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比翼れんりさんのはるとゆき、の長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
はるとゆき、
ブランド
あかべぇそふとすりぃ
得点
71
参照数
787

一言コメント

もしまた君に出会えるのなら いつか来るその日を受け入れよう

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

中島大河さんがシナリオ担当までするとなると久しぶりのフルプライス作品です。大河さんの関わる作品の根底にある「生」と「死」のまさに狭間を切り取ったようなお話でした。

世界観として、死んでいる者で未練を残した者が集まる旅館、というのが大きなファクターとなります。働いている者や訪れる者、それぞれの抱える未練に対して、どういうように向き合っていくのかが、終始のテーマになりますね。何でもござれの世界にあって、あまり詳細を突き詰めるのは、ナンセンスかなと思います。ヒロインとどう向き合って、問題を解決するのか、どうエッチをするのか、にある程度絞って読み進めるのがいいかもしれません。

咲奈は、一見サブ要素が強そうに見えて、案外主人公の核心に迫る重要なキャラクターですね。とても良い設定であるも、その性格からか、一歩踏み込んだ話に繋がらず、全体的に印象の薄い個別ルートに思いました。繋がりという意味では、いちばん中身のある話になりそう
なのだけれど、過去描写や背景の語りが弱く、あえて現在にスポットを当てているのかなと思うくらいでした。また、結衣菜さんの起用は新鮮で良かったと思いますが、幼さを孕んだボイスにキャラクターが合っていないように感じ、終始違和感がついて回ったのは残念です。

小羽は咲奈とは違った意味で、消極的なヒロインですね。その性格のバックボーンとして、育ちが影響してくるわけで、その補足は入るものの、やはり弱いですね。どちらかというと、まことを軸に話が回る後半が、見せ場なのだとは思います。まことの未練を昇華させる一連の流れや生前の後悔を晴らすくだりは嫌いではないですが、個別ルートに照らした小羽の成長は、あまり表面に感じるものではなく、エピローグも綺麗すぎた印象を受けました。とてもいい素材を使ったルートであったと思いますので、もうひとひねりあると驚きになったのですが。

ネコは唯一死んでいるヒロインということで、少し趣の異なるストーリーです。生前の彼女自身の家庭環境がベースになった未練と、それに合わせた個別ルートの後半となります。あくまでも死んだものは生き返らない前提のもとで、両親との再会?を果たすあたりは、上手くまとまっていた印象です。いちヒロインとすると、死んでいる主人公との恋愛に終わり来る、という不思議さ満点の内容であり、猫として転生…? という流れも置きにいったシナリオに見えてしまいました。設定を生かしたお話だっただけに、少し淡白なイメージは残りました。

やはりというべきか、メインストーリーは傘でした。いちばん最後に攻略して正解ともいえます。ただ、傘自身というより主人公の未練、そして過去の出来事にかかるお話が中心であって、傘に限らずどのヒロインでもなり得た個別ルートに思いました。それこそ咲奈の立場と照らし合わせた方がストーリー的には馴染む気もしましたが、あくまでも伏線のひとつとして扱いたかったのでしょうか。肝心の主人公の生前の話は、シンプルながらストレート。咲奈ルートでも少し触れられていましたが、すっきりと回収した感じです。都合よく"退職"しないということもなく、きちんと敷設したレール通りにエンディングまで流れたことは印象的です。エピローグもネコルートなどとリンクして、効果的な余韻を残しているように思いました。総じて締めくくるにはふさわしい個別ルートでした。

はるとゆき、というタイトルを考えると、やはり大河さんの言葉を"作る"力が印象に残りました。死後を描きながらもシリアスすぎないタッチでストーリーが流れたのもよかったですね。ただ、自らの設定した「旅館」というある意味の閉鎖空間で、どこまで話が広がったのかは微妙なところ。あくまでも"受け"の世界観が先行してしまい、何かを起こすために外に踏み出す、ということが少なかったように思います。それも「いろんな人や事を引き寄せる不思議な旅館」だからと言ってしまえば、それまでなのでしょうけれど。個人的には、嫌いではないけれど、好きとも言えなかった、というのが感想です。