想いがひとつに交わる時に見つけた輝きはきっと色あせない
乙女シリーズでありますが、タイプは違うものの「お嬢様はご機嫌ナナメ」を彷彿させる一強、蘭を筆頭に、バランスがよく個性が光るヒロインたちが脇を固めています。このブランドにおいては、ヒロインは良いものの、無駄足になる展開や謎のシリアス、不快なキャラクターなど、マイナス要素が目立つこともありましたが、今作はそれらがほぼなく、久しぶりに純粋におもしろかった、と言えると思います。(前作がまったく合わなかったという反動もあるけど)
「女装主人公が学園に」というのが、毎回スタートの定番であり課題ですが、蘭という最強ヒロインの身代わりになっているというベースを置いているので、わりとすんなりとストーリーに馴染んでいったように思います。大まかな構成として、ブライトとクレセントというエスカレーター組とそれ以外の対立ではないにしろ、壁があるわけで、それを取り払うために、どちらサイドで主人公が動いてくのかにわかれます。
こころはロリ枠であって、中の人効果もあってかなりタイプのヒロイン。生主として、普段では表現できない自分を表現しているわけで、それが秘密なわけですね。主人公が男であることと等価交換のように、主人公も一緒に出演するようになり、それで学園の生徒たちも距離が近づいていくと、かなり滑らかな展開。話が重くなることもなく、終始楽しい日常で、無駄なことをしなかいから、これだけで十分な感じ。今の時代ならではのルートであり、案外新鮮味があったのも良かったように思います。
もう1人のクレセント側ヒロインである渚はどちらかといえば好きな方です。が、そのキャラクターから繰り出される展開はちょっと着いていけなかったですね。そもそもの個別ルートの導入である部屋のシャッフルについては、主人公との仲を深める意味でもおもしろい切り込みだと思いましたが、よくよく考えるとこれが普通に馴染んでしまう学園ってどうなの?って感じがあります。拒否できるにしろ、同室パートナーを決めるのにこんな方法は… ルート終盤では境がなくなってきているのが見てとれそこは良かったですが、ラスト謎のシチュー理論の演説は失笑すら出ないほどの斬新さでした。
涼花はこれぞ典型的なお嬢様会長。正確には会長代行なのですが、そのあたりの回収をルート終盤に持ってくるのかな?と思ったらそんなこともなく、ちょっとしたメッセージのみで終わりってのは残念。その他でルートの核になるストーリーがあったのかというと、際立ったものは特に見つからないです。エッチに積極的になるお嬢様というのが特長といえば特長かもしれませんが、あまり涼花だからこそという話でもないように思います。漠然と「依存から脱却」のイメージが後半の軸にも見えましたが、これも大して続かず、全体的に目立った場面はなかったように感じました。
せせなやう先生が好きなこともあって、雫音ルートは楽しかったですね。他のルートではあまり印象に残らなかったのですが、いろんな表情を見せるようになる個別で一気にまくった感じです。主従関係やらシャッフルやらは強引な気もしましたが、関係性を近付ける意味でのアクセントになっていました。メイド服を着せることで素材の良さを引き出したのも好感触。キャラクターが好きになれたのでそれだけで満足でしたが、ラストのCGの笑顔は反則かというくらいかわいい。ストーリーに関しては、終盤のお茶会でのハプニングから解決までがあっさりで、そのあたりがいくらか盛られてると文句なしでした。
武藤此史先生の描くキャラがとても好きなので蘭とユウのコンビは共通ルート最初から個別ルート最後まで楽しかったです。蘭のキリッとした表の顔と主人公だけに見せる女の子らしい表情とそれに乗せた声は抜群にストライクで、久々に文句なしといえるヒロインでした。入れ替わった時のユウに成りすましている蘭も、また別のかわいさがあり、何を取ってもパーフェクトとしか言えなくなってしまいました。そもそもヒロインと入れ替わりの立ち絵まであるあたり作り手の入れ込み具合が伺えます。個別ルートの山場になる、合唱前の身バレは、彼女らしいブライトとクレセントの壁の壊し方で、博打みたいな解決方法でしたが、これが蘭にはしっくり来るのかなとも思います。
そして、そもそもの原因とは言わないまでも、この作品の裏面に居た彩春について、個別ルートというほどではないもののExtraルートがありますね。今までのensembleではおそらく回収しなそうな部分をきちんと拾って、正ヒロイン個別ルートとの伏線も機能しており、短いながらも意味のあるお話だったように思います。
この作品の結論からすると、蘭がすべてのお話。蘭やユウを中心にストーリーが派生していく構成で、これ自体は今までのensembleでしょうが、ひとつひとつの話題を重くしすぎず、簡潔に、しかも中身は他作と比べてそれなりにあったように感じました。話の展開のさせ方や演出方法も今までと異なり、これは良かったと思います。シリーズものという括りになるのでしょうが、この傾向で今後も継続してほしいですね。