある不思議な世界観になっていたように思います。
フィクションではありますが、舞台設計やストーリーの端々に見られる題材として「遠野物語」をベースにしているのは明らかですね。
OPが流れるまでが共通ルートで、そこまでにショートストーリー的なサブキャラの顔見せが連なります。本筋というわけではありませんが、説話集のような感覚です。妖異やそれにまつわる話は実際にその地方に残るものも多く、ある程度予習しておくとおもしろいかもしれません。
由岐奈が一応のセンターヒロインかなと思います。そもそもの導入から、落とし物を探しているというのがありましたから。セットで蒔奈が横にいますが、その時点からなんとなく察しは付けられるかなと思いました。由岐奈、蒔奈、ヤマウバとそれらにまつわる過去が物語を進める上でのキーポイントですが、嘘というわけではないけれど、ギミックがいくつかまぎれこんでいました。そして主人公に関する部分でも。結局は現在進行形でのエンディングになりますが、それがハッピーエンドなのかは微妙に思いました。人間というカテゴリーでいいかはわからないけれど、蒔奈として救われるような綺麗なオチまでは意図されないのかもしれませんが、もう少し「あぁ、よかった」と思いたかったです。ただ"未来"に向かうようなラストですので、期待はあるのかもしれません。
みだりは先生に寄り添う淫魔。神道がベースにあるような世界観で、洋モノってどうなのかなとプレイ前には思っていました。そこはあえて"魔法"を使っているからか、変に異種がぶつかることもなく、すんなり物語に溶け込んでいたので、印象的でした。くすはらゆいさんが演じるキャラクターの良さもあったように思います。個別ルートについては、みだり自身をピックアップしたもので、横道に逸れることもないので、ある意味シンプルに見えました。みだりとの関係を改めて見つめる機会として、夫婦釜などの布石を前半に置いていたのも、いいアシストに感じました。エンディングのビデオレター?からの結婚式はストレートな演出ながら、彼女の居場所を示すものだったなと思いました。欲をいえば小さなマリーを登場させてほしかったけれども。
トイレの花子さんは妖異というか怪談?の気もします。これでも水の神であるので、個別ルートでの山場はそれに伴ったものになっていました。共通部分から、その強さと存在感は作中唯一無二のものがありましたが、それが主人公との恋愛によって、悩み、また強くなっていく、ひとつの成長モノかなと思います。話の展開としては、いくらばかりか物足りなさを感じますね。敵が敵になりきれていないのが原因なのかなと思いますが、そもそも明らかにバトルを前提にしていない、主人公時点から言わせれば"調えた"結果とも解されるかもしれません。ただキャラクターとしての花子は作中でいちばん好きなタイプで、ヤるときはヤるスタンスはいいですね。ルートに入ってからデレが如実になるので、お腹いっぱいに感じてしまうところに可否は出そうですが。
ルートロックで最後に白。他3人のルートがベースにあり、紅と主人公との過去、そして"これから"がストーリーの中身になります。白と恋仲になって以降、限界の見えていた現実から、どう目をそらさず向き合っていくかが見所ですね。ポイントオブノーリターンの見切りをどこに付けるかが非常に難しい展開ですが、ある程度主人公も白も、そして紅も"わかっていた"結末なのかなと思います。過去の作品からして、紆余曲折あっても最後にハッピーエンドを作るのが上手いライターさんが企画シナリオでしたので、個人的には幸せなラストを思い描いていました。そこで与えらた、このエンディングが"たったひとつの冴えたやりかた"だったのかは、捉え方次第でしょう。卯子鳥が象徴的に描かれていたように、円環の先に訪れた世界は地続きになっているものと信じたいですね。魔法や妖異といった、現代からすれば非現実の世界の摂理から外れることなく、きちんとその中で決着がついたことは、ただむやみやたらに奇跡を起こすわけではなく、正解だったように思います。しかしながら、予想がついてしまう部分や単調なところも少なからずあり、意外性のひとつでもあってよかったかなと感じました。
このときが、ずっと続けばいい。こんなにも、世界は美しいのだから-