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比翼れんりさんのアメイジング・グレイス -What color is your attribute?-の長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
アメイジング・グレイス -What color is your attribute?-
ブランド
きゃべつそふと
得点
78
参照数
657

一言コメント

Ready to sing… wish a merry amazing grace!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

きゃべつそふと渾身のデビュー作に続く2作目は、シナリオに冬茜トムさんを器用しました。冬茜トムさんといえば、Lump of Sugar系で、シナリオ実績がある方で、個人的にはかなりタイプのライターさんです。前作の残像も、ちらつきつつ、それでいて期待を持って購入を決めた、そんな感じです。結果的には「さすが」と言うべき、切り返しを見たわけです。

ネタバレ注意と言っているので、核心を交えて振り返ってみますと、まず異質な世界観が印象的でした。ある意味での「箱庭」は、冬茜さんの作品では、わりかし取り上げられ、限られた枠内で、話を展開させるのが、難しいとわかっているけれど、かなり上手いと感じています。今作も、外から導入を切っ掛けに、そんな世界の核心に迫っていく、という流れですね。

「エンドレスクリスマスADV」と謳っているだけに、クリスマスに起こる災厄、アポカリプスを阻止するために、何度もやり直す、というのが、主人公とユネであり、ここでユネがメインに据えられたのは確定しました。フローチャート的に全体を俯瞰すると、いわゆる階段方式で、大きな芯がひとつメインストーリーとしてあり、派生して各ヒロインとのエンディングを向かえるという構図です。

全体的にそうですが、大がかりな「事件」を用意しているにもかかわらず、人の死まで描写されているわけではありません。対ヒロインに対しては、いわゆるバッドエンドではなく、ひとつの正解を示していることで、シリアスすぎないラインで踏み留まっているのかなと思います。先も言ったように、ユネが主であり、派生するキリエやコトハは、アフターストーリーと合わせて、ひとつの意味では救われたエンディングなのでしょうか。またひとつの意味では否でもあって、それが次に繋がる布石でありました。

こういう構成のシナリオならば、ルートロックがなければ、一気にメインストーリーをクリアしてから後々派生エンディングを回収する人と、反対にひとつひとつエンディングを拾いながら終幕に向かう人と分かれそうですね。僕は後者です。先が気になるのは確かなのですが、枝分かれする行き止まりにも、少なからず意味があるわけで、それが次へのステップになっていたりして、一歩ずつ進んでいく感じが好きなんだなと、自分のことながら思います。今作では、失敗を繰り返しながら、後半に向かっていき、伏線が出てきては、その上にまた伏線が出てくるループで、そこが冬茜さんらしくもあり、おもしろかったですね。

終章になっていくと、別に犯人探しゲーとか推理ものではないと思うのですが、伏線ゲーとして、リンカの存在と主人公の正体、サクヤと首謀者、リリィとこの町の真相、とまあポンポンとほつれていた糸が解けていきました。不思議な世界観だっただけに、実際の地名が出てきたのはちょっと興醒めでしたが、全体的なモヤは晴れたなと思いました。それこそ「芸術は爆発だ」ったわけで、ある意味芸術を極める者の極地のような、行き着く先が、アポカリプスだったのかなと感じます。アポカリプスが解決した後の展開ですが、実行者はいるものの、その根源たる人物がいないので、第2波、第3波がなく、"奇跡"で終わってしまいました。これも冬茜さん「らしい」といえば「らしい」わけで、最後はみんなでハッピーエンドが約束されているからこそ、キャラクター1人に与えられた役割が大きく取られているのだろうと思います。ユネにしろ、キリエにしろ、コトハにしろ、サクヤにしろ、他のサブにしろ、ね。

コンプ後に作品全体を見通してみると、旧態依然な世界を求める思想が閉鎖的な箱庭を作っているのは、非常におもしろい視点でした。作中で言われるアポカリプスこと「世界の終わり」は、何も物理的なものではなく、芸術としてのものであるというのは、実は盲点なのかなと思いました。変革というトリガーは、いつ現れるかわかりませんが、そういう世界を作るための徹底的な作り込みに隠された因子も伏線であったわけで、当たり前という読み手の意識が根底にあるならば、爽快な裏切りを見せられたように思います。

と、各ヒロインに対して、何か思い入れがあるというよりは、1人としての使命や役割の集合と狭いようで実は広かった世界観で、最後まで走りきったというのが、正直な感想です。張られた伏線はおおむね回収されていますが、暗に深く掘り下げなかったファクターもあり、それは読み手に託されているのかなと思います。

後は「外」の描写でしょうか。メインの話は「内」なので、それでいいのですが、「外」が意識し始められた後半やアフターでも「外」が語られる描写は、かなり弱く、意図的なのかなとも感じ得ます。「内」が「外」を意識しないのはいいとして、反対に「外」が「内」を意識する描写も見えてきていいような気もします。特にユネアフターで顕著ですが、どういう経緯で、彼女たちは「内」に入ったのか、家族はどういう考えの元だったのか、そもそもこういう町がなぜ許容されているのか、等々。あまり深く突き詰めるのもナンセンスでしょうけれど、せめても町の行く末だけは気になるなあ。